インタビュー
» 2012年04月18日 12時15分 公開

「ジョブズ・ウェイ」著者に聞く:「何よりも大事なことは情熱」――ジョブズ氏の師が語る“スティーブの素顔” (3/6)

[林信行,ITmedia]

アウトソースはせずにインソースをする

―― アップルは何でも自分たちで作ろうとするところがあるようですが、何を自分たちで作り、何をアウトソースするかは、どのように線引きしていたのですか?

エリオット いま言ったように、スティーブは何でもアップルで作ろうとしていた。だがその一方で、アップル1社ではすべては作れないことも学んでいた。例えば、いま話に出したディスクドライブなどがそうだ。

 ただ、彼はこうした外部の会社との関係を完全にコントロールしようとしていた。我々はこうした(部品)ベンダーの雇い主になるような関係を築いてきた。「彼らは我々の一部なんだ」とみなすわけだ。

 我々がソニーやキヤノンといった会社と関係を築いたとき、彼らをアップルの一部として考えた。彼らはアップルの文化をよく理解していたし、我々も彼らに我々の一員とみなしてコミュニケーションをしていた。これもアップルが成功した要因の1つだ。

 最近ではアップルが使っている“労働力”についての問題が取り沙汰されてもいるが……いずれにしても大事なのは、アップルはただどこかと契約を結んで、それを履行させようとするのではなく、パートナー会社も製品を成功に導く重要な一員だとみなすことだ。

 企業を買収する時もそう。ただ会社を買って一部にするのではなく、そこにいる人たちも一緒に買収して、自らの一部にしていく。去年、GoogleがMotorola Mobileを買収するという発表があった。冗談だろう? 私はこんなに違う会社がうまくいくわけがないと思ったが、最近では彼らがこれを売りたがっているなんていうウワサを聞いてもいて、一体なんだったんだと思わされている。

 こういうのとは違うメンタリティを持たなければいけないね。スティーブの考えはそうではなかった。アウトソースするのではなく、仲間にインソースするという考え方だ。それが彼のやり方だった。

ジョブズ成功の秘密は「情熱」

―― ジョブズ氏最後の15年、成功の秘密は何でしょう?

エリオット 彼が成功した秘密は、製品や顧客に対して情熱的になれたことだろう。これはMacで始まったことだ。彼はMacで、マウスを指先のように使って情報を操作する能力の可能性を見た。ここで彼は、このビジョンを、どうやったら最もシンプルな形でユーザーに届けられるかを考えた。

 アップルの製品を思い浮かべてみてほしい。5歳でも使えれば90歳でも使えるのが当たり前だ。3歳だって大丈夫だろう。壁は一切ない。私は最初、少し戸惑ったが、子供はまったく迷わず、マウスを握ってごく自然に操作してしまう。その秘密はユーザーインタフェースであり、先端のテクノロジーを、まったく違和感なく提供することだ。

 私とスティーブは、よくモーターショーへ一緒に行った。彼はコンセプトカーが大好きで、よくコンセプトカーを見ては、「これって結局、商品化されないんだよね」と一緒に笑いあったこともあった。

 まあ、それはいいとして、車はカギを挿して回せばエンジンがかかるが、別にその裏のテクノロジーがどうなっているかなんて、一切気にする必要はない。そんなことを知らなくても、好きなところへドライブできてしまう。

 いずれにしても、アップル成功の秘密は、常に製品の向こう側にユーザーがいることを意識してものを作っていることだ。これこそが彼が最も強く情熱を見せたところでもあった。そして、これは私と出会った1980年から、亡くなる1カ月くらい前まで、まったく変わらなかった。彼の態度はまったく同じだった。

 だからこそ、彼は自分が亡くなる前に、思いを込めた製品がすべて世にでるようにがんばっていた。シンプルに保って、例えば、制限を設けて3000個だけ製品を作るような愚行はしない。これこそが彼の成功の秘密だと思う。

―― それはどんな会社にとっても、昔は当たり前のことだった気がするのですが、なぜほかの会社にはそれができなくなってしまったんでしょう? アップルはどうやってスタートアップ企業のようなメンタリティを保つことができたのでしょう?

エリオット アップルは確かに大きくなった。しかし、どの部分が大きくなったかは注意してみる必要がある。例えば、製造部門は人数が増えたかもしれない。また、販売店の従業員は何千人単位で大幅に増えた部分だろう。

 ただ、まず製品にイノベーションをもたらす開発者たちがいて、その一方で巨大化する部分があるんだ。この巨大化する部分は、営業にしろ何にしろ官僚主義になる可能性があるにはあるので、異なる経営スタイルが必要だと思う。しかし重要なのは、製品を形に変えるチームについてはできる限り小さくして、水平的な組織にしていることだ。スティーブは、製品だけでなく、それを詰めるパッケージにいたるまで、エコシステムの全体を見渡していた。

 ここ日本には、それと同様の、経営者の手本ともいえる人物がいる。ソニーの盛田昭夫氏だ。盛田氏は日本のスティーブ・ジョブズだった。しかしその後、ウォークマンにいったい何が起きたのか? 彼らはユーザーに何が起きるか注意を払っていなかった。最初はユーザーを見て製品を作っていたが、その後、ユーザーにも変化が起きるということを理解していなかった。それによって市場を失ってしまった。iPodがそれに取って代わってしまったんだ。

 私は初めてiPodを見たとき、笑わずにはいられなかった。「スティーブはついに“彼のウォークマン”を作ったんだ!」と思ったよ。彼はウォークマンが大好きだった。スティーブはこうした製品が大好きだった。それなのに、ソニーはウォークマンを失墜させてしまった。このころまでには、盛田氏も亡くなってしまっていたしね。

 アップルは、大企業としては極めて珍しく、おそらく会社の歴史の長さとほぼ同じくらいの期間、創業者が関わり続けた会社だ。これも秘密の1つだと思う。創業者の姿勢というのは、とても重要なものだ。

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