HomePodがどのように使う製品かは、冒頭でも少し触れたが改めて説明しよう。
製品としての基本は、音質の良いスマートスピーカーだ。面倒なBluetoothの設定が不要なのはもちろん、ほぼ自動的に初期設定が完了し、一度設定をすればAirPlayの操作すらいらない。音楽を再生中のiPhoneを本体に近づけるだけで曲の再生をハンドオーバーできるなど、他製品とは一線を画す使い心地の良さを備えている。
では、その音質はというと、基本姿勢は原音に忠実な音の再現と言えるだろう。
世界中のクリエイティブ プロフェッショナルが使うApple Proシリーズの製品の画面の色再現もそうだが、Appleは基本的にはウケがいいように過剰な演出をしたり、他と差別化したりするためにクセを出すことを嫌う会社だ。
これは音の再現に関しても同じで、HomePodの音も基本的に狙っているのは「オリジナルに忠実な音」となる。iPhoneでの音楽再生も、HomePodから再生する場合に限りイコライザー機能が無効になるが、それも徹底して原音の再現に力を入れている証拠かもしれない。
新旧のHomePodを比べると、低音域を担当するスピーカーのウーファーは初代製品と同じで4型サイズを1基搭載しているが、高音域を担当するスピーカのツイーターは旧製品では7基あったのに、新製品では5基へと減っている。
しかし、だからと言って音が弱くなったり、音質が悪くなったりした印象はない。スピーカーは数が多ければいいというものではなく、数が増えればその分、音の干渉などの問題が起きることもある。これは設計を見直し、音の出方を整理した結果と見るのが正しいだろう(同様に内蔵マイクも6基から4基に減っている)。
プロセッサもS7という新型に進化し、処理速度が向上していることも関係している。このプロセッサの進化で新たに実現したのが、Appleが今、全面的に推している立体的な音を再現する「空間オーディオ」の再現性能の向上だ。新型では音質の解像感はそこまで変わらないが、空間的な解像感がかなり向上した印象がある。
特に2台のHomePodをステレオモードという設定でペアリングすると、映画館に迫るDolby Atmosの立体音響を再現できるようになる(iPhoneの「ホーム」アプリから、ペアにするスピーカーを選択するだけの簡単な操作でペアリング可能だ)。
初代HomePodもバージョン15.1から空間オーディオに対応していたが、ステレオペアリングした新旧のHomePodで空間オーディオ用にマスタリングされた曲や映画の音を聞き比べると、音の立体感が増しているのが分かる。音がどこから鳴っているかのメリハリが、かなり違うように感じた(設置した部屋の音響条件などで多少の差はあるかもしれない)。
初代HomePodが、音の解像感を高めることで立体感を出していたのに対して、新型HomePodは空間オーディオの音を本当に立体的にしてしまった。まるで4Kに対応してTVの解像度が上がったら、映像がこれまで以上に立体的に見えたというのと、本当に立体的に表示してしまう3D対応TVの映像を見るような質的な違いで、同じ音をステレオペアリングした初代HomePodと、ステレオペアリングした新型HomePodで聞き比べると、良かったはずの初代HomePodの音が少し色あせてしまう。
Appleは既に初代iHomePodで、この価格帯のスピーカーとしての音そのものの質としては完成させたと判断して、新型HomePodでは今後、Appleが力を入れていく空間オーディオの立体音響の質の向上に力を入れ始めているのかと感じた。
3D対応TVは、そもそもコンテンツが少なかったり、わざわざメガネをかける必要があったりで、未だに成功しているとは言い難いが、空間オーディオには、既にApple Musicで提供されている1億曲近い楽曲が対応している。
また、Dolby Atmosや360 Reality Audioという規格に対応した映画コンテンツやYouTubeの動画なども、立体的な音響で楽しめる。特に空中戦などのシーンでは新型HomePodの音の方が、部屋の広い範囲に回り込んでいるように感じた。
もちろん、さすがの新型HomePodでも単体、つまり1台だけで再生した場合には、そこまでの立体感は出ない。それでも従来のHomePodと比べて音が広がっているように感じるのは設置時に音の反響などをチェックして音を最適化する室内検知機能が、プロセッサ性能向上などで改善されているからかもしれない。
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