倒産メーカーの製品を競合メーカーが自腹で買い取る牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)

» 2011年11月24日 10時30分 公開
[牧ノブユキ,ITmedia]
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破産したメーカーの製品を、自腹を切って買い取る競合メーカー

 シグマA・P・Oが破産する1カ月ほど前から、店頭から在庫商品が撤収するという動きがあり、実際に破産が発表された時点で、店頭に残っている製品はほとんど存在しなかった。まれに店頭でわずかに残った在庫が特価処分されている例も見られたが、会社そのものがなくなるという展開にもかかわらず、店側への影響は最小限に抑えられたといえる。

 もっとも、これはかなりマシな例で、かつて、JustyブランドでDOS/Vアクセサリを展開していたトライコーポレーションというメーカーが約10年前に自己破産したときは、店頭に大量の在庫が残されるという事態が発生した。販売店は独自に値引きをすることで、これらの製品を売り切ってしまおうとしたが、いかんせん量が多すぎた。なにより、IDEケーブルやハードディスク取付用のマウント金具といった消耗品ではない製品だったことから、値引きをしたからといって爆発的に売れるわけではない。その後、数年にわたって処分を強いられたショップも少なくなかった。

 このように、事業を停止したり、あるいは何らかの事情で取引が打ち切られたりして、店頭に山のような在庫品が残されてしまった場合、販売店は、これらの在庫をゼロにするウルトラCのワザがある。それは「競合メーカーに在庫品を買い取らせる」ことだ。このとき、販売店は「破産メーカーの店頭在庫を全部買い取ってくれれば、御社の製品を同額相当だけ仕入れて、買い取って空いた棚に並べてあげますよ」と、競合メーカーに話を持ちかける。

 競合メーカーにとって、破産したメーカーの在庫品を放置しておけば、店頭から一掃されるまでの数カ月から数年間、新規に製品を納入できなくなる危険がある。実際に、在庫過剰気味だったトライコーポレーションの在庫が大量に残ったとき、多くの販売店で同様の事例が発生した。ここで、在庫を自腹で買い取ったとして、一時的に数十万円から数百万円という出費を強いられるとしても、空いたスペースに自社製品を並べられることが保証されていれば、メーカーとしては十分にオイシイ話というわけだ。回転率がそこそこ高い量販店であれば、なおさらだ。

 なにより、“退却”したメーカーがこれまでいたおかげで参入が難しかった販売店に切り込む、またとないチャンスだ。ここで販売店の要求を断れば、別のメーカーがその話に乗って、店頭シェアを一気に塗り替えられてしまう危険性だってある。こうして、破産したメーカーの製品をなぜか競合メーカーが自腹で買い取るという、奇妙な取引が成立する。現実には、あくまでも協賛金や補填という形で行われるので、買い取られた在庫はまるまる破棄されるか、そのメーカーの中で“消費”されるのが一般的だ。

 もし、こうした動きを取ろうとせず、破産したメーカーの在庫を自社裁量で値引きをしつつ売り切ろうとしている販売店があれば、競合メーカーに対する交渉テクニックを持ち合わせていないか、あるいは製品の回転率があまり高くないがゆえにメーカーがこうした話に乗って来なかったか、ただの無知か、ということになる。いずれにせよ倒産メーカーの割を食うのはユーザーでもなければ販売店でもなく、実は競合メーカーだったりするのだ。

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