さて、iPhoneなどのスマホ以外でも、PC周辺機器メーカーが買い替えキャンペーンを実施することがある。表向きはスマホの下取りとそう変わらないが、こちらはその方法から目的まで、スマホの下取りとはまったく異なる。
まずはその方法だが、前述の携帯キャリアと異なり、新しい製品を買った後に旧製品を所有している証拠、具体的にレシートやシリアルナンバーを送付し、それに対してキャッシュバックを行う、という形を取るのが一般的だ。
メーカーの多くは量販店を通じて製品を販売しているため、いかにキャンペーンだからといって、直接販売すると販売店との関係に悪化をきたす。そこで、購入の窓口はあくまで量販店のままで、実際のオペレーションだけをメーカーが受け持つという形を取るわけだ。これなら量販店の機嫌を損ねることなく、また店員に無理なオペレーションを強いることもない。
ここで面白いのは、必ずしも旧製品の回収を伴っていないことだ。現品を回収しないということは、つまりメーカー主導による再流通を一切想定していないわけである。先ほどのiPhoneの場合と根本的に異なるのがここである。
現物を回収しない理由は大きく分けて2つある。1つは、現物を引き取ったところで、再流通の方法がないことだ。PC周辺機器メーカーによるこうしたキャンペーンでは、新製品の購入を促すため、自社製品だけでなく他社製品も対象に含めることが多いが、不要になった他社の製品を送りつけられても、現実問題としてメーカーは扱いに困ってしまう。
廃棄するにしても処分費がかかるので、それならば中古市場に流れる可能性を考慮しても、ユーザーの側で処理してもらったほうがよいというわけだ。
数がある程度まとまった製品だけiPhoneのように新興国に流せばよいのではないか、と考える人もいそうだが、PC周辺機器の多くはワールドワイドな仕様ではなく、日本国内の利用に特化した仕様であることがほとんどなので、海外に流すのは至難の業だ。
かといって海外を諦めて国内の中古販売業者に流した場合、マーケットが小さいところに大量の中古品が流入することで、新品の価格相場に影響を与えかねないので、それもNGとなる。個人ユーザーが1台2台といった数を放出するのとはわけが違う。
もう1つ、これが実務レベルにおける最大の理由だが、買い替えキャンペーンの実施にかかった費用と、個々の製品の売上とは、異なる部署で計上されており、個々の製品に落とし込んでの収支が計算しにくいことが挙げられる。
一般的に、キャンペーンの経費を持つのは販売促進部門、個々の製品の売上が計上されるのは営業部門であり、1つの製品を売り上げるために買い替えキャンペーンでこれだけの支出があった、という製品単位で計算されることはまずない。要するに、きちんと収支が計算できていないのだ。
特に販促経費は年間の大きな枠組の中で支出が行われるため、感覚が麻痺(まひ)しやすい。さすがに何千万や億といった金額になれば話は別だが、国内のマーケットに限定してこうしたキャンペーンを行っても、そこまでの額に到達することはまずなく、せいぜい何百万といった額で済んでしまう。
それゆえ、製品のシェアを伸ばすのに見合った投資かどうかはほとんどチェックされることなく、カタログや店頭POPを作るのと同じ感覚で、キャンペーンが行われてしまうというわけだ。
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