ネット接続端末は500億台時代へ、Ericssonは“ビジネスイネーブラー”を目指すMobile World Congress 2010

» 2010年03月02日 19時31分 公開
[末岡洋子,ITmedia]

 通信インフラ業界が再編期にある中、スウェーデンの通信大手として知られるEricssonは2009末にNortel(カナダ)の資産を買収し、その地位を確固たるものにした。2010年、ハンス・ヴェストベリ(Hans Vestberg)氏のCEO就任とともにスタートを切ったEricssonで、戦略担当上級副社長を務めるのが、ダグラス・ギルストラップ(Douglas Gilstrap)氏だ。

 スペイン・バルセロナで開催されたMobile World Congress 2010で、今後のEricssonの戦略や目標、業界全体のトレンドについてギルストラップ氏に聞いた。

無線ネットワーク高速化ロードマップ、鍵を握るのはユーザーの利用動向

Photo Ericssonのダグラス・ギルストラップ氏

ITmedia(聞き手:末岡洋子) 2009年末にLTEの商用サービスがスタートしました。

ダグラス・ギルストラップ氏(以下、ギルストラップ氏) Ericssonはスウェーデンで商用LTEサービスを開始したTeliaSoneraと契約しており、AT&T、Verizon、Metro PCS、NTTドコモの4社ともLTE関連で契約を結んでいます。この5社の加入者数の合計は、競合他社を少なくとも20倍上回っています。われわれは既存の技術でもリーダーでしたが、次世代のLTEでもリーダーだといえるでしょう。

ITmedia LTE導入の見通しについて教えてください。2Gから3Gの移行は、当初の予想より時間がかかりました。

ギルストラップ氏 新技術への移行を後押しするのは、加入者数の増加だけではありません。一部の成熟市場でユーザーは、携帯電話、スマートフォン、タブレットPC、Netbookなどのモバイル端末を複数台を持ち歩くようになりました。これは新たなトレンドで、データトラフィックを年間3倍〜4倍と増加させつつあります。現在、LTEへの移行を強く検討しているのは、こうした成熟市場のオペレーターです。さきに挙げた5社のオペレーターも、このグループに入ります。

 地域により事情は異なるため、単純にどのようにHSPAやLTEに移行するのかを定義することはできません。最終的には、移行の鍵を握るのはコンシューマーです。米国や日本では、多数のエンドデバイスがあり、これらのデバイスがデータトラフィック増のけん引役となっています。コンシューマーは、こうしたデバイスと無線技術を使いこなすことで生産性を高められ、1日に2〜3時間を節約しています。メリットが分かりやすいので、顧客はこれまで以上の料金を払ってでも高速で高品質なモバイルブロードバンドを利用したいと思うでしょう。モバイルブロードバンドが離陸する力強い要因といえます。

 もう1つの要因が端末です。人気のスマートフォンは、端末ベンダー各社が注力した結果、今後さらにバラエティに富んだデバイスが登場し、価格も下がってくることでしょう。タブレットなどの新しいタイプのモバイル端末も登場し、ユーザーの注目を集めることが予想されます。さらには、アプリケーションマーケットが登場したことで、これらの端末で利用できる魅力的なアプリケーションを容易に見つけ、入手できるようになりました。こうした全てが、相乗効果を生み始めています。

 無線通信は人、場所、そしてモノへと接続が拡大しています。2010年を機に、その後数年間、モバイルブロードバンドの大規模な実装とコンシューマーの利用が進むとEricssonでは予想しています。

ITmedia HSPAはいまだに進化しており、マルチキャストやMIMOなどの技術を利用して高速化されています。これはLTEへのアップグレードにどのような影響を与えるのでしょうか?

ギルストラップ氏 これもやはり、地域によって異なります。

 LTEをいち早く実装し、データ速度を改善することで競争の差別化を図るオペレーターもあれば、HSPAを飛び越えてLTEに移行する例もあります。HSPA+で強化するのも戦略として考えられます。

ITmedia データオフロード、シグナル効率化などの技術により、既存の無線技術をかなり強化できるといわれています。

ギルストラップ氏 Ericssonはエンドツーエンドでソリューションを提供しており、キャッシング、シェーピングなどの効率化技術も顧客支援の一部として提供しています。

 デバイスの種類は多様で、データトラフィックの効率化は以前より複雑になっています。効率化については、ネットワークに接続するすべてのデバイスのデータトラフィックに対応できるよう支援していきます。

 ただ、データトラフィックは50倍に増加するといわれています。一部を効率化することは可能ですが、4〜5年で50倍という規模を考えると、根本的な対応策ではないようにも思えます。

ITmedia マネージドサービスが好調です。戦略においてどのような位置を占めますか?

