Intelは2月21日(米国太平洋時間)、半導体の受託生産(ファウンドリー)事業に関連するイベント「Intel Foundry Direct Connect」を開催した。基調講演には同社のパット・ゲルシンガーCEOが登壇し、2024年から受託生産を本格始動することを表明した。
従来、同社は自社でCPU(プロセッサ)を設計/開発し、製造までを一貫して行う「垂直統合型」の半導体事業者だった。なぜ、このタイミングで他社の半導体製造を受託するビジネスに乗り出すのだろうか。この記事ではゲルシンガー氏による基調講演をレポートすると共に、その動機について考察してみることにしたい。
基調講演でゲルシンガーCEOは「Intel Unleashed」と書かれたスライドを掲げ、その通り「Intelの“真の力”を解放するときが来た」と宣言した。この宣言に、筆者は普段よりも幾分か、ある種の“力み”を感じた。
思い返せば3年前、同氏は2021年2月15日付でCEOとしてIntelに戻ってきた。その1カ月後には、Intel復活の“のろし“ともいえる「IDM 2.0」という新企業戦略も掲げた。
ゲルシンガー氏は「あれから3年経った。今日、あの時にIDM 2.0で掲げた3番目のミッションの扉を開けることになる」と宣言した。
ここでIDM 2.0について補足説明をしておこう。IDMとは「Integrated Device Manufacturer」の略で、日本語に直訳すれば「統合型デバイスメーカー」という意味となる。さらに意訳するなら「垂直統合型デバイスメーカー」ということになるだろうか。2.0という数値には「新しいIntel」の意味を込めたのだと思われる。
詳細は当時の記事を参照してもらいたいが、本稿の主題にも大きく関係するキーワードなので、軽くおさらいしておく。IDM 2.0の発表時、ゲルシンガー氏は以下の3つの目標を達成するという公約を掲げた。
それぞれを簡単に補足すると、1はCPUを始めとする自社半導体の製造技術力を、最新技術の活用によって強化していく戦略を指す。2は、例えば台湾TSMCなど、競合企業を含む社外ファウンドリー(受託製造者)の基盤を積極的に活用していくことである。そして3は、Intel自らがファウンドリーとなって、社外から半導体の生産を受託していくことを意味している。
今回、ゲルシンガー氏が言及した「3番目のミッション」は、当時の発表における3つ目の目標、つまりIFSを指す。
IFSを担う事業部の名前は、ずばり「Intel Foundry」となる。これまでは資料によってIFSと呼ばれたりIntel Foundryと書かれたりと名称が混在していたが、今後は(一部の古い資料の使い回しを除いて)呼称をIntel Foundryで統一するようだ。
なお、言うまでもないかもしれないが、Intel Foundryの事業が始まった後も、Intelは自社半導体(特にCPU)の開発/製造事業は継続することになる。当然、自社半導体の製造には自社工場を使うことが多いと思われるが、先述の2つ目の目標にもあるように、一部の半導体はTSMCを始めとする社外ファウンドリーに製造を委託することもあり得る。
既に他社に製造を委託している例としては、Core Ultraプロセッサ(シリーズ1)のGraphicsタイル(GPUダイ)が挙げられる。同プロセッサのGraphicsタイルは、TSMCの5nmプロセスで製造されている。
話を進めていくうちに“白熱”したゲルシンガー氏は、2つの宣言を行った。
我々はただのファウンドリーに留まらない。世界初の「システム・ファウンドリー」になったのだ!!
そして我々は、2030年までに世界2位のファウンドリーになることを目指す!!
最初の宣言のポイントは、「なる」という目標を掲げるのではなく、「なった」と達成済みであるとしたことだ。海賊王を目指す少年漫画の主人公もビックリしそうな発言だが、なぜ「なった」と言い切っているのかは、後日公開の中編の記事で解説することにしたい。
そして、2番目の宣言は「1位ではなく、やや手堅そうな2位を目指す」宣言ともいえる。昔日本で流行した「2位じゃダメなんでしょうか?」発言が、時間差でゲルシンガー氏を揺さぶった……と考える人はいないだろうが、少し遠回しなものの「受託生産で2位のSamsung Electronics(サムスン電子)や3位のGlobalFoundries(グローバルファウンドリーズ)を追い抜いて、業界1位のTSMCの背中に付く」という意味を持っている。
いずれにしても、Intel(ゲルシンガーCEO)が半導体の受託生産事業に対して相当な上昇志向を持っていることを示す宣言であることは間違いない。
ここまでIntelが受託生産事業に入れ込む動機は、どこにあるのだろうか。
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