今までの眼鏡とViXion01の最も大きな違いは、静的/動的という点だ。眼鏡は全ての対象物に対して同じ光学処理を施すため、距離によって眼鏡を掛け替えたり、視線を変えてレンズの異なる場所を通して見たりといった、利用者側の積極的なアクションを必要とする。
一方、ViXion01はどこを見ようとしているのかを判断し、それに合わせてピントを自動調整するため、利用者側の特段のアクションを必要としない。
そしてViXion01とヘッドマウントディスプレイの違いは、光学処理か映像処理かという点だ。VRで実用化されているヘッドマウントディスプレイでも、オートフォーカスで撮影した外部映像を投影し、接眼レンズで補正することで同様のことはできるかもしれない。
だが、ViXion01のように約55gという軽量を実現することは難しいだろう。ViXion01はあくまでレンズによる視覚矯正であり、レンズの厚み/形状を変化させることでフォーカスするため、駆動部分を持たず、動作音もない。そういった意味でもViXion01は今までにない領域のテクノロジーであり、新しいカテゴリーの製品であると言えるだろう。
このような今までにない製品であるViXion01を製造/販売するViXionは、HOYAのビジョンケア部門が2021年に分社化して設立された会社だ。HOYAは80年以上前に設立された光学機器/ガラスメーカーで、眼鏡レンズや眼内レンズなどで大きな国内シェアを持っている。
ViXionのパーパスは「テクノロジーで人生の選択肢を拡げる」であり、人生の選択肢の拡大に向けて、見え方の能力拡張に挑む、とある。
1製品目は暗所での見え方を改善する「HOYA MW10 HiKARI」で、ヘッドマウント内に低照度高感度小型カメラを内蔵し、画像処理後に目の前のディスプレイに投影する。対象となる利用者は夜盲症や視野狭窄(きょうさく)の人だ。
そして今回のViXion01では眼のピント調整をサポートすることで、老眼などの人の見え方改善に大きな効果をもたらした。
中でも、白内障手術で単焦点の眼内レンズを入れている人にとってその効果は大きい。老眼はピント調整機能が衰えている状態だが、単焦点眼内レンズはピント調整が全く働かない。そのため、生活スタイルに合わせて遠/中/近距離のいずれかに焦点を固定することになるが、生活スタイルは時代や年齢によっても変化する。
しかし、眼内レンズは手術後1〜2カ月で癒着し、摘出できなくなるケースが多い。ViXion01による恩恵には多大なものがあるだろう。
白内障は50歳代で60%、80代ではほぼ100%の罹患(りかん)率とも言われている。老眼に至っては病気ではなく、万人が避けられない加齢による変化だ。オートフォーカスアイウェアによって人生の選択肢が再び広がる人は今後ますます増えてくるだろう。
オートフォーカスアイウェアという製品カテゴリーが定着し、競合他社参入や企業規模拡大などによってレンズの大型化を初めとする技術進化が加速することを期待したい。
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