冒頭でも触れた通り、新型コロナウイルス感染症は日本だけでなく世界の社会の様子を大きく変えた。
感染による重症化率が低くなったこともあり、最近はオフィスワークに回帰する企業がある。反面、テレワーク(在宅勤務/サテライトオフィス出社)を前提とする勤務体系に変更し、固定オフィスは廃止/縮小した企業も存在する。感染症の落ち着きが、ある意味で働き方のさらなる多様化を進めたともいえる。
その一方で、ナデラCEOは働き方の多様化による「生産性のパラノイア(幻想)」に気を付けるべきだと警告する。
Microsoftが11カ国で実施したアンケート調査によると、従業員の約67%が「自分の仕事は生産性が良い状態だ」と答えた。しかし、「自分の組織は生産性の良い状態だ」と答えた企業/団体のリーダー(管理職や経営層)はわずか約11%だったという。リーダー層と一般従業員層で認識の乖離(かいり)が見受けられることが分かる。
このような認識の乖離は、「オフィスへの出社」に対する認識にも見受けられる。企業団体のリーダーの約69%は「オフィスに来てもらうためにポリシー(就業規則)よりも良い理由が欲しい」と考えている。端的にいうとリーダーは「就業規則によらずにオフィスに来てもらいたい」というわけである。しかし、従業員の約74%は「オフィスには他の人に会うために来ている」と答えている。会社(リーダー)があれこれ言わずとも、従業員が“絆”を感じていればオフィスは「出会い(意見交換)の場」として機能するということである。
そして「組織の再活性化」という観点でも認識に差がある。リーダーの約48%は「スキルを磨く最良の方法は会社を変えることである」と考えているが、従業員の約64%は「学習の機会があれば職(会社)により長く就きたい」と考えている。会社自体を変えることを目指すのか、自分自身を変えることを目指すのかという点でも視座のズレが生じている様子が伺える。
ナデラCEOは、このような乖離を埋め、生産性を高めるツールとして「Microsoft 365」「Microsoft Teams」「Microsoft Viva」があると語る。
企業向けMicrosoft 365では、従来からある「Microsoft Office」だけではなく、「Clipchamp」「Designer」といったクリエイティブツールも利用できる。そしてTeamsも利用可能だ。さまざまな職種の人の創意工夫をツールを介して共有することで、互いが刺激し合う環境を作れるという。
Teamsは、アップデートを重ねることで「チャット」「会議」「通話」「コラボレーション」「業務の自動化」をこなせるプラットフォームに進化した。1つのアプリにさまざまな機能を載せることには議論があるものの、いろいろなタスクをTeamsでこなせることはメリットとみなすこともできる。
今後、Teamsでは会議用アプリのさらなる拡充と、よりリアルなアバター「Microsoft Mesh」への対応を進めていくという。特にMeshは「Immersive Meeting(没入感のある会議)」を実現するために重要だと考えているようで、強く推進していくとのことだ。
企業向けSNSに端を発するVivaについては、従業員同士のつながりを確保する「Vivaコネクション」「Vivaエンゲージ」を軸に据えつつ、従業員の生産性やウェルビーイングをチェックできる「Vivaインサイト」、個人や組織の目標管理を行う「Vivaゴール」、ビジネスに必要な学習を援助する「Vivaラーニング」など、機能を拡充してきた。組織のつながりや強化につながるツールとしての活用を目指しているようだ。
Microsoft Vivaの活用事例としては、東京都の渋谷区役所が紹介された。同区は特にVivaインサイトを活用しているようで、職員のハイブリッドワーク化(在宅勤務と出勤を組み合わせた働き方)の進め方の検討に使ったという。
この他、基調講演では11月14日に発表された「Microsoft Supply Chain Platform」と、同社のセキュリティプラットフォームに関する説明も行われた。
非常に情報の多い基調講演だったが、改めて思うのはMicrosoftは今や「ソフト」の会社ではなく「ソリューション」の会社であるということである。もちろん、ソフト(アプリ)を捨てたわけではないが、ソリューションの引き立て役としてソフトが存在するような印象である。
ナデラCEOの来日は、Microsoftにとって日本のビジネス市場は重要であるというメッセージだと思われる。さまざまな分野に存在するライバル企業たちとどのように渡り合っていくのか、今後も目が離せない。
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