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「ThinkPad」が生まれて30年 次の30年を占う2022年モデルはどんな感じ?(3/4 ページ)

» 2022年07月30日 18時45分 公開
[井上翔ITmedia]

「ThinkPad X13s Gen 1」はなぜSnapdragonを搭載したのか?

園田さん 大和研究所のThinkPadプロダクトグループに所属する園田奈央氏(マネージャー)

 2022年モデルのThinkPadでは、13型の「ThinkPad X13s Gen 1」も大きな注目を集めた。従来の「s」を付くモデルは通常モデルに対する薄型(軽量)構成を意味しており、確かに同世代の「ThinkPad X13 Gen 3」と比べると薄くて軽いモデルではある。

 しかし、このX13s Gen 1はX13 Gen 3とは全く異なるモデル。QualcommのSoC(System On a Chip)「Snapdragon 8cx Gen 3」を搭載しているのだ。初めてWindows on Armを採用したThinkPadでもある(※2)。

(※2)ArmベースのSoCという観点では、過去にAndroidを搭載した「ThinkPad Tablet」がリリースされている

 なぜ、Windows on Armを採用したのか。大和研究所のThinkPadプロダクトグループでCoC Japan マネージャーを務める園田奈央氏は、ハイブリッドワーク時代に求められる「次の当たり前」を実現する上でSnapdragon(Armプロセッサ)の採用は必要だったと語る。

X13s Gen 1 ThinkPad X13s Gen 1は「次の当たり前」を実現するために登場した新モデルだという

 先に塚本常務が触れたように、ハイブリッドワークが普及する昨今では、ノートPCを持って職場と会社を行き来するのはもちろんのこと、サテライトオフィスやレンタルオフィスを含む出先でノートPCを使う機会も多くなる。常にコンセントのある場所で作業できるとも限らないので、より長いバッテリー駆動時間の確保が必要となる。

 そしてクラウドサーバ、あるいはVPN経由で社内サーバにある仕事のデータをダウンロードをするためにはインターネット接続が必要となる。Wi-Fi(無線LAN)が常にどこにでもあるとは限らないので、できればモバイル通信で場所や時間を問わずにデータのやりとりができると望ましい。持ち運んで使うとなると、持ち運びやすさも重要である。

 バッテリー駆動時間、常にモバイル通信できる環境、持ち運びやすさを全てかなえるとなると、Snapdragonの採用が最適と判断したようだ。

ハイブリッドワーク ハイブリッドワークでノートPCに求められる要素を高いレベルで実現するにはSnapdragonが最適だと判断したようだ

 ただ、ThinkPadはビジネス向けノートPCである。企業の管理者目線に立つと、今までのセキュリティソリューションや管理機能の利用可否導入を進めてきたPC周辺機器との互換性は気になる所である。そこでレノボでは、SoCのサプライヤーであるQualcommや、OSのベンダーであるMicrosoftと密に連携を取ることで“従来の”ThinkPadと同じ使い勝手を実現できるように取り組んできたという。

互換性 企業の管理者の目線で考えると、従来モデルとの互換性を確保できることはとても重要である
協業で何とか そこでQualcommやMicrosoftと協業し、従来のThinkPadの使い勝手を維持できるように取り組んだという

 ThinkPad X13sの開発に当たって、まず従来のThinkPadにおいて継承されてきた200を超える機能を「棚卸し」し、搭載する機能の優先順位を定めた。製品企画担当だけではなく、品質担保チームやサポートチームも巻き込んで、かなりの労力を割いて検討を行ったという。

 その後、社内で検討した優先順位をもとに、Qualcommと要件のすり合わせを行った。さまざまなリスクを並べた上で「何ができて、何ができないのか」を検討し、それを踏まえてプロトタイプ(試作機)を作成した上で、実際の仕様を確定していったそうだ。

 だが、仕様の確定後も、その評価について「壁」にぶつかったという。従来とアーキテクチャが異なるので、今までと同じツールを利用できない部分が発生したのだ。この点は、QualcommやMicrosoftと協議をしつつ解決していったという。

プロセス 新しいアーキテクチャということもあり、社内外とのすり合わせにかなり労力を割いた面もあったようだ。ある意味で「生みの苦しみ」ともいえる

 アプリの互換性については、Windows 11 on Armを利用して自社でテストを行った所、x86(32bit)/x64(64bit)エミュレーションを含めて80%を超えるアプリが正常に動作したという。MicrosoftやQualcommを含むパートナー企業と検証結果を共有することで、互換性をさらに高める取り組みも行っているという。

アプリの互換性 2022年5月にレノボが実施したテストでは、ビジネスでよく使われるアプリの80%超が問題なく動作したという。残り2割を減らすべく、検証結果を共有する取り組みも行っているという

 Snapdragonを含めて、ArmアーキテクチャのCPUは処理パフォーマンスを重視した「bigコア」と、消費電力の低減を重視した「LITTLEコア」の2種類を併載する「big.LITTLE」という構造を取っている。これがArmアーキテクチャのCPU(SoC)の電力効率が高い秘密……なのだが、高負荷な処理が意外と多いPCでは、bigコアが思った以上に働いてしまい、バッテリー駆動時間が短くなってしまうことがある。

 そこでレノボは、ThinkPad X13s Gen 1において電源設定のチューニングを行っている。具体的には、通常はbigコアを用いる中負荷の作業をLITTLEコアで行うように設定しているという。これにより、消費電力をより低減できたそうだ。

 最近のIntel/AMDプロセッサを搭載するThinkPadでは、膝の上で使っていることを検知すると自動的にパフォーマンスを抑える設定も行える。これはThinkPad X13sにも“移植”されており、電源設定を「最適なパフォーマンス」にしている場合でも膝上利用を認識するとパフォーマンスが抑制され、発熱による不快さを軽減してくれる。

チューニング ThinkPad X13s Gen 1では、中負荷の作業をbigコアではなくLITTLEコアでこなす電源設定が適用されている。中負荷時にbigコアを使わないようにすることで、消費電力を削減できるという
テスト Microsoft Teamsビデオ会議を行っても、最長で約7.4時間もバッテリーが持つという。意外と消費電力の大きいビデオ会議において、この数値はかなり頑張っている方である
電源設定 電源設定項目は、Intel/AMDプロセッサを搭載するThinkPadと同じ感覚で行えるようになっている

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