だが、実際のところ、Mali-T658でDirectX 11を活用する最新ハイエンドPCゲームを処理するだけのパフォーマンスを出せるかは未知数だ。DirectX 11ではテッセレーションなどの処理をサポートするが、これをどこまで汎用のARM搭載モバイルデバイスで動かせるかは、実際の製品が登場して確かめるまで分からない。ただ、ARMは、Mali-T658におけるGPUコンピューティングのサポートについて強くアピールしており、DirectX 11についても、どちらかといえば「DirectCompute」のようなGPUコンピューティング処理APIのサポートを意識している可能性が高い。
セッションではこのほか、AndroidのRenderScriptやOpenCLについても言及しており、グラフィックスコアを並列計算ユニットとして利用し、CPUの処理負荷を低減し、処理効率を向上させる仕組みを解説している。ARMベースのプロセッサでも、ヘテロジニアスコアとしてCPUとグラフィックスコアを共存させ、処理を最適なコアに適時割り振る仕組みを構築し、この仕組みの活用を開発者にも推奨していくというのが、ARMが考える戦略のポイントだ。

CPUとグラフィックスコアで処理能力の違いを比較し、両者の長所を組み合わせることで、より高性能なSoCを実現できるのがヘテロジニアスコアのメリットだ。ARMでは、“big.LITTLE Processing”の考えも組み合わせ、Cortex-A15とMali-T658で「通常動作時は低消費電力で動作し、必要なときは最大限のパフォーマンスを引き出せる」プロセッサの開発を目指しているARMとしては、次のCortex-A15世代でSoC内にCortex-A7とMali-T658を同居させ、これを高速なインターコネクトで接続して“省電力な高性能プロセッサ”を実現したい。なぜ、この組み合わせを強調するのかといえば、ARMのビジネスがIPライセンス方式であり、どのコアを採用してSoCを制作するかは半導体メーカー各社の判断に委ねられている点にある。
例えば、Qualcomm「Snapdragon」で使われているのは、「ARMv7命令互換」のQualcomm独自開発CPUで、グラフィックスコアの「Adreno」も同社オリジナルの製品だ。また、NVIDIAはARMベースのTegraシリーズを販売しているが、CPUこそCortex-Aベースを採用しているものの、さすがにグラフィックスコアはGeForceベースのオリジナルとなっている。
だが、プロセッサコアの設計コストは年々上昇しており、メーカー各社が独自のコアを開発し、実装する負担も重くなっている。メーカー各社にはARM IPのコア採用を促し、競合との差別化、ならびに、その特徴の1つとして今回のような「CPU+GPUの高性能SoC」といった組み合わせを、これからのARMは訴求し続けていくのだろう。
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