最近、ミシュランで三ツ星を取る寿司の名店「すきやばし次郎」のドキュメンタリー映画「Jiro: Dreams fo Sushi」を観た。同店を作った小野二郎氏のような強烈な個性の跡を継ぐには「倍くらいの成果を出せてようやく肩を並べられる」という2代目の言葉が印象的だった。
「スティーブ・ジョブズ」という強烈な個性が去った後の今のアップルもまさにその状態で、何か新製品を発表しても「やはり、ジョブズがいなくなると〜」、「ジョブズだったら、そんなことはしなかった」という批判の言葉をよく耳にする。そうした思いに捕らわれすぎている人には見えないかもしれないが、きちんと目を見開き、今回の新製品発表に正面から向き合えた人には、クック新体制のアップルが、まさにこの「倍くらいの成果」を出したことが十分感じ取れたはずだ。
今回の新製品発表イベントは、ただ小さなiPadが発表されるだけだと思っていた多くの人にとって、「いい裏切り」の連続だった。製品だけではない。CMでも「テクノロジーだけでは何かが足りない」とうたっているアップルらしく、発表会場は趣のあるシアターで非常に美しい場所だった。
新しい製品発表のスタイルも確立されたと思う。これまでは製品担当の上級副社長が代わる代わる登壇して製品をプレゼンするスタイルだったが、あまりにも登場人物が多すぎたために、誰が誰だか分からなくなることがあった。一方、今回は「目玉の製品を発表するならこの人」というワールドワイドマーケティング担当上級副社長のフィル・シラー氏と、CEOのティム・クック氏の2人だけ。クックが概要を話すと、シラーが製品の具体的説明をする、というスタイルは非常に講演がスッキリとシンプルになり分かりやすかった。
もっとも、そんなことが関係するのは報道関係者だけで、一般の人はただ新製品がどんなもので、それがよいものか悪いのかを知ることができればいい。もちろんその点についても問題ない。新しいデザインで生まれ変わった今回の新製品は、そのどれもがアップルらしさを備えた、見るだけでワクワクしてくる輝きと、ディテールへの細かなこだわりが光るものばかりだ。
米国でのiPad miniのキャッチコピーは「every inch an iPad」――製品の中のどの部分をとってもiPadらしさが増すといった意味だが、そういう視点でいえば、新しいiMacも、新しいMacBook Proも、iPad miniも第4世代iPadも「every inch an Apple」と言っていいかもしれない。
アップルの新製品発表は同社の業績を振り返ることから始まる。製品の詳細を見ていく前に、クック体制でさらに加速しつつあるアップルの勢いを示した数字を簡単に紹介しよう。
まず、先日登場したiPhone 5は、販売開始の最初の週末だけで500万台が売れ、携帯電話の歴史上、最も速くその台数に達成した記録的な製品となった。その後、同時に発表された「iPod」にも触れ、これらの機器に搭載された最新の「iOS 6」搭載デバイスが2億台に達したことが発表された。このiOS 6では、Mac用OSの「Mountain Lion」と「iCloud」を通して、常に同じ書類が使えることが最大の強みだが、現在、すでにiCloud上には1億2500万の書類が置かれているという。
さらにすごいのは、iPhoneやiPad、Macからメッセージを送受信できるiMessage機能を使ったメッセージの数で、ここまでの累計はなんと3000億回。毎秒2万8000ものメッセージが世界を飛び交っている計算になる。ゲームのハイスコアなどを共有できるGame Centerの登録利用者だけでも1億6000万人と日本の人口よりも多く、フォトストリーム機能を使って共有されている写真だけで7000万枚もある。
一方、iOS用のアプリ数はついに70万本の大台にのり、iPadに最適化されたものだけでも27万5000本に達した。そして、それらのアプリがこれまでに350億本ダウンロードされ、65億ドルのお金が開発者に支払われたという。電子書籍サービスのiBooksでは150万冊の本が売られ、4億冊がダウンロードされた。
ここでティム・クックCEOは、今日、iBookのアプリの新バージョンがリリースされ、新たにiCloudを使った読み進め具合などの同期に加えて、TwitterやFacebookといったソーシャルメディアとの連携や、中国語、韓国語に加え日本語に対応したことを発表した。
また、Macの好調ぶりについては、PC業界の成長率が年2%なのに対してMacの成長率が15%で、Macは過去6年にわたって成長率でWindows機を上回っていると紹介。米国のそうそうたるメジャー雑誌でデスクトップPCとしてもノートPCとしても顧客満足度1位を獲得していることをアピールした。
そしてここからMacの新製品発表が始まり、フィル・シラー氏が登壇する。
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