プレゼンテーションで振り返る“Apple=ジョブズ”スティーブ・ジョブスは“役者”でもあった(1/3 ページ)

» 2011年08月26日 09時00分 公開
[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]

アップルの文化を育てた“ジョブズのプレゼン”

 すでに多くの記事で紹介されているように、米Appleは8月24日(現地時間)、スティーブ・ジョブズ氏が同社CEOを退任すると発表した。後任にはCOOだったティム・クック氏が就任し、同日付けでボードメンバーに参加する。

 現在、ジョブズ氏は病気治療のためCEOとしての主な業務から離脱し、重要な決定にのみ関与するのみで、ほかの日々の業務はクック氏に引き継いでいる。そのため、クック氏が後継CEOに就任するのは順当な人事といえるだろう。だが、CEO退任後もジョブズ氏はアップルAppleにとどまり、取締役会の会長 兼 ディレクターとして采配を振るうことになる。

 ジョブズ氏がボードメンバー、ならびに、アップル関係者に宛てた手紙(原文は、こちらから読むことができる)に、「私がCEOとしての責務を負えなくなったとき、皆さんにまず最初にお伝えすると約束していたが、ついにその日が来てしまった」とあるように、来たるべき日がついに到来したことが本人から告げられている。ジョブズ氏が30年以上にわたってアップルと歩んできた歴史に、自分で1つの区切りをつけたといえるだろう。

 倒産寸前にあったアップルを再生させ、2011年8月には時価総額で世界トップの企業にまで成長させたジョブズ氏の手腕は、シリコンバレーのみならず、世界全体でも伝説の1つになっている。iMacとiPod発売以後は、順調に業績を伸ばしている。その理由にはいろいろな事象とアイデアと決断と、そして人物が貢献していると思えるが、その1つに「ジョブズ氏が行うプレゼンテーション」は間違いなく入るだろう。

 個人的な経験で申し訳ないが、筆者が始めてジョブズ氏のプレゼンテーションに接したのは、2004年1月のサンフランシスコのMacworldだった。そのときが初めてのアップルイベント取材で、同社の製品にかんする知識も乏しければ興味もそれほどなく、アップルとユーザーが作り上げてきた一種独特な文化にも触れる機会はなかった。

 それゆえ、プレゼンテーションが始まった当初は、新機能を紹介したりデモを行ったりするたびに歓声が湧く会場に奇異なものを感じていたぐらいに“否定的な”筆者だったが、ジョブズ氏が語るプレゼンテーションの魅力的で、かつ、分かりやすい説明に引き込まれ、それ以降、MacBookからiPhone、iPadに至るまで、アップルに浸ってしまうほどに影響を受けてしまったことは否定できない事実だ。

 ジョブズ氏のプレゼンテーションにおける特徴の1つは、ストーリーのシンプルさにある。与える情報量を絞り込み、絵で、動作で分かりやすく説明する。ここで提示されるのは“概念”や“思想”のような形のないものではなく、あくまで目の前にある製品の概要やメリットを伝えるものだ。プレゼンテーションを聞いたユーザーがその説明通りにApple Storeの店頭で実際に製品を試してみれば、自分でもジョブズ氏がいっていたメリットを理解できる。

 カタログデータの説明に終始しがちな製品の説明を、聞いた人に「実際に触ってみたい」と思わせるところがポイントだろう。現状、AndroidやWindowsといったプラットフォームではスペックシートによる製品比較がよく行われているが、こうしたものとは一線を画す「使って楽しい」「便利さ」に比重を置いたところにジョブズが行うプレゼンテーションの特徴であり、そして、そこにアップルのよさがあって、それが広く認知されてユーザーの増加につながっている。

 筆者以外にも、こうして、ジョブズ氏の魅力からアップルの世界にいざなわれたユーザーも多いと聞く。アーリーアダプタと呼ばれる人たちの多くをひきつけ、回りにアップル製品を勧めるオピニオンを数多く産出するのに大きな効果があったことは、ジョブズ氏のプレゼンテーションがアップルの成長に大きく貢献した成果の1つだろう。

 そのプレゼンテーションに登場したジョブズ氏の姿を、2005年以降からから“転換点”となった場面を写真で紹介していこう。

アップル CEO退任を発表したスティーブ・ジョブズ氏(写真=左)。アップル創業当時の記念写真。写真の人物は、左がスティーブ・ウォズニアック氏で、Apple Iのキーボードに触っている右の人物が若かりし日のスティーブ・ジョブズ氏だ(写真=右)

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