「売れすぎちゃって困るのぅん」というベンチャー系メーカー:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)

» 2011年06月21日 16時00分 公開
[牧ノブユキ,ITmedia]
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市場が広がって販売ルートは狭まるという不条理

 こうしたベンチャー系メーカー側の社内事情に加えて、市場が広がるともう1つ大きな問題が発生する。それは「大手メーカー」の参入だ。

 一般的に、大手メーカーは新ジャンルへの参入に慎重だ。自社の先行技術を訴求する商品は別にして、それ以外については市場の動きを時間をかけて見極めたうえで、参入するか否かを決定する。先行メーカーがいる場合は、自社が参入する場合の市場想定価格、製品投入後に予測される競合他社の値下げなどの動き、予定販売数量から逆算した生産ロット数など、ロードマップを明確にしてから参入する。後発になればなるほど、市場のデータは集まりやすいため、予想の精度も高くなる。

 こうして、市場を切り開いたベンチャー系メーカーの後を追うように参入してくる大手メーカーは、全国各地の販売店を手厚くフォローする営業支援と不良品などが発生した場合のサポート体制が充実している。これらは規模が小さいベンチャー系メーカーにはない大手メーカーの強みだ。ベンチャー系メーカーが自分たちのリソースを集中させても、すぐに対抗できるレベルではない。

 製品も、ベンチャー系メーカーと同等、もしくは上回るクオリティをより安く供給できるだけでなく、ベンチャー系メーカーが1アイテムしかなかったところを、複数のカラーバリエーションをまとめて投入するといった戦略を用いる。それだけでなく、低価格でシンプルなモデルと多機能でハイエンドなモデルを用意して、ユーザーが製品を選びやすいラインアップを参入の段階で用意してくる。

 こうした大手メーカーが参入してくると、販売店にとって、先行してきたベンチャー系メーカーの同等製品を取り扱うメリットはなくなる。ベンチャー系メーカーは製品流通で卸業者を介していることがほとんどで、販売店に対する直接のフォローが弱く、製品供給力も不安定で、品切れの不安が常につきまとう。それでも販売店がベンチャー系メーカーの製品を仕入れるのは「大手メーカーのラインアップにない製品」という一点に尽きるわけで、大手メーカーが同じ製品で参入するとなると、販売店がベンチャー系メーカーの製品を扱う必要は、まったくなくなってしまう。

 こうして、販売店は次々に大手メーカーに乗り替え、ベンチャー系メーカーは思うように製品が売れなくなるという、「市場は拡大しているのに販売ルートが縮小する」という逆転現象が発生する。このような流れを予測できず、一時の受注量増加だけで喜んでいる経営者がいる会社の業績は、半年後や一年後に悪化している可能性が高い。販売店から持ちかけられたスポットの大口商談をビジネスチャンスと勘違いして資金の借り入れをしている状況下で、大手メーカーが参入を決めるようなことがあれば、もう絶望的だ。

メーカーの交代は市場確立の証

 以上のような理由で、ニッチ製品がヒットして市場が確立すると、大手メーカーが乗り出してきて、先行していたベンチャー系メーカーは退場を余儀なくされるという図式が完成する。ベンチャー系メーカーにとって理想的なのは、ビジネスの規模が会社規模に見合う範囲でゆっくりと拡大することであり、急激な大ブームが到来することで大手メーカーが参入してくる状況は、逆に自分たちの存亡の危機につながりかねない怖さがある。

 しかし、こうした主要メーカーの交代は、市場が定着した証になる。USB扇風機もまさにいまその過渡期にあるし、かつてのUSBメモリもこれと同じような図式をたどっている。モバイルルータの動きもこれに近い。

 ベンチャー系メーカーがこのような事態を回避したければ、特定の製品に依存する「一点張り」のラインアップ体質から脱却し、少量多品種生産が可能なジャンルに参入すべきだ。携帯電話のアクセサリなどが典型的な例で、多彩なバリエーションを流通させることで売場が賑わう製品であれば、一時的に在庫が品薄になってもそれ自体がレアな証拠として評価される可能性があるからだ。ただ、競合他社との差別化が難しいため、魅力的な新製品を次々と投入しないと生き残れない可能性があることは、考慮しておくべきだろう。

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