「何よりも大事なことは情熱」――ジョブズ氏の師が語る“スティーブの素顔”「ジョブズ・ウェイ」著者に聞く(2/6 ページ)

» 2012年04月18日 12時15分 公開
[林信行,ITmedia]
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意外とおちゃめなジョブズの側面

―― ジョブズ氏との思い出で、特に印象に残っているのはどんなものですか?

エリオット たくさんあるね。スティーブの思い出は楽しいものが多い。彼とともに日本へ来たことがあったが、ホテルに着いた時、受付に「和室がいいか洋室がいいか」と聞かれたんだ。で、スティーブは「和室」と即答した。

 木造りのその部屋は、床があってその上に布団が敷かれているというものだ。私は「自分はここでは寝られない」と思ったので、フロントに戻って部屋を変えようとした。そしたらスティーブも、同様にフロントに立っていて部屋を変更してもらっているところだった(笑)。

入力デバイスにマウスを採用した「Macintosh 128K」

 その日の夜だったか、翌日だったか……我々は銀座に繰り出した。あるお店に行ったら、あれは1983年(Mac発売の前年)だったが、Macの完璧な模倣品がショーウィンドウに飾られていたんだ。スティーブはレンガを探して窓を叩き割ろうという勢いで、私はそれを必死で制止したよ。もちろん、中身がMacでないことは分かっていたけど、当時、Macがどんな形になるかを知っていたのはソニーだけだった。ソニーだけにはMacの内部情報を渡していたから。翌朝、ソニーのトップに会いにいく約束があったので、このことを話したら彼がどんな顔をするのか非常に楽しみだったね。

 もう1つ。私は日本食が好きだが、生の食べ物は苦手だ。一方、スティーブは寿司が好きだった。このときの訪問では、合計3回ほど会食があって、そのうち1回はキヤノンとの約束だった。私は寿司ではなく、神戸牛か何か、調理されたものを食べたかったので「行かないよ」と断り、ホテルのレストランに行った。レストランに入って、誰かとなりにいるな、と思ったら、またしてもスティーブだった。「どうしたんだ? ディナーに行く約束じゃなかったのか?」と聞くと、「いや、ぼくも君に賛成だ。今夜は何か温かいものが食べたい」と……人々はスティーブのこうした側面をあまり知らないようだが、彼はジョークが好きで面白いところがあった。ほかにもたくさんあるが、今、思いついたのはこのくらいかな。

 スティーブを失ったのは、非常にショックなことだ。こうなることは分かっていた。いつ起きるかは分からなかったが……ショックだった。

いま明かされるレーザーライター誕生秘話

―― スティーブの死後、彼が禅に傾倒していたことがよく話題になりますが。

エリオット スティーブはインドに行った後、日本に来た。スティーブ・ウォズニアックとホームブリューコンピュータークラブとかに出ていた時代だね。

 一度、彼が入信しようとしていた禅寺にも行ったことはあるが、私には彼があんな静寂で整った環境で生き残れるとは思えなかった。庭を見て心を静めるだって? 私はスティーブに「君がこんなことをやるなんて信じられない。これは君じゃない」と言った。ただ、彼は日本に対して強い思い入れがあり、日本の生産や開発のやり方にも大きな敬意を払っていた。特に彼はソニーが好きだった。だから我々はよく日本に来たんだ。

 我々はある時、日本に来る途中の飛行機の中で、レーザーライター(注:アップルによる初の民生用レーザープリンタ。DTPを生み出すきっかけになった)をデザインした。これはキヤノンとの仕事だ。

 我々のレーザープリンタは、元々はプリンタなんかではなくコピー機だった。我々はキヤノンのコピー機を持ってきて、その上にMacの基板を載せ、印刷したいイメージをこのコピー機に送り込んだ。Macを開発している時、Macにはプリンタがなかったので、スティーブは「日本のどこかに行ってプリンタを作らなきゃ」と言っていた。私はそうは思わないって反論したんだが……その後、キヤノンに行って、ボタンを押せばコピー機にイメージが送られるというレーザーコピー機の話をすることになった。

 スティーブは、コンピューターに関するものは何から何まで自分で作ろうとしていた。しかし、モノによっては自分たちで作れないものもある。ディスクドライブもその一例だね。ちなみに「Lisa」が失敗したのもそのせいだ。Lisaはアップルが開発したひどいディスクドライブを搭載していたんだ。

 そこで我々は日本に来てパートナーを見つけることにした。いずれにしても、このようにスティーブと日本の関係は、非常に大きく、大事なものだった。

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