パビリオンの外側も内側も、魔法のようにヌルヌルとあまりにも自然に動くので、人々は「そういうもの」と素直に受け入れてしまうが、実はこのパビリオンの裏側では、人類がいまだ見たことのない風景と体験を生み出すために、最先端のテクノロジーが使われている。
例えば、普通に人間と会話するようなテンポで、来場者とやりとりをするモノリスやMirroredBody(来場者のデジタルの分身)。あまりにも軽快に反応し、映像や音もほぼ遅れなくすぐに合成して映し出されるが、多くの来場者は「そういうもの」だと当たり前に受け止めてしまっている。これこそが、実はすごいことだ。
ChatGPTなどで文章や声を生成したり、絵を描かせようとしたりすると、それなりに待たされるのは多くの人が経験しているだろう。
この素早い応答ができているのは、null2の裏側で協賛企業であるマウスコンピューターらが提供した高性能なコンピュータ群がフル稼働しているからだ。今回、null2に協賛し高性能なPCやiiyamaブランドのディスプレイ「ProLite XUB2493HS-B6」を提供しているマウスコンピューターの協力を得て、特別に同パビリオンの舞台裏を取材する許可を得た。
null2の心臓部となるオペレーションルーム。DAIVやAlienwareなどに並んで、無停電電源装置も用意されているのが分かる(左)。ラックマウントにみっちりとアンプやワイヤレスシステムなどが並んでいる(右)null2の心臓部ともいえるオペレーションルームに足を踏み入れると、そこにはラックにところ狭しと並べられたマウスコンピューターのクリエイター向けPC「DAIV FXI9G90」や、mouseブランドの「mouse MH-I5U01」といったデスクトップPCを始めとして、デル・テクノロジーズのゲーミングPC「Alienware」やワークステーションが並んでいた。
マウスコンピューターの軣社長に伺ったところ、「メインのPCはある程度のスペックの指定がありました。その上で社内でモデル検討を行い、DAIVブランドでの選定を行いました」という。
それぞれが外装の制御やモノリスの制御、御神体の制御、リアルタイムでのCGの描画や高速なローカルLLM(大規模言語モデル)による生成AIの動作などの役割を担っていた。動作しているソフトの多くは独自開発のもので、中には「null2 Sound System」と呼ばれるプログラムを実行しているコンピュータもあった。
実は、ハーフミラーの空間は音の反響が強く、普通に音を鳴らすとエコーがかかりまくってしまうが、そんな空間でも音を聞こえやすく、マイクでも拾いやすいように調整をしているソフトのようだ。
null2を体験したばかりの軣社長に感想を伺ったところ、「とても不思議な空間であり、動き1つ1つが興味深いものがありました。ある意味、職業病ですがパビリオンの外観の鏡面素材の振動はどのようにな仕組みなのか、パビリオン内においてはMirroredBodyの動き、鏡面状の空間設計など構造面に目がいってしまい、体験後に裏の部分を見せていただくことで、複雑かつ繊細な調整によって実現できていることが大変興味深かったですね」と感心した面持ちで振り返っていた。
ハーフミラー空間「ヌルの森」に足を運び入れると映像が絶え間なく流れ、建物の外に出ると、まるでそれが当たり前のようにヌルヌルと自然に動いているが、その裏では最高の体験が得られるように、非常に細かな部分まで専用プログラムを用意し、最先端のテクノロジーで緻密に制御しているのだ。そういった緻密な制御同士が溶け合って、とても“自然”に感じられる体験を作り出している。
これぞ、まさに落合さんのいう計算機自然(デジタルネイチャー)なのかもしれない。
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