ディズニーがSVOD(定額制動画配信サービス)「Hulu」の支配権を完全掌握しました。米Walt Disney Companyが、Huluの株式33%を持っている米Comcastとの“売買特権付きオプション契約”で、Comcastが持っていた権利を獲得したのです。
Disneyといえば、オリジナルのSVOD「Disney+」を年内に立ち上げることで注目されています。
Disneyはこれで、3つのSVOD(もう1つはスポーツ系の「ESPN+」)を運営することになります。少なくともすぐにHuluがDisney+に統合される、ということはなさそうです。むしろ、健全であるべきDisneyブランドのSVODでは扱いにくいR指定作品(傘下のMarvel作品「デッドプール」など)はHuluで、という使い分けをするのではないかとみられています。
いずれにしても、主力のDisney+のための身辺整理という印象。Disneyは2008年のHulu正式立ち上げから1年後に経営に参加しましたが、出資者(Comcast、Disney、米News Corp.、米AT&T)同士の利害対立などで、Huluの運営は思うようにいっていませんでした。
Disneyは、2017年8月にDisney+の立ち上げ計画を発表した段階で、既にHuluの支配をもくろんでいたようです。計画発表の数カ月後には、Hulu株の30%を持っていたNews Corp.傘下の21st Century Foxを買収すると発表しました。3月の買収完了で、DisneyのHuluの権利は60%に。今年の4月にはAT&Tが10%の株を手放しました。
Huluは出資者それぞれのコンテンツを扱えるのが強みでしたが、出資者はDisneyだけになってしまいました。DisneyはDisney+を特別扱い(傘下のコンテンツの独占など)する気満々なので、Huluが今後どうやって生き延びるのか心配です。
ちなみに、日本のHuluは、世界進出しようとして「やっぱりやーめた」ということで、2014年には日本テレビ放送網(日テレ)が買収済み。ライセンスはしていますが、経営はDisneyとは無関係です。
ところで、DisneyにHuluを明け渡したAT&TとComcastはSVODから撤退するのかというと、その逆です。
AT&Tは傘下のWarnerMedia(旧Time Warner)で2020年に独自のSVODを開始すると発表しています。WarnerMedaは、HBO、Turner、Warner Bros.を持っています。HBOは、あの「ゲーム・オブ・スローンズ」の制作者ですよ。
Comcastも傘下のNBCUniversalで、やはり2020年に独自のSVODを開始すると発表しています。
DisneyとComcastとのHuluについての細かな契約条件には、NBCUniversalのSVOD戦略が絡んでいるようです。
この契約では、NBCUniversalは3年以内にHuluとのコンテンツライセンス契約のほとんどを終了できることになっています。つまり、もしかしたらHuluからコンテンツを引き上げるかもしれません(引き上げないかもしれません)。また、1年以内にオリジナルコンテンツ(「Saturday Night Live」や「This Is Us」など)をNBCUniversalのSVODに持っていくこともできます。1年後にはHuluの魅力がまた落ちそうです。
今でも既に、Netflix、Amazonプライムビデオ、Apple TVチャンネル、YouTube Premiumなど群雄割拠の状態なのに、2020年までに少なくともあと3つ参入するわけです。
もともとSVODは、インフラにもコンテンツにもお金がかかり、それほどもうかるビジネスではないはず。
この厳しい戦国時代を生き抜くために、それぞれが手持ちのコンテンツを独占するかもしれません。Disneyは既にNetflixとの契約を打ち切り、今後傘下が製作する作品は「Disney+エクスクルーシブ」だと言ってます。
もしかしたら、「スター・ウォーズ」シリーズを見るにはDisney+に、「ゲーム・オブ・スローンズ」を見るにはWarnerMedaのSVODに、Netflixオリジナルを見るにはNetflixに、AppleオリジナルのApple TV+を見るにはApple TVチャンネルにと、それぞれのサービスに加入しなければならなくなるかもしれません。
それぞれのサービスはサブスク(サブスクリプション)で月額7ドル前後ですが、なかなか物入りなことになりそうです。
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