リーマンショックから2年、冷めていたモバイルソリューションへの投資熱が再燃している。この2年、さまざまな方法で生産性の向上や効率化を進めてきた企業が、改めてモバイルの活用に目を向け始め、効果的な導入策を検討し始めているのだ。
昨今、モバイルの法人活用については、スマートフォンやスレート型端末の活用に注目が集まりがちだが、実際に需要が大きいのは通話ソリューションであり、社内外のコミュニケーションを安価で円滑に行えるようにするソリューションを求める声が高まっている。こうした企業ユーザーの声を受け、NTTドコモが2009年9月から提供を開始したのが、携帯電話を活用した内線ソリューションの「オフィスリンク」だ。
項目 | オフィスリンク | OFFICEED | ビジネスmoperaIPセントレックス | PASSAGE DUPLE |
---|---|---|---|---|
エリア | 全国のFOMAエリア | 専用IMCSエリア | 専用無線LANエリア | 専用無線LANエリア |
端末 | 全FOMA端末 | 全FOMA端末 | 無線LAN対応端末 | 無線LAN対応端末 |
エリア構築 | 不要(企業の既存内線システムと連携) | IMCSを設置したOFFICEEDエリアの構築が必要 | 無線LANエリアの構築が必要 | 無線LANエリアの構築が必要 |
ドコモはこれまでにも、「PASSAGE DUPLE」「OFFICEED」「ビジネスmoperaIPセントレックス」といった内線ソリューションを提供してきたが、サービスに対応する端末が高価な無線LAN端末だったり、導入時に必要な設備にコストがかかったりと、導入のハードルが高い点が課題となっていた。
オフィスリンクは、企業内のPBXとFOMA網を接続することで、普通のFOMA端末を内線電話として活用できるようにするサービス。全国のFOMAエリアで内線番号を使った通話が可能になり、業務用のFOMA端末間だけでなく、オフィスの固定内線電話や同じ企業グループ内の事業所とも定額による内線通話を利用できる。また、導入時に大がかりな機材の導入や設置工事の必要がなく、企業のPBXとFOMA網を連携させるためのルータとスイッチ、ゲートウェイ装置の設置ですむのもメリットの1つだ。
オフィスリンクは実際のところ、企業の生産性向上やコスト削減に、どのような形で貢献できるのだろうか。オフィスリンクの導入に伴い、378回線(7月末時点)のFOMAを導入したGMOインターネットに聞いた。
GMOインターネットがオフィスリンクを導入したきっかけは、企業内PBXの交換だった。ちょうど交換時期にさしかかっていたPBX装置を一新するのに伴い、これまで整備していなかった内線電話の効率的な利用を検討することになり、その候補として挙がったのがオフィスリンクだったという。
同社ではこれまで、携帯電話が必要な部署の社員には業務用端末としてドコモのFOMA端末を貸与していたが、特にモバイルを活用した内線ソリューションは導入しておらず、社内の固定電話やグループ会社への通話には通話料が発生していた。内線ソリューションの導入について検討を進めていたGMOインターネット グループ総務部部長 目黒隆幸氏の心をとらえたのは、オフィスリンクの“FOMAケータイがそのまま内線電話になる”という点だった。
「携帯電話を使った内線ソリューションの導入にあたっては、“通話料の削減”が大前提ですが、“ユーザビリティが変わらない”ことも重要だと考えていました。オフィスリンクは、業務用端末として社員に貸与しているFOMA端末を、そのまま内線電話として使えるのが魅力でした。また、携帯電話を内線電話として使えるようになれば、部署によっては固定電話を用意する必要がなくなるので、ここもコスト削減につながるのでは、と思ったわけです」(目黒氏)
オフィスリンクは自動転送や保留転送、パーク保留、パーク応答、コールピックアップ、コールハンティングなどの機能を備えており、携帯電話を固定電話代わりに利用するのに十分だったと目黒氏。ただ、これらの操作は、一般的な携帯電話の利用作法とは異なるため、GMOグループでは導入した初日に、ドコモのサポートによる社員向けのレクチャーを行うとともに、マニュアルを配布したという。「固定と携帯間の転送操作などで、最初の1カ月は少し混乱がありましたが、今では社員が普通に使っています」(目黒氏)
内線ソリューションの導入にあたっては、他キャリアの内線ソリューションもチェックしたそうだが、「当時、何かしらの制約があったり、当社が導入したシスコシステムズ製PBXとの接続に関する実績がなかった」(目黒氏)ことと、通話の安定性を検討した上でドコモのソリューションに決めたという。「以前、ほかのキャリアの携帯電話を社用で使っていたグループ会社もあったのですが、本来つながるはずのところでつながらないことがあったため、ドコモに切り替えたことがありました。通話エリアと品質は、お客さまの対応につながる重要なところなので、譲れない条件でした」(目黒氏)
「導入にあたって、不安がないわけではなかった」と振り返るのは、システム本部の社内システム部で部長を務める新藤隆造氏だ。オフィスリンクは2009年9月に始まったサービスで、GMOインターネットが検討していた時期にはまだ導入実績がなかったためだ。加えて、各種の設定をドコモの設備内で行うため、何かあったときにGMO側で手が出せない点も不安だったという。「オフィスリンクは、“(ドコモに)すべておまかせ”という形に近いサービス。問題が発生した場合は、ドコモに問い合わせればいいのですが、レスポンスが悪くなったり、内線が使えなくなった場合に大丈夫か――というのは気になりました」(新藤氏)
しかし実際に導入したところ、レスポンスも速く、「(導入から今に至るまで)障害はゼロ」(中里氏)というクオリティで、サービスには満足しているという。さらに、GMO側のさまざまなオーダーに対するドコモの対応についても「技術面のレスポンスが迅速であり、仕事の組み方やドキュメント類も整理されていた」と新藤氏。目黒氏も「技術面のサポートも、契約面のやりとりもストレスがなかった。こちらの要望や意図を的確にくみ取ってくれた」と高く評価している。
また、持ち歩いて使うことが多い携帯電話は、固定電話に比べて紛失や盗難の可能性が高まる点も懸念されるが、ドコモが365日24時間対応のサポート専用窓口を用意し、会社が休みの土日にも端末の遠隔ロックや消去ができる体制を提供することで対応している。
GMOインターネット グループでは、7月末時点で378回線のFOMAが稼働しており、GMOインターネットグループ グループ 総務部の直江望氏によると、オフィスリンク導入後には、総通話時間の4分の1が内線通話になるなど、導入前に比べて無料で使える内線電話の利用率が高まったという。「総通話の25%が無料で通話していることになり、コスト削減につながっている」(直江氏)
内線ソリューションの導入は、社員間のコミュニケーションが活発になるという効果も生み出した。出先から社内への連絡など、これまで外線を使っていたシーンで無料の内線を使えるようになったことから、コミュニケーションのハードルが下がり、気軽に連絡を取れるようになったと社員の反応も上々だという。「離席中の人と連絡が取りやすくなったり、直接の担当者と話しやすくなったりと、業務効率化にも貢献している」(直江氏)
携帯電話を活用した内線ソリューションは“導入コストが高い”というイメージがあるが、最近では企業のニーズをくんださまざまなサービスが登場しており、導入コストや目的に応じて最適なソリューションを選べる。なかでも通話のコスト削減につながるソリューションは、中小企業にとって導入しやすいサービスが登場しており、検討しやすい時代になったといえるだろう。
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