そこで、NVIDIAはCrayやCAPS Eneterprise、Portland Group(PGI)などとともに、CPUとGPUを連携する新しいプログラミング規格となる「OpenACC」を立ち上げた。このAPI規格は、既存の並列演算プログラムなどにディレクティブ(プログラムに埋め込むコンパイラへの命令)を加えることで、GPUによって高速化が可能なプログラム領域を特定し、同プログラムを再コンパイルし直すことで、大幅なパフォーマンス向上を図れるようにするものだ。これまでのGPUコンピューティング環境は、プログラミングの難解さが最大のネックとされてきたが、OpenACCが用意するAPIにより既存のプログラムでGPUアクセラレーションを適用できるようにできるため、短期間で並列演算プログラムを構築できるようになるわけだ。
これを受けて、Crayは、同社が開発を進めているスーパーコンピュータ「Titan」でNVIDIA製GPUをアクセラレータとして搭載することを表明したほか、PGIはFortranやC/C++言語向け高性能並列コンパイラで同規格に対応したことをアナウンスし、NVIDIAのWebページ「2x in 4 weeks」で1カ月間の無償トライアル版の配布も開始している。
GPUを並列演算処理のアクセラレータとして活用するメリットは、HPCに限ったことではないとファン氏はアピールする。基調講演の中で、ファン氏は、ワークステーションPCに演算処理用のTeslaとグラフィックス処理用のQuadroを搭載したNVIDIAのGPUアクセラレーションソリューション「Maximus」のデモを披露しているが、Maximusでは、演算負荷が大きなときはQuadroにも負荷を振り分けることで、これまで大規模サーバなどに演算を任せなければならなかった流体シミュレーションやCGフィルムメーキングも、リアルタイムで処理できるようになるとして、並列演算処理におけるGPUアクセラレーションを、より多くのデバイスで活用できるようにする考えを示した。
その上で、ファン氏は、より多くのプログラムでGPUをグラフィックス処理だけでなく、演算処理にも活用できるようになれば、携帯デバイスやゲームコンソールの性能も飛躍的に向上できると述べている。2019年に20メガワットで1エクサFLOPSを実現できれば、携帯デバイスは5ワットで数テラFLOPS、ゲームコンソールは100ワットで数十テラFLOPS、そして、ワークステーションや高性能デスクトップPCは1000ワットで数百テラFLOPSの演算性能を手に入れられるようになると予測する。
ファン氏は、この技術を応用すれば、スタートレックに登場する士官向けのモバイルデバイス「Starfleet Tricorder」のような多目的高機能デバイスも生み出せるかもしれないと、HPC市場のみならず、ほかのITデバイスの発展にも役立つという考えを示した。
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