車と通信を組み合わせ、街や道路のリアルタイムな情報をナビゲーションに反映させる――そんな通信型カーナビが登場して久しいが、カーナビの多くは現在も通信に対応していない。しかし、ソフトバンクモバイルの宮川潤一氏(取締役専務執行役員 兼 CTO)は、こうした状況がにわかに変わりつつあると話す。
同氏は12月2日、第2回国際自動車通信技術展(ATTT)で講演を行い、現状の通信カーナビの課題と、スマートフォンを使ったテレマティクスへの期待を語った。
「テレマティクスという言葉は10年以上飛び交っているが、キャリアにとっても自動車メーカーにとっても事業として成り立っていない」と、率直な感想から講演を始めた宮川氏。カーナビの通信料をソフトバンクケータイの定額サービス対象に加える「カーナビプラン」を作り、Yahoo! JAPANのコンテンツやスポット情報をカーナビに提供するなど、グループ各社で自動車向けサービスに取り組んでいるソフトバンクだが、「『なかなか飯食えないな』というのが実感」だという。ソフトバンクグループなどが出資し、宮川氏が代表取締役を務めるテレマティクス専業企業「ナビポータル」も、法人向けサービスは好評だが、利用者の伸びは宮川氏の期待を下回っている。
同氏によれば、7000万台以上ある国内の自動車のうち、通信カーナビの搭載率は現状、6%弱にすぎない。しかも、「そのうちの2割弱しかアクティブに使われていないというデータもある」(宮川氏)など、普及のきざしは見えていない。「そもそもテレマティクスに通信カーナビが本当に必要なのかを、もう一度議論する必要がある」と宮川氏は指摘する。
一方、スマートフォンは国内でも急速に市場が拡大しており、今後数年でカーナビの出荷台数を追い抜くと予想される。そして、iPhoneやAndroid端末では簡易ナビゲーションサービスが無料で提供され、さらにナビアプリも無数にリリースされている。「iPhone用のナビアプリはもう約6000個ある。これはカーナビメーカーが6000社あるようなもの」(宮川氏)。
6000ものアプリがリリースされるのは、世界中の開発者が簡単に参入できる“オープンなアプリプラットフォーム”を用意しているからだ。しかし車載通信カーナビの場合、自動車メーカー各社が独自にサービスプラットフォームを構築し、プレーヤーも限られている。ただでさえ通信カーナビの利用者が思うように増えない中で、自動車メーカーごとにサービスが囲い込まれているため、結果としてコンテンツの充実や頻繁なアップデートが難しくなっているというのが宮川氏の見方だ。
「プラットフォームをオープンにしなければ、携帯電話ほどのプレーヤーはそろわない。自動車メーカーさんが販売の武器として独自のコンテンツを目指すのは分かるが、世界の動きを見れば、プラットフォームをオープンにしてプレーヤーをとにかく増やすべき」と宮川氏は呼びかけ、「いろんな人たちのやる気をテレマティクスに集めないと、業界は広がらない」と訴えた。
また宮川氏は、スマートフォンをテレマティクスに利用した場合、パケット定額に入っていれば新たに通信料を払う必要がない点もポイントとして挙げた。通信カーナビの利用料は低価格化が進んでいるものの、車でしか使わない限定的な通信に料金を払うこと自体が、ユーザーにとっては高いハードルになると宮川氏は指摘する。
「テレマティクスがスマートフォンを受け入れられないようなマーケットであれば、これだけ多くの人が長く続けるような業界ではない」とまで語り、スマートフォンに強い期待を示した宮川氏。ナビポータルでも新たな取り組みとして、12月からスマートフォンに対応したクラウド型の法人向け運行管理サービスを提供する予定で、今後もスマートフォン向けサービスを充実させていく考えだ。
しかし、スマートフォンをテレマティクスに活用するには、画面が小ささや位置情報精度の低さなど、「課題はまだまだある」(宮川氏)のも確か。こうした点は、車載機器と連携するなどして、弱点を補強していく必要があると宮川氏はみている。「車のディスプレイとの連携などは、どこかで誰かが実現する必要がある。自動車メーカーさんには、そうした部分をオープンにしていってほしい」(宮川氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.