インタビュー
» 2012年04月18日 12時15分 公開

「何よりも大事なことは情熱」――ジョブズ氏の師が語る“スティーブの素顔”「ジョブズ・ウェイ」著者に聞く(4/6 ページ)

[林信行,ITmedia]

創業者を失った大企業の課題

―― おっしゃる通りですね。これこそ日本の大手企業に起きていることだと思います。創業者はいいですが、その後を任された社長はなかなか思い切った決断ができず、リスクを取らなくなってしまいます。

エリオット そうだね。ホンダにしてもソニーにしてもそうだと思う。これらの会社は、創業者がどうやって会社を今の位置に持ってきたのか分かっていない人が会社の経営にあたっている。そこへ至るまでにどんなトリックを使ったのかも。そういった管理型の経営幹部は、「何も変えたくない」「何も間違えをおかしたくない」ということになりがちだ。ティム・クック(現アップルCEO)は、スティーブが今のアップルを築いたときにその場にいたので、それがどのようにしてなされたものかを分かっていると思う。

 これは注意しなければならない点だ。管理者になってはいけない。会社の創業者になるというのは決定的に重要なことだ。私はアップルを去った後、5つの会社を創業したが……私も好きなんだな、誰かほかの人のために働くなんてことは、もうしたくないと思っている。会社を創業するには特別な思い、特別な情熱が必要だ。会社は“あなた”を拡張した一部なんだ。

 ここでよくする話が、自動車業界の人たちがワシントンへ行った帰り道の出来事だ。みんな飛行場までプライベートジェットで帰るのはいいんだが、その後、彼らはメルセデスベンツに乗って帰宅しているんだ。だが本当は、クライスラー社の人はクライスラーで、フォード社の人はフォードで、シェビーの人はシェビーで帰るべきだろう? 「自分が誰であるべきか」という感覚が乖離(かいり)しているんだ。本当はそうではなく、自分の会社の製品がベストなものであることを目指すべきなのに……。

 私はよくスティーブをウォルト・ディズニーと比較している。ディズニーが死んだときは、ディズニーの伝統はどうなるんだろうと気をもんだが、彼らはいい仕事をして、それを守ることができた。その途上で紆余曲折はあったにせよ。

 それがなぜかを企業は学ぶ必要がある。だから、私は本(ジョブズ・ウェイ)を書いた。

情熱を持ち続けるために

―― 話を少し戻しますが、製品に対して「情熱」を持つためにはどうしたらいいのでしょうか。

エリオット 私やスティーブは、まず何よりも自らが、その製品の最初のユーザーだった。私が何か製品を作るとしたら、その製品の1番のユーザーにならなければ気が済まない。作るものが電話だとしてもカメラだとしても、会社が2000人規模だろうが、3000人規模だろうが関係ない。とにかく自分自身がその製品の最初のユーザーにならなければ。

 スティーブも、まず自分自身のために製品を作った。もしそれでほかの人も気に入ったら、彼から買えばいい。もし、気に入らなかったら買わなければいい。こういう姿勢だ。あなた自身が1番のユーザーでなければならないという思いに取りつかれること。

 私が前にやっていた会社で株式を公開しようとしたとき、ウォールストリートのアドバイスは、それなら新しく人を雇う必要がある、というものだった。だが、勧められた人たちに会ってみると、彼らは私の製品なんか使っていなかった。とても失望したよ。彼らは私の製品を理解もしていなければ、使ったことさえないというんだから。

―― こうしたこだわりというのは、生来のものなんでしょうか、後から獲得できるものなんでしょうか。

エリオット 確かにそうした資質の一部は生まれつきのものかもしれないが、それだけではなく、ビジネスをしていくうえで、自身の洞察を深めなければ得られない部分もあると思う。「自分はそれにふさわしい情熱を持ち合わせ、すべてをこれに賭ける覚悟があるのか」。これがいわゆる「リスクを取る」という部分だが、それができるかどうかで人は分かれると思う。

 仮にもし私が日本の会社でCEOを探すとしても、私はそうした資質を求めるだろうね。これは誰にでも備わっているものではない。教えられて得られる部分もあるが、生まれつきの部分も大きいと思う。

 ただ、完璧主義というのは、必ずしも人を押しのけなければ達成できないものではない。私はアイザクソンが書いた本(「スティーブ・ジョブズ I・II/ウォルター・アイザクソン著)は嫌いだ。あの本は、スティーブの人物像の“ひどい捉え方”をしたものだと思っている。スティーブはスターだから成功したかのように書いている部分があるが、そうではない。彼と働いたことがある人は、また彼と働きたいかと聞かれたら手を挙げるだろう。彼が成功したのは、製品を思い通りの形で実現する信念の強さのおかげだ。スティーブが怒るのは、その製品が彼の望む品質になっていないときくらいだよ。

 スターでなくても、独裁者でなくても、人を怖がらせることをしなくても、ものごとを思い通りにするために力強く進める力があれば、ものごとはうまくいくと思う。

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