Windows 8を目指すARMの「CPU&GPU」戦略ARMで省電力と処理能力を両立する(2/3 ページ)

» 2011年11月16日 15時00分 公開
[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]

ハイブリッドな構成で処理能力と省電力は両立する

 興味深いのは、プロセッサの能力強化に対するARMの考えだ。同社は「Cortex-A15」というクアッドコア対応のアプリケーションプロセッサコアを擁しているが、最近になって「Cortex-A7」という小型で省電力なプロセッサコアを発表している。Cortex-A7は、現状で一般的なARMコア(Cortex-A8)と比べて5倍の電力効率を実現しつつ、さらに、最新のプロセスルールの採用で5分の1という小サイズに収まっている。それでいて、パフォーマンスはCortex-A8をわずかながら上回るという。

 Cortex-A7の実装では、プロセッサダイの面積が少なくて済む。例えば、Cortex-A15のように広いコア面積を必要とするプロセッサに追加で組み込んでも、ほとんど影響を及ぼさない。これを利用して、スマートフォンなどに搭載して、メールチェックやアイドル中などはCortex-A7を用い、ゲームなどの重い処理でCortex-A15を利用することで、「通常動作時は省電力だが、必要に応じて高パフォーマンスなプロセッサ」がSoC上で実現できるようになる。ARMでは、これを「big.LITTLE Processing」と呼んでいる。

ハイエンドコアとして発表された「Cortex-A15」に、小型省電力の「Cortex-A7」を組み合わせることで、通常の動作時は省電力だが必要に応じて高い処理性能を引き出せる「big.LITTLE Processing」と呼ばれる機構を搭載する。これにより、相反するプロセッサ処理の動作特性を1つのSoCで実現できる

 さらに「Mali」と呼ばれるグラフィックスコアを組み込めば、CPUの処理負荷を減らし、適時最適な処理をCPUとGPUで振り分けることで、効率的な運用が可能になる。ここで、GPUが担当する処理は、2D/3Dグラフィックスや動画再生だけでなく、トランスコーディングや浮動小数点演算など、GPUコンピューティングとしての利用も含まれる。異なる性質のコアをSoC上に混載することで、一種のヘテロジニアスなプロセッサコアを実現しようというのがARMの次世代プロセッサに対する考えといえる。

 また、これは、64ビット命令をサポートするARMv8アーキテクチャ採用のほか、これら技術の応用で「電力処理効率の高いサーバ/HPC」を実現しようという試みなど、数年先を想定したアーキテクチャ構築も見えてくる。いずれにせよ、ARMのエコシステムが本格的に面白くなるのは、これらアーキテクチャが登場する2012年から2013年以降にかけてということになるだろう。

ARMではCortex-A15+Coretex-A7というCPUコア同士の組み合わせだけでなく、Maliのグラフィックスコアも組み合わせて「GPUコンピューティング」を行わせることで、さらに効率的にプロセッサのパフォーマンスを引き出そうとしている。これも一種のヘテロジニアスコア戦略といえるだろう(写真=左)。ARM TechCon 2011で発表された「ARMv8」アーキテクチャは、現行のARMv7が32ビットベースなのに対し、64ビットベースの処理をサポートし、より処理負荷が高く安定動作が求められるサーバやHPC分野への採用を目指している。現在、サーバ分野ではより省電力で実行効率の高いソリューションが求められつつあり、これにARMを適合させようというのが狙いだ(写真=中央、右)

ARMの考えるGPUコンピューティングとヘテロジニアスコア

英ARMモバイルプロセッシング部門製品マネージャのスティーブ・ステール氏

 ARM Technical Symposia 2011の個別セッションでは、「Mali」で採用したGPUアーキテクチャの解説も行われている。このセッションで説明を行った英ARMモバイルプロセッシング部門製品マネージャーのスティーブ・ステール氏によれば、ARMの利用分野拡大とともにメディア処理に対する要求性能が上がり、これを満たすべく機能強化を進めていったのがMaliの歴史だという。ARMでは現在、「Mali-T604」というグラフィックスコアをリリースしており、Symposia開催直前の11月10日には「Mali-T658」という最新コアを発表した。Mali-T658自体は、Mali-T604からシェーダコアの数を増やし、処理能力にして4倍のパフォーマンスを実現した機能強化版になっている。Mali-T658は、2012年後半に搭載製品が登場するCortex-A15世代をターゲットにしたグラフィックスコアだが、ちょうど同時期に発売が見込まれる「Windows 8」を意識している印象もセッションの説明からうかがえる。

 例えば、Mali-T658では、DirectX 11のサポートを予定している。DirectX 11のサポート自体は、同じ「Midgard」アーキテクチャを採用するMali-T604でも表明していたが、現時点でARM上で動作するWindows OSが提供されていない以上、Windows 8をターゲットとしているのは間違いない。Mali-T658は、シェーダコアの数でMali-T604の2倍、パイプラインで2倍、トータルで4倍の性能向上をうたっており、PCゲームなど大量の描画演算処理を要求するアプリケーションでは、Mali-T658の利用が推奨されることになるだろう。また、PC以外でも、4K2Kのような次世代テレビでの利用も明記しているなど、高度なメディア処理を要求する機器向けの標準グラフィックスコアとして訴求する考えとみられる。

現行のARM製GPU「Mali-T604」から採用された「Midgard」(ミッドガルド)アーキテクチャは、1080pのフルHD再生を十分にこなせるメディア処理能力をもち、さらに、ステレオ立体視再生やAV機器などさまざまな用途での活用を目指す。従来のUtgard(ウトガルド)アーキテクチャと合わせ、名前の由来は北欧神話だ。これは、Maliの開発チームが北欧にあることに由来する

Midgardアーキテクチャでは、グラフィックス処理能力だけでなく、DirectX 11のDirectComputeやAndroidのRenderScript、OpenCLなど、いわゆるGPUコンピューティング用途が重視されている

同じMidgardアーキテクチャを持つMali-T604とMali-T658のスペックを並べると、シェーダコアが倍になり、パイプラインが倍になっているなど、単純比較で処理能力が4倍になっている

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