「何よりも大事なことは情熱」――ジョブズ氏の師が語る“スティーブの素顔”「ジョブズ・ウェイ」著者に聞く(5/6 ページ)

» 2012年04月18日 12時15分 公開
[林信行,ITmedia]
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企業経営者へのアドバイス

―― 日本企業の経営者に何かアドバイスはありますか?

エリオット 彼らは生まれ変わる必要がある。1ついい例を挙げよう。HPだ。

インタビューは平河町ライブラリーで行われた

 HPは創業から45年間、2人のリーダーによって導かれてきたが、ここ10年ほどの間に7人がリーダーをしてきた(注:Hewlett-Packardはビル・ヒューレット氏とデイブ・パッカード氏が創業し率いてきたが、その後、この20年で6回CEOが交代している)。彼らは自分たちが何者であるか分からなくなっている。どうやって今の地位を築いたのか忘れてしまっているんだ。

 ホンダやソニーも同じだと思う。まずは自らのルーツに立ち戻り、この会社はなぜこの世に誕生したのか、自分たちは誰なのかを知る必要がある。

 私はプロダクトオーガニゼーション(製品を中心とした組織)というものを信じている。企業はもっと製品に戻る必要がある。そして、まずは製品を削る必要があるだろう。例えば、ソニーは製品が多過ぎて、もはや何をやっているのかも分からない。まずはシンプルな状態に戻ることが何よりも重要だ。

 これは日本だけの話ではない。世界全体の話であり、ほとんどの企業にあてはまる。この状況は、今日の経済がもたらした悪い側面の1つで、財政上の理由によるものだが、それに加えて企業が自制を失ってしまっているのも一因だ。

 そんな中、うまくやっているところを挙げるとしたらIBMだろうね。IBMはうまく生まれ変わった。彼らはハードウェアを売らずに、サービスを製品としていくと決断し、フォーカスし、再び軌道に乗り始めている。私はこんなことになるとは思っていなかったが。

 私がIBMを去ったのは、製品に対してもっと違った方向性が必要だと思ったからだが、いま彼らがやっていることの良さは認めたいね。これこそが、まさにやらなければならないことだ。まずは立ち止まり、自分が誰なのかを見極め、組織では人々がどのように協力するかが成功のカギになる。そうやって革新を取り戻す。

―― 最近、イベントや製品の発表スケジュールと四半期決算を、右肩上がりに保つことに追われ、企業が短期思考になってしまっている気がします。そのあたりはどうでしょう?

エリオット アップルの人に「損益計算はどうなっている」なんて聞いても、例え相手がスティーブ・ジョブズでも「知らないよ。それはCFOの仕事だ。私はそんなことは心配しない。よい製品を作れば、自然と利益はついてくる」って返ってくるだろうね。四半期ごとの決算ばかり気にして事業をしていてはダメだ。もっと遠くを見ないと。

 これは日本だけでなく、世界中の企業にとっての問題だ。四半期ごとの株価、CEOが株で損をしていないかなんてことは重要じゃない。もちろん、ウォールストリートの人たちや株主たちを変にビックリさせないように注意する必要はある。だが、それよりも長期的な戦略を持たないとダメだめだろう。

 我々はこの3年ほどで、多くの企業が際立って短期思考になってきてしまったと感じている。これも今、業界に起きている大きな問題の1つだと思う。

アップルは3年サイクルで発想!?

―― 実際、アップルではどれくらい先を見通して製品を開発しているのですか? 製品のライフサイクルはどれくらいと考えているのでしょう?

エリオット アップルではあまりライフサイクルという考え方は持っていなかった。初代Macは1983年5月に出荷するはずだったが、スティーブが空冷ファンを取ってしまえと言い出したので、1984年まで出荷できなかった。空冷ファンなしでどうやって熱を追い出すか、数カ月試行錯誤が続いたんだ。

 その後、アップルがコンシューマーエレクトロニクスの分野に事業を移した後も、製品は準備が整うまで出すな、が基本になっている。というわけで、開発計画が最初から細かく決まっていたわけではない。コンシューマー製品を発売するようになってからは、もっとリリースのタイミングに気を配るようになってはいたが、最も重要なのは、準備が整うまで製品を出すなということだ。

 まあでも、強いていえば我々は3年サイクルを見据えて動いていた。例えば、この製品がその後、どのようにして製品ファミリーに発展していくのかといったことを考えていたわけだ。

―― 3年サイクル! それは興味深いです。実は私はアップルが3年おきに革新的な製品を出す、という仮説を持っていて、そうした記事もいくつか書いています(関連記事:アップル流イノベーションが大きく花開いた2010年(前編)過去最高益とジョブズ氏の不在――Appleのこれからジョブズ氏退任に思うこと――アップルは2013年をどう乗り切るか)。

エリオット そうだね。晩年のスティーブは、生きている間にもっと多くを成し遂げようとスピードアップしているところはあったと思うが、3年というのは業界のリズムであり、コンシューマーのリズムだと思う。

 ここでもう1つ大事なのは、誰も取り残さないということ。このサイクルには、次に新しい製品を投入したときに、今の顧客を連れて行く、今の顧客がきちんとついて来れるようにするという意味もある。これはアップルの戦略においても、非常に重要な点の1つだ。

 誰も取り残さないということ。私はいつも、これには2年が最適だと思っていた。というのも、私自身は2年以上、同じ製品を使っていられないから。でも3年がうまく機能しているみたいだね。

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