外でも使えることを考えた時、XREALのデバイスにはあえてカメラは搭載していないとPJ氏は言います。インタビュー当時、同氏はちょうど英国ロンドンから来日してきたところでしたが、ロンドンではこうしたガジェットをつけていると呼び止められることがあるそうです。「カメラで盗撮していないか?」と。
ARグラスといえば、「Google Glass」というガジェットがありました。10年ほど前ですが、米国サンフランシスコでGoogle Glassのカメラでビデオ機能を使ったところ、バーにいた別の客から暴行を受けるという事件がありました。プライバシーに関する問題が根本的にはあるのだと思います。
もしかするとウェアラブルデバイスへのカメラ搭載も少しずつ市民権を得ていくかもしれませんが、外で使えることを目的とするのであれば、火種が生まれないようにカメラは搭載しない、というのは一つの方法だと感じます。
もちろんカメラを前提とした機能は使えなくなってしまいますが、「どこに価値の重点を置くか?」という製品としての取捨選択だとも感じました。カメラは搭載しないとしても、LiDARのような距離が測れるセンサーは搭載してもいいのではないかと思います。ARベースのMR実現が近づく気がします。
Apple Watchのように「常時身につけるもの」として考えると、求められるのが通知の表示機能ではないでしょうか。スマホやPCのディスプレイを常時表示するのではなく、普段は何も映っておらず、通知を受けとったらグラスの視界上に表示するというイメージです。
常に装着する場合、常にディスプレイを表示したいわけではありません。そうした考えをPJ氏に伝えたところ、XREALが提供しているSDK(アプリ開発用のキット)を使うことで実現できるかもしれないとのこと。
個人的には標準機能として提供をお願いしたいところです。インタビューではお話しませんでしたが、リアルタイム通訳表示も期待したいところです。そもそもスマホに接続している状態を前提としたデバイスなので、処理はそちらで実施すれば問題ないはずです。
そして、こうしたメガネタイプのガジェットで問題になるのが、メガネのデザインです。個人的な感覚かもしれませんが、例えばカフェでサングラスをして仕事するのはかなり怪しい人に見られる可能性が高く……。なかなか勇気が出ません。
というのも、私はカフェで仕事をする時に必ずPCのディスプレイにはプライバシーフィルターを装着しています。XREALのようなARグラスは、外で仕事をするときの拡張ディスプレイとしても期待しているのです。ARグラスを使うことで周囲から表示内容が見えないというメリットがあります。もちろんマルチディスプレイの恩恵もあります。
PJ氏は「私は自分が使う分には気にならない」とのこと。このあたりは各国の環境や個人差がありそうですね。そして、こうしたグラスのデザインは「何が最適なのか」は難しく、さまざまなデザインパターンを販売するわけにもいかないため、今はできるだけベーシックなサングラスをイメージしているとのこと。
ただ、今回のXREAL Air 2では、メガネのテンプル部分に貼るスキンシールがあるそうです。Apple Watchのバンドのように、少しずつ遊び心が広がっていくかもしれませんね。
一つこちらの要望として挙げたのが、メガネ側で簡単な画面内の操作をしたいという点です。例えば、メガネのテンプル部分にタッチ操作できるようなインタフェースを搭載し、最低限の操作をできるようにするイメージです。
PCの拡張ディスプレイとして使う時はいいのですが、スマホのミラーリングとして使う場合、スマホをポケットに入れておきたいケースがあります。今後、外で使うのであればなおさらです。しかし、スマホはポケットにあるので操作ができません。Androidであれば、マウスとして接続すればカーソル操作はできるはずです。もちろん、インタフェースのサイズ感やハードウェア技術的な壁はあると思いますが、何かしら操作できる仕組みが欲しいところです。
これについて「なかなか面白いアイデア」とPJ氏。実現性については「さまざまな要望がある中、その対応優先度と、それを使うユースケースやニーズ次第なところである」というコメントでした。もし必要とされている方が他にもいましたら、ぜひ日本XREALに声を届けましょう。
個人的には、ビジネスでの活用にも大いに期待をしています。特にリアルな空間と合わせる点で価値が作れるのではと感じています。
例えば3Dプリンタでモノの試作品を作る時です。3Dプリンタ自体、試作品を作るのに適した機材ですが、モノの出力には数時間〜数十時間とかかるもの。印刷する前に、立体的にどのように見えるのか、実際のスケールだとどれくらいの大きさになるのか……といったことがARグラスでつかめれば、無駄なプリント出力を避けられます。3Dプリンタは大きなモノは苦手ですので、実際のスケール感が分かるのは重宝しそうです。
現在の技術からすると、そう難しいものではないと考えていますが、いざ業務で使おうと考えた時、こうしたワークフローを構築するには骨が折れます。例えばCADから一気通貫でAR、3Dプリント、実製品サンプルの作成といった一式のワークフローを構築、提供することで、導入ハードルを下げることができるのではと感じます。
PJ氏によると「今はコンシューマーを中心に対応しているが、法人向けもどんどん考えていきたい」とのこと。XREALのSDKを使っていけばそうしたワークフローを構築していくことも可能だとのことでした。
SDKは公開されています。業務の1ピースとしてARグラスが効果を発揮できるポイントが見いだせれば、サードパーティーとしてそのワークフローを構築し、展開、提供する。そうしたビジネスチャンスが眠っているのでは、と感じます。
PJ氏はとても気さくで、私としてもとても気軽にお話できる方でした。インタビューは約1時間でしたが、あっという間でした。そして印象的だったのが、新製品、さらにはARが切り開く未来をワクワクされていることです。少しずつ技術が発展し、よりできることが増えていく。そうしたタイミングにきていると私も感じています。
もしARグラスをまだ体験されていない方は、最近だとビックカメラやヨドバシカメラといった店舗でも展示がなされています。グラス系のガジェットは体験してみないと、その感覚は絶対に分かりません。ぜひ一度は手に持っていただければと思います。
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