ギルストラップ氏 マネージドサービスは非常に重要です。Ericssonは現在、全世界370万人が利用するネットワークをマネージしています。

 ここでの戦略はエンドツーエンドです。われわれが管理している数百単位のネットワークの中には、Ericsson以外の機器も含まれています。Ericssonがハードウェアとソフトウェアを販売していることはよく知られていますが、ソフトウェアの一部としてネットワーク管理技術を提供しており、イベントやトラフィックロードの監視などのサービス機能を利用して顧客のネットワークの運用環境をモニタリングしています。

 われわれはこれらのツールやプロセスに巨大な投資をしています。ネットワークパフォーマンス、マネージドサービス、ツールやプロセス、さまざまな方法で課金できる課金システムなどもそろえており、顧客は容易にネットワークの構築や運用、管理を行えます。Ericssonでは、2015年に500億台の端末がネットワークに接続すると見ており、このようなエンドツーエンド型ソリューションはそのような将来に向けて重要だと考えています。

 モビリティやテレコム特有の特徴、課題に対する深い理解は、Ericsson独自のスキルです。単なるハードウェア、ソフトウェア、サービスという個別のものではなく、全体をパッケージしたエンドツーエンドのサービスを提供できるのが、競争上の大きな優位点になります。

ITmedia “エンドツーエンド”(一貫した)のサービスを提供する上で、欠けている分野や技術はありますか?

ギルストラップ氏 ありません。ただ業界は急速に動いており、Ericssonがすべてを自社で賄うことはできません。そこで買収と提携で対応し、重要と判断した部分は買収します。例えば最近、エンドツーエンドでシステムインテグレーションのスキルが必要だと判断し、イタリアの優秀なシステムインテグレーターを買収しました。

ITmedia Mobile World Congressの会期中、アプリケーションストア「eStore」を発表しました。この狙いは?

ギルストラップ氏 モバイルシステムは閉鎖的なものもありますが、Ericssonでは、開発者が端末を問わずにアプリケーションを提供できることがエンドユーザーのメリットになると信じています。これを実現するのがeStoreです。

 eStoreはEricssonが直接コンシューマーに提供するのではなく、オペレーターを支援するものです。オペレーターとコンシューマーが主導することで、オペレーター、コンシューマー、開発者のすべてにメリットをもたらします。このようなプラットフォームは、オペレーターのチャンスを増大させることでしょう。

人からモノへと広がる無線通信、Ericssonは“ビジネスイネーブラー”を目指す

ITmedia ロゴなどブランディングが変わりました。どのようなメッセージが込められているのでしょうか?

ギルストラップ氏 ワイヤレスネットワークとの接続は、場所、人、モノへと進化しており、“すべてが接続される時代に入る”というメッセージを打ち出しています。それぞれ10倍ずつの増加です。場所では5億のブロードバンド接続、人と端末では50億、最後のモノにより、500億台の端末が接続されると予想しています。モバイルネットワークへの接続は、これまで以上に重要になっています。

ITmedia CEOのヴェストベリ氏は、“ビジネスイネーブラー”を強調しています。Ericssonのビジネスイネーブラーとはどのような意味を持ちますか?

ギルストラップ氏 モバイルネットワークにさまざまな端末が接続されるというトレンドが、業界を動かしています。

 お話したように、Ericssonでは、2015年に500億台のデバイスが接続されると予想しています。携帯電話やスマートフォンだけではなく、さまざまなところで通信技術が使われるのですが、これらの端末は、従来のように似通った(携帯電話のような単一的な)ビジネスモデルではなく、それぞれ異なるビジネスモデルを持ちます。例えば「Kindle」のような電子書籍リーダーなら、コンテンツを入手するときだけ通信機能が使われ、ホームセキュリティなら、何かイベントがあった際に通信が発生することになります。

 500億台時代のネットワークの形態はこれまでとは違い、よりIP化されるでしょう。固定と無線が融合するのは必至で、システムやビジネスプロセスにより分離されているのではなく、シームレスに移行できる必要があります。

 Ericssonは、テレコム企業がIP環境に移行するのを支援するイネーブラーを目指しています。これはシステムインテグレーションやビジネスプロセス改革(BPR)の領域となり、どのようなアーキテクチャになるのかを理解する必要があります。ハードウェアとソフトウェア、そして(システムの)管理――といった全体の輪を支援していきます。

 オペレーターは、既存投資を最大活用し、将来のデータARPU増加のためにどのように投資するか、いかに最高のユーザー体験を提供するかという課題を抱えています。Ericssonはこうした問題解決を包括的にサポートできるのです。

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