なぜパノス・パネイ氏最高製品責任者が退任に? WindowsとSurfaceの転換期を予感させる、9月のMicrosoftイベントに注目Windowsフロントライン(2/2 ページ)

» 2023年09月20日 06時00分 公開
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9月21日のイベントで何が発表されるのか?

 ハードウェアの発表内容に関しては、Windows Centralのザック・ボーデン氏が紹介しているので、ここでフォローしておきたい。

 ボーデン氏によれば、このタイミングで発表される製品は「Surface Laptop Studio 2」「Surface Laptop Go 3」「Surface Go 4」の3つで、Surface Go 4についてはArmバージョンの製品を計画していたものの、こちらは断念してIntel N200プロセッサのバージョンのみの投入になるという。

photo 現行モデルの「Surface Go 3」

 だが同氏の記事で最も興味深いのは「Surface Pro 10とSurface Laptop 6は登場しない」という話題に触れた部分で、2024年にも登場がうわさされるWindowsの次期バージョンの発表に合わせて今回は“お休み”という位置付けになるという。

 問題はこれまでにも何度か話題の出ている“Hudson Valley”こと「Windows 12」だが、今回のイベントでお披露目されることはないとの情報筋の見解を紹介している。だが後述するように、“次期Windows”と称されるOSはよりAIを重視しつつ、“Webセントリック”な機構になるとみられている。

 ローカルハードウェアでのAI処理を強化する一方で、ChatGPTにみられるようにサービスの実体はクラウド上で動作し、さらにMicrosoftのAzureと連携が強化されていくだろう。今回のイベントが「AIにフォーカスする」と銘打たれている以上、この部分の機能アピールが行われるのは確実で、少なくとも次期Windowsで本格搭載されることになる機能がプレビュー的にお披露目されることになるのではないかと筆者は予想している。

 Microsoftにとって、いまWindowsというビジネスは岐路にさしかかりつつある。The Vergeでトム・ウォーレン氏が2つのポイントに触れているが、1つは現在のサティア・ナデラ氏率いるMicrosoftの経営方針が「Windowsをクラウド方面に全面的にカジを切り、Azureのフロントとして機能させること」に傾いていること、そしてもう1つが「その方針を実現するためのハードウェアの開発」という部分にある。

 後者の鍵となるのは言うまでもなく「AI」であり、Surfaceなどもまたそうした方針にのっとった上で展開されるべきであるという考えだ。同様の話題にはBowden氏も触れており、次のようなコメントを出している。

 The internal memo also details Microsoft's key focus areas for Windows and hardware going into 2024:

 Build silicon, systems and devices that span Windows, client and cloud for an AI world

 Build experiences that blend web, services and Windows for an AI world.

 The memo makes mention of a new Windows and Web Experiences org, which my sources say is working on a secret new version of Windows that will serve as a true cloud and web-first OS designed to compete with Chrome OS, led by Mikhail Parakhin. I'll have more to share on this project at a later date.

 AIフォーカスという点では、Arm SoCでは既にそうした処理ユニットを搭載してライブラリの整備が進みつつあることがあり、この点でローカルでのAI処理を前提にしたスマートフォンなどのデバイスに比べ、x86プロセッサベースのPCは後手になっている。

 そのため、Intelなどは2023年に正式発表される「Meteor Lake」プロセッサにおいてMovidiusのNPU(VPU)をSoCに組み込む形でキャッチアップしていく。

 今後、PCプロセッサにおいてもNPUの採用は標準になるとみられ、OSのWebセントリック化とは別にAIのローカル実装も強化されていくことになる。前述のBowden氏が予測した9月21日のイベントで発表される製品群は、こうした実装とは離れたハードウェアとなるため、少なくとも“次期Windows”とされるOSとは戦略的にリンクしていない可能性が高い。

ハードウェアに一線を引くMicrosoft

 Surfaceを含むMicrosoftのコンシューマー向けハードウェア事業を厳しくしているのは、昨今の経済情勢だ。コロナ禍でテレワークが進んだこともあり、PC市場はここ10年ほどの停滞からは驚くほどの復活を遂げ、ある意味で収穫の時期を堪能していた。

 だが先食いした需要の反動もあり、急速に落ち込みがみられる。これはWindows OSをライセンスするMicrosoftの業績にも影を落としており、例えば7月に発表された同社2023年度第4四半期(4-6月期)決算では、Windows OEM(ライセンス)の売上が前年同期比12%減少し、デバイスに関しては20%の落ち込みを見せている。売上全体の年間推移を見ても、この2つの落ち込みは明らかだ。

photo 米Microsoftの2023年度第4四半期(4-6月期)決算における分野別の売上推移

 ライセンス事業はともかく、デバイス事業については活躍の余地が減っていると考えていい。これは筆者の予想となるが、Surfaceも“コア”となるいくつかの製品を除き、今後は整理の対象となる可能性が高くなっていると考える。

 実際、開発が進んでいたとされる「Surface Duo 3」については計画が中止されたことが伝えられており、キーボードやマウスを含む他のSurface周辺機器も終了が既に見えている。Microsoft全体の方針に沿ったデバイスでない限り、Surfaceのラインアップで生き残れる可能性が減少しつつある。

 先ほどのWarren氏の記事中では、絶えないうわさとして次のようなトピックにも触れている。前項のBowden氏が紹介した内部メモにもあるが、AI戦略を加速するデバイスや“半導体”の自社開発が近年の目標であり、Azureを強化するサーバ向け“半導体”や、それを補助する“エッジ”デバイスとしてのPCの開発に比重が移りつつあるようだ。

 There have been persistent rumors about the company building its own Arm chips for servers and Surface PCs, and even rival AI chips to avoid a costly reliance on Nvidia.

 以上を踏まえると、“ものづくり”という視点でMicrosoft内でオリジナルデバイスの開発における自由度は以前に比べて下がっており、結果論としてこの部分での志向が強いパネイ氏が、同社内で活躍するためのモチベーションが下がってしまったことが退社につながったのではないかという予測が出てくる。

 実際、Bloombergの報道を引用した形で各誌がPanay氏のAmazonのハードウェア事業への参画を報じており、こうした意向が反映される場としての転職ではないかという予測を補強するものとなっている。

 今回のPanay氏の退職の話をネガティブに捉えるか、それともMicrosoftが方針転換のために一気に舵を切ったのかという前向きな形で捉えるのかは、2024年以降に発表され、そして登場する製品を見て改めて判断する形となるが、純粋に「PCとそれを動かすWindows」というシンプルなハードウェア+ソフトウェアだった時代は終わり、クラウドとAIという要素が新たな枠組みとして大きなポジションを得つつあるという、Windowsの歴史上大きな転換点に達しつつあるというのは間違いないだろう。

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