「大阪・関西万博」にまだ行っていない人や興味がない人でも、この全面鏡張りの謎めいた建造物の写真を一度は目にしたことがあるだろう。建造物の名前は「null2(ヌルヌル)」、メディアアーティストの落合陽一さんが万博のために手がけたシグネチャーパビリオンだ。
今回、この人気パビリオンに協賛するマウスコンピューターの協力により、特別にパビリオンの舞台裏を取材できたので、その様子をお届けしたい。
1970年に開催された大阪万博では、日本を代表するテーマ展示プロデューサーに世界的アーティストでもある岡本太郎さんが選ばれ「太陽の塔」を作った。
今回の万博は、中心がなく多様な価値観を受け入れる時代性を反映して、ロボット研究者の石黒浩さん、メディアアーティストの落合陽一さん、進化生物学者の福岡伸一さん、メカデザイナーの河森正治さん、放送作家の小山薫堂さん、映画監督の川瀨直美さん、データサイエンティストの宮田裕章さん、音楽家の中島さち子さんの8人がテーマ事業プロデューサーとして選ばれ、それぞれ独自のパビリオンを作っており、それらはシグネチャーパビリオンと呼ばれている。
岡本太郎さんは、「太陽の塔」について「日本人はみんな几帳面だけれど、無邪気さとべらぼうさというのがないから、巨大なべらぼうなものを、無邪気なものを作ってやると思った」と語っているが、8館あるシグネチャーパビリオンで、一番それに近い精神で作られているのが、この「null2」だろう。
何せ目指したのは、万博という世界規模のイベントだからこそ作ることができる人類が未だ見たことのない「未知の風景」「未知の体験」を作り出すことだからだ。
落合さんが長年提唱してきた「デジタルネイチャー(計算機自然)」の概念を体現するパビリオンとすることを目指し、万博開幕の2025年時点までにAI技術がどの程度発展しているかを逆算して、その時点で「ギリギリ実現できる最先端のパビリオン」を目指したという。
こうして出来上がったのが、日本最大の全面鏡張り構造体「null2」だ。外装に貼られているのは反射率98%の太陽工業の鏡面膜。建築法で使用が許可されている建材ではないが、半年間の万博期間後は撤去されるパビリオン、つまり仮設建築物だからこそ、これまで使われていない建材や、これまで誰もやったことのない工法で建てることができる。
万博では、こういった理由から若手建築家が取り組んだ一部のトイレなど、通常の建築では実現できない技術的チャレンジが多く見られるが、null2はそうしたチャレンジの塊であり、まさに「人類がいまだ見たことのない」パビリオンになっている。
落合さんは、よく鏡について「高解像度で高速な映像装置」「風景の変換装置」と語っている。
実際、null2の外観には常にその時点での空模様や、その瞬間そこにいる来場者たちを映し出して見た目が変化し続けている。
だが、落合さんはこれだけでは足りないというように、さらに鏡面を渦状にねじるロボットアーム、鏡面を振動させるアクチュエーター、さざ波のような効果を与えるウーハー、人がハンマーでたたいているようなノッカーの4つの仕掛けが組み込まれている。
我々は日常生活において、これだけ巨大な鏡を目の間にすることはほとんどない。それだけにnull2の外観はずっと見ていても飽きない。
来場者が増え、どのパビリオンも予約を取るのが難しい状態にある大阪・関西万博だが、このnull2であれば、外から眺めるだけでも十分に楽しめる。そう、null2は55年前に建てられた太陽の塔のようにモニュメントとしての役割も果たしているのだ。
だが、これだけ外側も特別なら、当然、内側の体験ももっと特別なものに仕上がっている。1日に何度かある抽選のチャンスで、運よくパビリオンの中に入る権利を得ると、そこには一生記憶に刻まれるような「未知の体験」が待っている。
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