AndroidアプリのWindows 10移植ツールを切り捨てたMicrosoft鈴木淳也の「Windowsフロントライン」(1/2 ページ)

» 2016年03月01日 15時30分 公開
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開発中止となった「Windows Bridge for Android」

 PC用の膨大な既存アプリが動作するWindows 10 Home/Proと異なり、スマートフォン向けのWindows 10 Mobileは、先行するiOSやAndroidにモバイルアプリの量と質で差を付けられている状況だ。

 そこで、人気のiOS/AndroidアプリをWindows 10に取り込むため、米Microsoftは移植を容易にするツールキット(Windows Bridge for iOS/Android)の準備を進めている……はずだった。しかし、このうちAndroidアプリの移植ツール開発プロジェクトは、中止されたことが明らかになった。

 Microsoftの公式ブログにおいて、同社Windowsデベロッパープラットフォーム担当バイスプレジデントのケビン・ギャロ(Kevin Gallo)氏が「An Update on the Developer Opportunity and Windows 10」のタイトルで報告している。

Windows Bridge for Android MicrosoftのWindows Bridge for Android紹介ページ。開発が遅れているとのウワサもあったが、正式にプロジェクトの中止が発表された

「Windows Bridge」はWindows 10普及を支える仕掛けだったが……

 Windows Bridgeとは、2015年4月に開催されたMicrosoftの年次開発者会議「Build 2015」における目玉発表の1つで、既存のアプリをWindows 10のネイティブ実行環境である「Universal Windows Platform(UWP)」上で動く形式に変換するツール群ならびに技術の総称となっている。

 Windows Bridgeは、変換元となるアプリの環境によって「Windows Bridge for Android(Project Astoria)」「Windows Bridge for iOS(Project Islandwood)」「Windows Bridge for Classic Windows apps(Project Centennial)」「Windows Bridge for Web apps(Project Westminster)」の4つが用意されている。

 つまり、Androidアプリ、iOSアプリ、Webアプリ、そしてWin32アプリまで、幅広く既存のアプリと開発者を集め、Windows 10プラットフォームにおけるアプリ環境の拡充を図るのが狙いだ。

Universal Windows Platform(UWP)アプリ MicrosoftはWindows 10で1つのOSコアと、共通のアプリ基盤「UWP(Universal Windows Platform)」を掲げている。UWPアプリであれば、Windows 10 Home/Pro搭載のPCやタブレットに限らず、Windows 10 Mobile搭載のスマートフォン、さらにはWindows 10をサポートする幅広いデバイスで動作が可能だ
Windows Bridge Build 2015で発表された4つの「Windows Bridge」。他プラットフォームからUWPアプリへの移植ツールキットをそろえて、Windows 10での10億台市場をターゲットにアプリ環境の充実を図る計画だった

 このうちWindows Bridge for Web appsについては、2015年夏の時点でリリースされたが、残り3つのBridgeは「開発中」のステータスとなっていた。

 その後、Windows Bridge for Androidは、クローズド状態でのβテストが始まったと公式に報告されていたものの、開発が遅れているとのウワサが聞こえてきていた。Windows Bridge for iOSは、オープンソースとしてGitHubで公開されたことで注目を集め、「既存のiOSアプリを数分で変換してみた」といったチャレンジも行われている状況だ。

 Windows Bridge for Classic Windows appsについては、品質優先での開発作業が進んでおり、他のBridgeに比べて提供時期が遅くなるとみられていた。

Windows Bridge for iOS 「Windows Bridge for iOS」の早期プレビュー版ツールは、MIT Licenseの下で8月6日(米国時間)にGitHubで公開された

 いずれにせよ、Windows 10 Home/ProならびにWindows 10 MobileでのUWPアプリの不足が指摘されている中、それを補うべく他のアプリやプラットフォームの開発者をWindows 10へと素早く誘導し、将来的なUWPアプリ拡充を図るのがWindows Bridgeの狙いだったわけだ。

 このうち、Windows Bridge for Classic Windows appsのみはやや目的が異なり、「既存のWin32アプリケーション資産をWindowsストアで配布可能な形式(.appx)に変更していく」というレガシー排除の意味合いを持つ。

 ここで変換されたアプリケーションはデスクトップ専用となるため、Windows 10 Mobileで直接動作させることはできないが、動作環境としては従来のデスクトップアプリケーションからUWPに近づくほか、コードの変更により、UWPのみでサポートされた機能の利用が可能になるなど、デスクトップとUWPの中間的存在に位置する。詳細については、過去のWindows Bridge関連記事でもまとめているので、興味のある方は参照いただきたい。

崩れた「架け橋」にXamarin買収の影響

 話を冒頭のギャロ氏の報告へと戻そう。同氏のブログ投稿はWindows Bridgeの戦略変更について触れたものだが、実はこの前日にあたる2月24日(現地時間)、米Microsoftは米Xamarinの買収を発表した。これを受けた方針転換の正式発表という意味合いが強い。

MicrosoftのXamarin買収 米Microsoftは2月24日(現地時間)、米Xamarinの買収を発表した

 以前にWindows Bridge、特にWindows Bridge for Androidに黄色信号が点灯しており、プロジェクト自体も半年ほど停滞していたことを紹介している。恐らくは、開発の困難さもさることながら、Xamarinの買収交渉が本格化した関係で、2015年の秋から実質的にプロジェクトがストップしていたのではないかと推測している。

 Xamarinはいわゆる「クロスプラットフォーム開発ツール」の一種だ。その源流は.NET環境をWindows以外のプラットフォームに実装するための「Mono/MonoTouch」というプロジェクトにあり、米NovellによるMono Projectの吸収後、プロジェクトリーダーだったミゲル・デ・イカザ(Miguel de Icaza)氏の独立による2011年のXamarinの設立まで、長らく多くの開発者らにiOSからAndroid、果てはWindowsアプリケーションまで幅広いプラットフォームを縦断した開発環境として親しまれていた。

 MicrosoftがXamarinを買収したということはつまり、今後はモバイル向けアプリ開発のリソースの多くはXamarin関連へと振り分けられるわけで、相対的に「他の(モバイル)プラットフォームからの開発者誘導」を目的としたWindows Bridgeの重要性は下がることになる。

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