先述の通り、コロナ禍によってPCに「コミュニケーションデバイス」としての役割を求めるニーズが高まっている。具体的にはWebカメラの画質向上、マイクやスピーカーの音質向上、自動ミュート機能や消費電力の改善など使い勝手の向上が求められるようになった。大和研究所でシステムデザイン戦略を担当する楊学雍氏(アドバイザリーエンジニア)の言葉を借りれば「リアルと同じように表情や感情を伝えたい」と思う人が増えているのだ。
ThinkPadでは、この観点に立った機能強化を2021年モデルから行っている。2022年モデルでは取り組みをさらに強化し、ほぼ全モデルでフルHD(1920×1080ピクセル)撮影に対応するWebカメラを選択できるようになった。
ThinkPadのフラグシップモデルの1つ「ThinkPad X1 Carbon Gen 10」では、先代(Gen 9)では選べなかったフルHDカメラを搭載できるようになった。それだけではなく、MIPI(Mobile Industry Processor Interface)でCPU(※1)と“直結”するカメラも選べるようになった。
(※1)厳密にはCPU内にあるIPU(Imaging Processing Unit)
従来モデルでは、WebカメラをUSB接続している。「USB接続じゃダメなの?」と思うかもしれないが、楊氏によるとUSB接続のカメラはモジュール内にあるISP(Imaging Signal Processor)でデータを圧縮して伝送するため、どうしても画質の劣化が発生してしまうのだという。それに対して、MIPI接続のカメラはカメラモジュールからの“非圧縮データ”を受け取れるため、画質を大きく改善しやすいとのことだ。
ただ、カメラモジュールの生データを受け取るということは、やりとりする信号線も多くなる。従来のUSB接続カメラでは、液晶パネルの裏からヒンジを経由してマザーボードまでケーブルを取り回していたが、ヒンジのサイズやCPUまでの距離を考えると、MIPIケーブルを直接取り回すことは困難だ。
そこで大和研究所では、先行開発としてMIPI規格の信号をヒンジに通す方法を検討した。その結果、カメラからのケーブルの途中にFPGA基板を挟み込み、別の信号線と“合流”させることで狭いヒンジにケーブルを通すことができた。
「MIPI接続なら画質を改善しやすい」とはいうものの、単純に載せるだけでは満足できる画質の実現は難しい。そこでMIPI接続のカメラでは、モジュール自体に以下の改善を加えたという。
さらに、CPUの開発元であるIntelのイメージングチームと共に半年以上をかけて画質の調整を行ったという。かなりの力の入れようである。
なお、X1 Carbon Gen 10で使われるカメラモジュールは「ThinkPad X1 Yoga Gen 7」や「ThinkPad X1 Nano Gen 2」と共通化されている。これにより、コストの削減を図ったようだ。
X1 Carbon/X1 Yoga/X1 Nanoでは、2021年モデルから電波を使った人感センサー「コンピュータービジョン」をオプションで搭載できる。それは2022年モデルも同様なのだが、以下の機能強化が図られている。
この機能改善に当たっては、400万人以上の画像を使ったデータの学習や、誤判定を極力少なくするためのチューニングなどかなりの労力を割いたようだ。
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