「売れすぎちゃって困るのぅん」というベンチャー系メーカー:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(1/2 ページ)

» 2011年06月21日 16時00分 公開
[牧ノブユキ,ITmedia]

市場を切り開いたベンチャー系企業が消えてゆく

 夏の到来を前にしたこの時期に、PC周辺機器売場で絶好調なのが「USB扇風機」だ。白物家電の扇風機に比べると省エネでコンパクト、さらに気軽に購入しやすい価格ということもあって、オフィスで使うビジネスマンが購入していくという。長いアームの角度を自由に変えられるフレキシブルタイプから、ホンモノの扇風機と同じくスイング機構を備えた本格的なモデルまで、バリエーション豊かな製品が展示コーナーに並んでいる。

 こうしたUSB扇風機の売場で、最近気がつくことがある。それは、並んでいるモデルのラインアップがいつしか大手サプライメーカー中心になっており、かつて、“USB扇風機の市場”を切り開いてきた中堅メーカーや小規模メーカーの製品が少なくなっていることだ。かつて、USB扇風機というジャンルをユーザーに定着させて市場を席巻していた先発メーカーの製品は、PCショップなどではまだ見かけることもあるが、USB扇風機の市場がこれだけ広がったにもかかかわらず、出荷量が大幅に増えているようにはとても見えない。先発メーカーの中にはUSB扇風機の市場から撤退した企業もあるほどだ。

 この例に限らず、かつてそのジャンルを切り開いたベンチャー系メーカーが、市場の拡大についていけずに撤退を余儀なくされることは多い。先行するメリットがありながら、なぜシェアを維持して業績を拡大できないのだろうか。

オーダーは、ある日、突然、増える

 そのジャンルの先駆者でありながら、市場の広がりについていけずに撤退する中堅メーカーや小規模メーカーが後を絶たない理由はただ1つに集約できる。それは「ビジネスの規模が会社規模に見合わなくなるため」だ。製品が売れすぎることで、会社の対応能力を超えてしまうのが撤退を強いられる、ほぼ唯一の理由といえる。

 ベンチャー系メーカーは、大手メーカーが手を出さないニッチな製品を手がけることで市場に食い込もうとする。まったく新しいジャンルに手を出す場合もあれば(USB扇風機がまさにそうだ)、市場の売れ筋製品にニッチな機能をつけた製品を投入することもある。大手メーカーが「市場性なし」「そこまでやる必要なし」と判断した製品や仕様を取り入れることで、売上の規模は小さいながらもユーザーから一定の支持を得て、市場における存在感を示そうする。

 こうした製品は、爆発的に売れることはなくても、新しいモノ好きなユーザー、あるいは、だれも持っていない製品に価値を見出すユーザーの支持を取り付けることで、数は少ないながらも確実に売上を拾うことができる。大手メーカーが扱うには少なすぎる数量でも、会社の規模や従業員数が限られているベンチャー系メーカーにとっては十分やっていける規模といえる。

 ところが、こうした製品が予想以上にヒットし、市場の規模が拡大し始めると、規模が小さいベンチャー系メーカーにとってはあまり好ましくない状況になる。まず、増える受注に供給が追いつかなくなる。単純に「じゃあ生産数を増やそう」とできればいいが、規模の小さいメーカーではそう簡単に生産設備拡大の資金が調達できない。結果として、増えるオーダーに対応できないという状況になる。

 ベンチャー系メーカーにとって都合が悪いことに、こうした市場はじわじわと拡大するのではなく、あるポイントで爆発的にオーダーが増えるケースが多い。例えば、前月比110%とか120%といったレベルでオーダーが増えていくなら、生産数を調整することで対応できる。しかし、大手の量販店が、定番モデルとして全店舗での大量導入を決定すると、それまでの出荷数の数倍にあたるオーダーがまとめて発生することになる。それは、それまで数十個で済んでいたのが「全国の何十店舗に10個ずつ、トータルで何百個から何千個」といった規模で拡大する。

 もともと限られた規模でビジネスを行っているベンチャー系メーカーは、こうした急激な需要の変動には対応できない。一時的な受注増なのに「絶好のビジネスチャンス!」と勘違いした社長が銀行から資金を借り入れようものなら(おそらく貸す銀行もないだろうが)、大量の受注が続かなかった場合に返品が殺到して会社が立ち行かなくなる可能性もある。限られた規模の会社を存続させるなら、むしろ市場の急拡大には追従せず、限られた数だけを売っておくほうが安全策といえる。

 製品供給以外にも問題は出てくる。出荷数が増えれば不良品の数も比例して増え、サポートの手間と労力も大量になる。ベンチャー系メーカーはユーザーに開放した電話窓口を持たず、メールだけでサポートしている場合がほとんどだが、不良品の数が増えはじめると日々の業務のほとんどを問い合わせメールの返信に追われるようになり、営業活動すらできなくなる。かといって専任スタッフを置くと人件費で利益が相殺される。出荷増が一過性であれば、そのために社員を増やすわけにもいかない。いずれにせよ、「爆発的な受注増加」は、ベンチャー系メーカーにとって恐怖以外の何物でもない。

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