ちなみに先で紹介したのがnull2の本来の体験で、「ダイアログモード」と呼ばれるものだ。実はこのハーフミラーの部屋『ヌルの森』の外には回廊があり、外から体験をしている人たちの様子をのぞくことができる。
1回約15分間の体験をした後は、全てネタバレした状態で、希望者は次の時間枠で体験している人たちの様子を外から眺めることができる。
ただし、このダイアログモードでは、ハーフミラー空間のキャパシティーもあり、1回15分あたり約50名程度しか体験ができないという問題がある。
そこでnull2では、より多くの人にパビリオンの内部を見てもらおうと「インスタレーションモード」というものも用意している。これはハーフミラー空間の中には入らず、人がいない状態のハーフミラー空間に映し出される映像だけを楽しむというもので、1回あたり7分の体験になっている。
さらに最近になって、同じ経路を止まらずに歩きながら見学する体験時間約45秒の「ウォークスルーモード」も新たに追加された。プロデューサーの落合さんは日々、1人でも多くの人が体験ができるように観覧方法をアップデートしているので、訪問前にはぜひ公式Xで最新情報を確認してほしい。
ところで、null2の不思議な体験は何を伝えようとしているのだろうか。
落合さんは、遠からず自然と人工、物質と情報、人間と機械の境界が溶け合うデジタルネイチャー(計算機自然)の時代が訪れると考えており、ここ数年はそれをテーマに制作や執筆を行ってきた。
それらを貫いているのは、般若心経にある「空即是色 色即是空(くうそくぜしき・しきそくぜくう)」、つまり色はすなわち空(から)であり、空はすなわち色、現象(色)と本質(空)は不可分であるという見立てであり、これを落合さんは「何もないところからあらゆるものが生まれ、あらゆるものは何もないところに帰っていく」と解釈している。
この何もない状態「空」を、何もない状態を示すコンピュータ用語の「null」に掛け、さらには2つの「空」の間。つまり「null(即是色色即是)null」の()内の文字を省略してnull2としたのがパビリオン名の由来だが、もちろん、これは高性能なコンピュータを使うことで、パビリオンの内と外で映像がヌルヌルと動くことにも掛けている。
ちなみに、パビリオンの外観が姿形を映し出す鏡だとしたら、パビリオンの内部は来場者の内面を映し出すデジタルの鏡となっているが、ここにも岡本太郎さんが関係している。
岡本太郎さんの太陽の塔は、縄文文化にインスピレーションを得ていた。そこで落合さんは、null2では弥生文化をインスピレーションとした。この時代に神として扱われていた「鏡」をテーマにしようと考えたのだ。
null2の背景に関する詳細は、プロデューサーである落合陽一さん本人がパビリオンの公式Webページ内で詳しく解説しているので、是非ともそちらを読んでいただきたい(ネタバレありの解説もあるので注意)。
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