震災後、シトリックスの在宅勤務を支えた2つの制度脱ガンジガラメの働き方(3/3 ページ)

» 2011年10月06日 12時10分 公開
[まつもとあつしBusiness Media 誠]
前のページへ 1|2|3       

 震災の翌日に社員を出社させるという判断は「なかった」と金氏は振り返る。ネットワークさえ動いていれば、平時行っている在宅勤務で業務が止まることはない。その確信があったからこそ、全社員の在宅勤務体制を徹底できたという。

シトリックスの震災発生後の経緯

 ただし、一部の外資企業に見られたようなオフィスを一時的に関西などに移転するという検討は行ったものの、判断までは至らなかった。金氏はBCP(事業継続計画)とエバキュエーション(避難)のどちらを優先すべきか、議論が上手くまとまらなかったと率直に認める。だが、その両方も決断できない企業が多かった中、翌日から在宅勤務に切り替えたシトリックスの対応はやはり素早かったといえるだろう。

 また、リモートワークという社員にその選択を委ねる制度を普段から取っていたことで、震災後の複雑な状況、つまり「安全を最優先して自宅で勤務したいのか」あるいは「どうしても客先に向かわないとならないのか」といった各人の状況に合わせて働き方を選択できる体制が整っていたことも、BCPに大きく貢献したのは間違いない。社員への一斉メールは「休暇を取るか、在宅勤務をするかの2択」と「出社はまだ控えるように」という非常にシンプルな内容であったという。

 もともと会社に掛かってきた電話を、IP網で社員の手元の電話に転送するIPエージェントという仕組みも整備していた。オフィスを閉鎖していても、電話での連絡が(つながりにくさという震災直後の状況は別として)取れなくなることもなかった。冨永氏も震災後1週間は通常通り仕事をこなしたが、子どもが地震でストレスを感じていると気付き、1日休暇を取ったという。この辺りの判断も柔軟にできたのは普段から在宅勤務が浸透し、どう働くかという判断の多くを社員に委ねているからこそだろう。

 また取材を通じて繰り返し強調していたのは「平常時の在宅勤務実践こそが、震災後喫緊の課題となったBCPへの対応として非常に有効」という点だ。平時は社員のモチベーションと意識の向上を促し、非常時には事業の継続性を高める在宅勤務。今後も地震などの災害リスクと、少子高齢化が強いるワークライフバランスの変化と適切に向き合う必要がある日本企業にとって、いよいよその重要性は高まっているのは間違いなさそうだ。

脱ガンジガラメの働き方

著者紹介:まつもとあつし

 ジャーナリスト・プロデューサー。ASCII.jpにて「メディア維新を行く」ダ・ヴィンチ電子部にて「電子書籍最前線」連載中。著書に『スマートデバイスが生む商機』(インプレスジャパン)『生き残るメディア死ぬメディア』(アスキー新書)など。取材・執筆と並行して東京大学大学院博士課程でコンテンツやメディアの学際研究を進めている。DCM(デジタルコンテンツマネジメント)修士。9月28日にスマートフォンやタブレット、Evernoteなどのクラウドサービスを使った読書法についての書籍『スマート読書入門』も発売。


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