シュークリームから生まれた新「LaVie J」のたたずまい青山祐介のデザインなしでは語れない(1/3 ページ)

» 2008年04月04日 11時11分 公開
[青山祐介,ITmedia]

 2008年2月に新しく生まれ変わったNECの軽量ノートPC「LaVie J」。見た目から耐荷重の高さを主張する凹凸が付けられた従来のデザインから一転、光沢のある黒いプレーンな箱となった新デザインは、これまでとはまったく違う手法で生み出された。


本当に「うれしいこと」を具現化した新LaVie J

ガラリと生まれ変わった新LaVie J

 NECが満を持して投入した新LaVie Jは、頑丈で軽量なモバイルノートPCというコンセプトはそのままに、フルモデルチェンジがなされた注目製品だ。機能や性能、実際の使い勝手はこちらの記事に譲り、ここではデザイン面に着目していく。

 同じ堅牢性をうたうモバイルノートPCでありながら、これまでとはまったく違った表情を見せる新LaVie J。これは、デザイナーの感覚や作り手の思い込みを捨てて、本当にモバイルノートPCに必要な要素を探し出した成果だ。「かっこよさ」というものはユーザーそれぞれの好みによって違いがあるが、「うれしい」ということには普遍性があるととらえ、本当に「うれしいこと」を具現化した結果、本質的なデザインを見い出すことができたという。このデザイン手法について、担当デザイナーであるNECデザイン プロダクトデザイン1 エキスパートデザイナー 河崎圭吾氏に話をうかがった。

これまでと同じ手法ではライバルに勝てない

 ここ日本おいて、LaVie Jが属するモバイルノートPCは常に人気が高いジャンルだ。最近では各社から力の入ったモデルが登場し、軽さや長時間駆動、そして堅牢性を競い合っている。特に耐衝撃性能については、数値だけでなく視覚的にもこの部分を訴求するモデルがあり、その筆頭格がパナソニックのLet'snoteシリーズだ。実際、従来のLaVie JはこのLet'snoteシリーズの特徴である、ボンネット天板に似たデザインを採用していた。

ボンネット構造を採用した従来のLaVie J(グレー)と、フラットデザインの新LaVie J(ブラック)。見た目もカラーリングも一新されたのが分かる

河崎 「Let'snoteが、モバイルPCというジャンルですでに大きなシェアを占め、定番製品となっている。デザイナーとしては、Let'snoteシリーズを超える製品を作りたい。そのためにはデザインのステップアップを今よりも一気に3段階上げていかないと追いつかない!」という危機感がありました。今までと同じデザインのやり方では到底間に合いません。そこで今回はまったく新しいデザインの進め方、とらえ方に挑戦しました。

NECデザイン プロダクトデザイン1 エキスパートデザイナー 河崎圭吾氏

 NECのデザイナーである河崎氏が、同じ組織の中において従来のデザイン手法を否定するのには訳があった。実は河崎氏はPCのデザインをするのは今回のLaVie Jが初めてだという。それまでは5年ほどアメリカで活動し、そこで得た経験が今回のLaVie Jのデザインを実現した原動力となったのだ。

 河崎氏によると、アメリカのデザインスタジオには、アメリカ人だけでなくヨーロッパをはじめ、世界各国のデザイナーが集まっているそうだ。そんなグローバルな環境の中で、文化や考え方の違うデザイナーがとことん話し合い、限られた時間の中で新しい価値を生み出していく。そこにはNECのデザインの進め方とは違う仕組みが存在していたという。

LaVie Jのモックアップ。通常、新モデルのデザインでは2Dの絵を描いてからモックアップ(3D)を作成するが、河崎氏はまずモックアップを作った

河崎 例えば、デザインアイテムによって異なりますが、1週間に5日仕事をするとして、そのうち3日はデザイナーが集まってブレインストーミングをします。ブレインストーミングに欠かせないアイテムが、コーラとコーヒー、そしてピーナッツとクッキーです。共通の問題解決に向けて、同じ甘いお菓子を食べながら気持ちを1つにしてリラックスした状態で脳の活動を最高の状態にするわけです。そこから出てきたアイデアを検討するために、すぐに簡単なモデルが作られ、再びみんなで確認し合います。1つのアイテムに対して常に話をしながら新しいアイデアを出し合う。ある人が出したアイデアに感化されて自分もさらに新しいアイデアが生まれてくる。日本の感覚では、何かテーマを与えられたら1人でキレイな絵を描いて、となるのですが、アメリカではキレイな絵を描くのは1番最後です。まず問題を明確にし、それを1人で解決するのではなく、デザインをはじめ、設計や企画など各担当者が随時集まってアイデアを出し合って解決していく。それをできるだけ早い段階でやればやるほど、革新的なアイデアを実現できる可能性が高まるというわけです。

 NECのこれまでの手法では、製品の企画が決まるとデザイナーに依頼があり、それに対してデザイナー個人の回答としてデザイン画を描き、モックアップを作り、そのうえで、設計に取りかかる。すると、デザイナーの考えるデザインが設計上では不都合になることもままあるが、それがいざ設計を始めた段階で問題として顕在化する。そして、問題に気付くのが遅くなればなるほど、解決できずにデザイナーと設計双方の妥協が重なってしまうわけだ。

 そこでこういった問題を、開発に携わるメンバー全員が早い段階から共有して、ブレインストーミングを行い、アイデアを出し合って整合を取ることができれば、問題を解決できる可能性が高まり、よりよいものができあがる。ここで重要になるのがシュークリームの存在だ。というのも、河崎氏がいろいろなお菓子を試した結果、日本でのブレインストーミングではシュークリームが最も効果的に機能したからだという。

LaVie Jのデザイン画。河崎氏は「本当は描きたくなかったのだが、社内のプレゼンテーション用に嫌々で作らされた」と冗談交じりに言うが、なかなか興味深い仕掛けが見える

河崎 デザイナーって、デザインということを意識したり、自分がデザイナーであると思ったりした瞬間に、何をデザインしていいか分からなくなるし、ろくなモノしかデザインできなくなってしまいます。ある意味、ライターさんのような、物事の中心から一歩引いたような感じで、問題をとらえていくと、デザインの本質が見えてくると思うのです。僕の感覚でいうと、設計者も企画者もみんな優秀なデザイナーだと思っています。デザインに行き詰まるとすぐにみなさんに集まってもらい、アイデアを出し合います。それを整理整頓してアレンジするというのが僕の仕事だと思っています。

 設計者や企画者との打ち合せのときに、よくみなさんが僕に「河崎さんはこうやりたいんでしょ?」と聞いてきます。そのようなときはいつも「僕が求めていることではなく、お客様が求めていることです」と答えています。「僕の趣味で言っていることではありません」と。

 従来のやり方だと、デザイナーは「こうでなければならい!」「こうして欲しい!」「何でできないんだ!」と主張して、設計者とケンカになったりします。結局打ち合せには行くけど、ケンカして帰ってくるだけでは何の意味もありません。だから僕はよくこういう場にシュークリームを持って行って、ワイワイと話をしながらいいアイデアを出してもらうようにしています。

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