期待のARM版Windows 10に待った? Intelが特許問題をちらつかせる理由鈴木淳也の「Windowsフロントライン」(2/2 ページ)

» 2017年06月21日 06時00分 公開
前のページへ 1|2       

ARM版Windows 10はIntelの特許を侵害しているのか

 問題は、今回のARMプロセッサにおけるx86エミュレーションの責任がどこにあり、実際にその影響がどこまで及ぶかという点にある。

 Microsoftが公開している資料によれば、AMR版Windows 10は、カーネルやドライバはARMネイティブで動作しており、ARMバイナリのアプリケーションを実行する場合、変換プロセスが介在する余地はない。

 一方でx86バイナリのアプリケーションを実行する場合、「Windows on Windows(WoW)」の形で抽象化レイヤーが用意され、エミュレーションによるx86プロセスと既存のARMプロセスとの仲介が行われる。

 このWoWは、通常のx86版Windowsにおいても、64bit版Windows上で32bit版プロセスを実行するのに用いられている手法だ(つまり「x32 on x64」)。AMR版Windows 10では、64bit ARM上で32bit x86のコードを実行していることになる。

x86 emu Microsoftが公開するARMプロセッサ上でのx86エミュレーションの仕組み

 ただ、過去のIntelとの特許紛争においては半導体メーカーが対象であり、x86互換プロセッサにしろ、TransmetaのCrusoeにしろ、プロセッサ上で直にx86コードを実行できることに問題があった。Transmetaのコードモーフィングソフトウェアによるエミュレーション技術はプロセッサ上で展開され、OSやアプリケーションはそれを意識せずにx86コードを実行できる点が重要だったのだ。

 しかし今回、Snapdragon 835のケースでは、プロセッサそのものはARMバイナリしか実行せず、WoWの形でOSがソフトウェアとして別途x86バイナリ実行環境を用意することで対応している。

 この場合、責任の所在はARM版Windowsを提供するMicrosoftにあるのだろうか。それとも、パートナーとしてプロセッサを供給するQualcomm、あるいはQualcommのプロセッサを搭載してARM版Windows 10をプリインストールしたPCを販売するメーカーにあるのだろうか。

 少なくともMicrosoftとしては、OEMメーカーとの契約でWindowsのライセンスにあたって特許紛争から保護する必要がある。もしIntelが何らかのアクションを起こした場合には、動かざるを得ないだろう。

実際の製品が出てからの動向に注目

 しかし現在のところ、MicrosoftとQualcommは静観する構えのようだ。

 米ZDNetのメアリー・ジョー・フォリー氏が両社にコメントを求めたところ、その回答はIntelとの件に関して何も触れておらず、具体的なアクションを起こす様子もない。

 これは筆者の予想だが、Intelも現時点で何らかの具体的なアクションを起こす可能性は低く、もし動くとしても実際にARM版Windows 10搭載製品が登場した2017年第4四半期以降のタイミングになるだろう。

 また、いきなり訴訟を起こすよりも、ARM版Windows 10の提供を表明しているASUS、HP、LenovoといったOEMメーカー側にアプローチする可能性が高い。これらはIntel製プロセッサを搭載したPCを販売する同社の顧客であり、PC市場のシェア上位を占めるトップベンダーだ。

 まずは契約条件での優遇案など、訴訟とは違う表立っての行動を伴わない水面下での戦いが行われるのではないだろうか。

ARM版Windows PCの提供に賛同するASUS、HP、Lenovo。実際に2017年第4四半期以降にどような形で製品が出てくるのだろうか
前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2024年04月25日 更新
  1. ワコムが有機ELペンタブレットをついに投入! 「Wacom Movink 13」は約420gの軽量モデルだ (2024年04月24日)
  2. 16.3型の折りたたみノートPC「Thinkpad X1 Fold」は“大画面タブレット”として大きな価値あり (2024年04月24日)
  3. 「IBMはテクノロジーカンパニーだ」 日本IBMが5つの「価値共創領域」にこだわるワケ (2024年04月23日)
  4. 「社長室と役員室はなくしました」 価値共創領域に挑戦する日本IBM 山口社長のこだわり (2024年04月24日)
  5. Googleが「Google for Education GIGA スクールパッケージ」を発表 GIGAスクール用Chromebookの「新規採用」と「継続」を両にらみ (2024年04月23日)
  6. バッファロー開発陣に聞く「Wi-Fi 7」にいち早く対応したメリット 決め手は異なる周波数を束ねる「MLO」【前編】 (2024年04月22日)
  7. ロジクール、“プロ仕様”をうたった60%レイアウト採用ワイヤレスゲーミングキーボード (2024年04月24日)
  8. あなたのPCのWindows 10/11の「ライセンス」はどうなっている? 調べる方法をチェック! (2023年10月20日)
  9. ゼロからの画像生成も可能に――アドビが生成AI機能を強化した「Photoshop」のβ版を公開 (2024年04月23日)
  10. MetaがMR/VRヘッドセット界の“Android”を目指す 「Quest」シリーズのOSを他社に開放、ASUSやLenovoが独自の新ハードを開発中 (2024年04月23日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー