肉には塩コショウ、とんかつにはソース――当然の関係だ。それと同じように「金属には革」なのである。
一眼レフカメラを思い出してみるといい。金属のボディにはシボ革(合皮だったりもするが)が巻かれ、重厚感を増している。そこに革があることさえ感じさせないが、ボディの金属とのマッチングは最高だ。これは単に相性がよいと言うことではなく、金属と革がその存在感をかけてせめぎ合っているのだ。
革の実力は安定している。丹念になめされた牛革はその質感、肌触り、そして独特の香りで人の五感を刺激するほどの力を持っている。
では、金属はどうだろうか。さまざまな製品が作られるが、その出来不出来は当然のごとく、ある。特に過剰にデザインに走ってしまった製品などは、開発者の気持ちが空回りしているようで悲惨な結末になっている。
その製品のよしあしを僕個人が判断するのも変な話なのだが、僕は1つのパラメーターとして革を使うことにしている。革のバッグでもケースでも何でもよい。その2つを並べてしばらく眺めてみるのだ。
革のほうが存在感があると思ったら、その製品は残念な代物、ということだ。逆にしっくりと2つがなじんでいたら、その製品は是非とも手に入れるべき物なのである。
僕は特に「ガジェット」と呼ばれる分野の製品には失望していた。革に対抗できる製品がほとんどないのだ。スマートフォンに関して言えば、多くの製品が「薄いでしょ」「カッコイイでしょ」という勝手な思想を押し付けているようで、鼻についてたまらない。ただそこにあるだけで、凛(りん)とした存在感を漂わすような硬派な製品はないものか、といつも思っていたのだ。
そんなとき、本当に突然、さっそうと登場したのが「HTC J One」だ。今までのAndroidスマートフォンとは「金属」のレベルが違う。
フルメタルボディは受信感度が悪くなるので、技術力によほどの自信がなければできないことだ。それをHTCという後発の台湾メーカーがあっさりと実現させる。正直、驚いた。
いろいろ情報を仕入れてみたのだが、この企業の真面目な姿勢に非常に好感が持てた。理系の社長が引っ張る、PC関連で言えばASUS(ASUSTeK Computer)によく似ている印象だ。日本にもかつてこのようなメーカーがたくさんあったのに、その多くはもう実質的に台湾に追い抜かれているのがくやしい。
よほど精度の高い金型を使っているのだろう、裏面のふたの部分にガタつきなどまったくない。緩やかに弧を描くフォルムは手のひらに自然にフィットする。裏側ではなく、フロントの両側に設置されたスピーカーの穴の細工も芸術品レベルだ。
では、撮影も兼ねていつものパラメーターを試してみよう。一番存在感のあるホワイトメタルを裏にして牛革の上に置いてみる。
負けていない。革の前で堂々と渡り合えている。このスマホにはあざとい部分がまったくないからだと思う。フォルムにもデザインにもすべて「理由」があるからだ。細かいことでいえば、カメラのレンズがセンターにあることも何気ない配慮だ。レンズがボディの端にあるよりも撮影がしやすい。
そういう発想から始まって技術力で実現させる。どこにも妥協が見られない設計だ。
工業デザインの分野では、高い完成度のものが突然現れる。そういう製品を薄暗いスタジオで半ば会話をするような気持ちで撮影するのが、僕の至福の時間なのである。
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