ナデラCEOは、「フュージョンチーム」のエンパワーメントも重要だと語る。
聞き慣れない人もいるかもしれないが、フュージョンチームは企業(部署)の本来業務に精通している人と、ICT技術に精通している人(ICT技術者)を混成したチームのことをいう。最近ではフュージョンチームにおけるICT技術者を求める企業も少なくないようで、ナデラCEOによると「ICT業界よりも他業界の方がICT技術者を(多く)求めている状況」だという。
ただ、DXを進める上では、実務とICT技術の両方の知見が欠かせない。どちらか片方が欠けてもうまく行かない可能性が高い。もっといえば、技術者“以外”のメンバーが果たす役割も大きくなる。
Microsoftではさまざまな「開発ツール」を提供しているが、以前は専門的な技術者(プログラマー)に向けたものが中心だった。しかし、従来の開発ツールでは専門知識が必要となるため、技術者以外が関与することが難しくなってしまう。
そこで同社は2018年、ノーコード(文字入力なし)、あるいはローコード(簡単な関数入力)でプログラミングできる開発ツール「Microsoft Power Platform」をリリースした。Power Platformを使うと、プログラム言語の知識が無い人でも機械的(定常的)なタスクを自動化する「RPA(Robotic Process Automation)プログラム」やテキスト入力に対して自動返答する「チャットボット」を作成できるという。
Power PlatformにはAIも組み込まれており、自然言語や画像(写真)を解析してプログラムに反映させることも可能だという。
Power Platformは、純粋なアプリを作成するための「Power Apps」、RPAプログラムを作成するための「Power Automate」、チャットボットを作成するための「Power Virtual Agents」、データ分析用ツール「Power BI」、Webサイトを作成するための「Power Pages」の5つから構成される
フォームのイメージ図を紙に書いて、それをスマートフォンのカメラで撮影して送信すると、AIが分析してフォームとして起こしてくれる機能もある。関数ではなく自然言語(普通の言葉)を使ったプログラミングにも対応しているMicrosoftでは、技術的知識のない開発者を「市民開発者(Citizen Developer)」と呼んでいる。今回の講演では、日本における企業の市民開発者の事例として花王が紹介された。
花王ではファインケミカル製品の製造部門において2021年頃から「Power Apps」が導入されており、そのプログラミングは工場のサプライチェーン担当者が担当している。当然、サプライチェーン担当者はプログラミングに関する専門的な知識のない「市民開発者」である。
開発されたアプリは国内の10工場で合計260個以上あり、特に和歌山工場ではそのうちの59個を開発したという。
Power Platformからは離れるが、国内事例としてはメルカリが社内の標準開発ツールとして「GitHub」を活用している例が紹介された。ソースコードをGitHubを使って管理しつつ、その成果の一部をオープンソースとしても公開している。
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