NVIDIAは3月1日、組み込み向けのコンピュータモジュール「Jetson TX1」の国内展開について発表した。「Jetson TX1開発キット」は2016年3月中旬、単体の「Jetson TX1モジュール」は2016年上半期に提供を開始する。正規代理店は菱洋エレクトロで、価格はオープン。米国での価格は開発キットが599ドル、モジュールは1000個発注で1つ当たり299ドルで、国内でも同程度の見込みだ。また、個人向けを取り扱う正規代理店のオリオスペックでは、Jetson TX1開発キットが4月上旬入荷予定で既に予約を開始している。価格は9万3798円(税込)。
Jetson TX1は、画像や映像からオブジェクトの認識や情報の解釈を学習できるソフトウェア、さらに機械学習(ディープラーニング)の一種であるニュートラル・ネットワークに対応した組み込み向けコンピュータだ。例えば、画像を読み込んで被写体が何かを判断する、またはカメラの映像から自分が進むべき最適な経路をその場で判断したり、会話から内容を解釈したりといった複処理が可能だ。
特徴は、低消費電力かつ高性能なグラフィックスを持つ点だ。Jetson TX1はTDP(熱設計電力)が10ワットでありながら、機械学習においてはインテル第6世代Core Core i7-6700K(TDPは91ワット)に比べて10倍ものエネルギー効率を発揮する。高性能と省電力をクレジットカード大のサイズに収めたことで、人工知能を駆使した自立型ロボットなど、限られたスペースの機器においてもパフォーマンスを飛躍的に向上できる。
プレス向けカンファレンスに登壇したNVIDIA プロダクトマネージャーのジェシー・クレイトン氏は「将来、さまざまな機器が自律性を持つ“自律ロボット時代”が到来する。機械学習によって得た、非常に大きなデータセットを使って学習することで画像識別や自然言語の処理、医療といった分野で威力を発揮するだろう。Jetson TX1は効率的かつ高性能、そして実際に“手に入る”ものだ」と、性能と入手性におけるハードルの低さをアピールした。
具体例として挙げられるのがドローンでの活用だ。産業用ドローンの開発を手掛けるエンルートが披露したのは、Jetson TX1を搭載した産業用自立型ドローンのプロトタイプだ。前方に取り付けたカメラから被写体を判別し、障害物を避けたり、飛行ルートを自律的に選択できる。下記のデモ動画では、草木はグリーン、コンクリートはオレンジ、車といった金属系はパープルというように対象を色づけして判別している。もともとは自動運転車向けに開発したものだという。
エンルート開発部長のイェン・カイ(Kai Yan)氏は「現在のドローンはマルチコプター型ドローンが主流。農薬散布や建造物の目視点検、活火山の噴火口といった危険地帯の観測など、さまざまな分野で活躍しているほとんどがGPSによるアシストやオペレーターの操縦によるものだ。機械学習を活用すれば、ドローン上でリアルタイムな自律制御が可能になる。次世代ドローンはGPSや各種センサー、機械学習など複数の技術を活用したものになるだろう」とコメントしている。
「Jetson TX1」の主な仕様は、プロセッサがARM A57(64bit)、グラフィックスがMaxwellアーキテクチャ、メモリは4GB(LPDDR4)、ストレージが16GB eMMC。ネットワークはギガビットイーサネットを備え、ワイヤレス機能として802.11ac無線LANとBluetoothを備える。本体サイズは、50(縦)×87(横)ミリ。
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