2016年7月29日にWindows 7/8.1からWindows 10への無料アップグレードキャンペーンは終了したが、その成果はどうだったのだろうか。
8月初旬には、新聞各紙に「ウィンドウズ10の更新限定的 シェア2割にとどまる」との見だしが躍って話題になった。「あれだけ強引なアップグレード誘導をしておきながら、ほとんどのユーザーはWindows 10に移行していないじゃないか」という意図が伝わってくるが、筆者は若干の違和感を抱いている。
これらはほぼ共同通信が配信した記事で、文中に引用されている「Windows 10の世界シェア21%」という数字の根拠は米Net Applicationsの調査報告を基にしているという。Net Applicationsがインターネット上で公開している「NetMarketShare」のデータは本連載でも度々引用しているが、これは「あくまで参考値」だ。実際のシェアを正確に反映しているとは言い難いので注意したい。
特にWebブラウザのシェアについては、ライバル(?)とも呼べる「StatCounter」と大きく異なったデータが出ることが知られている。数字そのものよりはむしろ、NetMarketShareで示されるデータをどのように分析するかが重要だ。
実際、Microsoft関係者からは「(NetMarketShareなどで出てくるデータは)実際に社内で把握している数字と異なる」という話を度々聞いている。テレメトリーを通して正確な各Windowsバージョンのシェアを把握しているMicrosoftからすれば、「数字の単純比較はちょっと……」という感覚のようだ。
そこで筆者の推測にはなるが、2016年8月時点におけるWindows 10の本当のOSシェアと、今後さらにWindows 10への移行を促す際の「ハードル」について考察する。
まずはNetMarketShareのデータを見ていこう。
NetMarketShareでは、デスクトップOSのシェアについて「単月」と「トレンド」での比較が可能だ。円グラフは単月でのシェア、折れ線グラフはトレンドを示している。トレンドの比較にあたって、開始月をWindows 10がリリースされた2015年7月、終了月を2016年7月としてみた。
Windows 10の提供開始が7月29日ということもあり、2015年7月は1%に満たないシェアだが、翌8月には一気に5%まで増え、その後も少しずつ順当に数字を伸ばしている。なお、共同通信で引用された21%というデータは「2016年7月」の「21.13%」という数字から来ている。
NetMarketShareのトレンドで注目してほしいのは、2015年7月時点でWindowsの4つのバージョン(7、10、XP、8.1)を足したシェアと、2016年7月時点の同4バージョン合計のシェアでそれほど誤差がない点だ。このデータを見る限り、Windows 10は7と8.1からのシェアがほぼそのままスライドして増加していると考えられる。
言うまでもなく、これは無料アップグレードの提供によるスライド効果だと考えていい。昨今、PC市場全体が停滞傾向にあることを考えれば、世界で稼働するPCの総数はここ2〜3年ほど大きく変動しておらず、既存PCのOSアップグレードまたは買い換えによってWindows 10のシェアが増加していると予想できる。
また、NetMarketShareが提供するデータのサンプリングに偏りがあるとしても、同調査内での数字は矛盾していないと考えられる。少なくとも「(NetMarketShareの集計分については)無料アップグレードの提供によって2割のユーザーを移行させることに成功した」と言える。
参考のために、同じ時間軸でStatCounterのデータについても見ていく。StatCounterのOSシェア調査では「デスクトップ」「タブレット」「モバイル」(さらにいえば「コンソール」)の3つのチェックボックスが用意されており、単純に「デスクトップOS」でシェアを比較する場合でも「タブレットを含むかどうか」が選択できる。
この最大の違いは「iPadが含まれるかどうか」だ。もし「タブレット」にチェックを入れた場合には、iPadのシェアが加算されてWindows OSのシェアが落ちる。今回は純粋に「デスクトップ」のみにチェックを入れて比較してみると、NetMarketShareと比較してWindows 7のシェアはやや低めに、Windows 10のシェアはやや高く「23.48%」となる。
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