MicrosoftがWindows 10Xを切り捨てた理由はいくつかあるが、その1つには「既存のPCだけで十分に戦える」と判断していることがあると考えている。
ここ数年においてChromebookの伸長があり、実際にローエンドや教育分野でWindowsの市場を侵食されているのは間違いないのだが、一方でPC市場そのものは大きく成長している。以前の連載でも触れたようにWindows 10の世界の稼働台数は13億台と1年間だけで3億台も一気に伸ばしており、実際にMicrosoftの業績報告でもライセンス売上の急増という形で表れている。
つまり、「Windowsの派生バージョンをいろいろ出して細かく市場を攻略していくよりも、一番強みを持つ分野に注力した方がいい」という戦略的判断に傾いた可能性がある。
問題は、WFH(Work From Home)により一気に拡大して活況を呈するPC市場がどこまでこの状態を維持できるかだ。目先の不安要因としては、世界的な半導体不足で「需要に応えるだけの供給が行えない」というサプライ的な問題があるが、筆者としてはそれ以上に「PCが一通り行き渡った後にやってくる反動」の方が怖いと考えている。
スマートフォンを含め、デジタル機器の購入サイクルは年々延びていることが指摘されているが、この背景には技術革新が一定の水準に達し、買い換えてもユーザーが性能の向上を体感しにくくなったことがある。同時に、AppleのiPhoneなどにみられるように、PCよりも循環サイクルの短いスマートフォンにおいて、いまだに5年以上前に発売されたデバイスのソフトウェア更新が行われているほどだ。
「PCは買いたいときが買いどき」というが、望む内容を備えたPCがなかったり、企業で充分な設備投資の予算を組めたりしなければ、需要の一巡後は買い控えが待っている。特に、過去1年ほどのPC需要の急速な高まりは2010年以降なかったもので、これだけの需要の急増に対する反動は相当に大きいのではないのかというのが筆者の推測だ。
ユーザー側のハードウェアの更新が停滞するということは、新しい機能やサービスを提供者側がアピールする際に「新しいハードウェアやサービスを売るためのユーザーのモチベーションを上げるハードル」がさらに高くなることを意味しており、PCメーカーのみならず開発者など周辺への影響も大きい。
おそらく、2022年以降はこの反動について考える機会が改めてやってくると筆者は考えている。
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