特集
» 2008年12月28日 14時00分 UPDATE

2008年の通信業界を振り返る(2):ソフトバンクは本当に好調なのか、イー・モバイル、ウィルコムの今後は (1/3)

2008年も1月から11月まで連続で純増1位を続けたソフトバンクモバイル。11月に100万契約を突破したイー・モバイル。そしてWILLCOM COREの立ち上げを前に苦戦するウィルコム。それぞれの強みと弱みが交錯した2008年を、前回に引き続きジャーナリストの石川温氏と神尾寿氏に語ってもらった。

[あるかでぃあ(K-MAX),ITmedia]

 2008年は1月から11月まで純増シェア1位を維持したソフトバンクモバイル。7月にはアップルの「iPhone 3G」を発売するなど、大きな話題をさらった。契約数は1900万を超え、一見好調のようではあるが、販売の現場ではかなり苦しいところも出てきているという話もある。

 2007年3月末のサービス開始から間もなく2年を迎えるイー・モバイルは、量販店などでPCとのセット販売を積極展開し、2年契約をすることでNetbookを100円で購入できてしまう「100円PC」で大きく契約数を伸ばした。2008年11月には契約数が100万を超え、純増1位の座をも伺う勢いだ。

 そのイー・モバイルにデータ通信ユーザーを多数奪われ、2月4月8月9月10月は契約数が純減するなど、苦戦が続いたウィルコムは、2009年にいよいよ次世代PHS「WILLCOM CORE」のサービスを始める。まだしばらくは苦しい戦いが続きそうだが、音声サービスでは独自の施策も導入するなど、「ウィルコムならでは」な要素は健在だ。

 第2回となる今回は、前回のNTTドコモとKDDIに続き、ジャーナリストの石川温氏と神尾寿氏に、ソフトバンクモバイル、イー・モバイル、ウィルコムの2008年と今後の展望を聞いた。

PhotoPhoto ジャーナリストの石川温氏(左)と神尾寿氏(右)

ソフトバンクが“ナンバー1でなくなる日”

ITmedia ソフトバンクモバイルは、1月から11月まで純増ナンバー1を達成しました。12月の結果はまだ分かりませんが、1位なら1年を通してトップだったことになります。19カ月もの長きにわたって純増1位を続けたのは快挙といっていいことだと思います。“料金が安いキャリア”というイメージも一般に浸透してきたようです。ただ、純増数の“中身”をよく見てみると、公表はされていませんが、ARPUの低いユーザーが多いという分析もあります。販売の現場では苦戦が始まっているという話も聞きます。2008年のソフトバンクモバイルは、どうご覧になりましたか?

石川温氏(以下敬称略) 「加入者数の純増が19カ月連続でナンバー1」という数字が、だんだんきつくなってきているのではないかと思います。ここまで続くとナンバー1という数字を守らなければいけない状況にもなってきていますし、徐々に「ナンバー1」を強調しなくなってきています。その点で呪縛というか、とらわれているような気がしますね。

 仮にあと数カ月で(純増数で)イー・モバイルに逆転されたとしたら、そこのダメージはとても大きいのかなと思います。「ついにソフトバンクはナンバー1ではなくなった」という大きな波に、どう準備するのか。そこが大きなポイントではないでしょうか。

神尾寿氏(以下敬称略) それは携帯電話市場で起こる波というよりも、株価への影響が大きいんですけどね。

石川 株価も当然そうですが、やはり一般的なイメージが大きいと思います。そこにすがっていた部分もあるから反動も大きいのではないでしょうか。

神尾 ソフトバンクモバイルは元気がいいように見えますが、実際はシェアが小さいですから、メーカーも販売会社も、好調でないと付き合ってくれません。実際のところ、純増シェアナンバー1の割にはソフトバンクモバイル向けのビジネスは儲からないという、メーカーや販売会社からの不満をよく耳にするようになってきました。特にメーカーのマインドが、ソフトバンクモバイルからだんだんと離れてきていると感じます。その流れは恐らく2009年も続くし、販売会社(ソフトバンクショップ)も赤字かギリギリ黒字の店舗が多いため、刃こぼれを起こすように離れていくというシナリオは十分考えられます。

 携帯電話市場に流動性があって、その中でソフトバンクモバイルが躍進し、ユーザーを獲得し続けられる”期待値“が大きいからこそ、メーカーや販売会社はソフトバンクモバイルに肩入れしてきた背景があります。しかし市場の流動性がなくなり、特にドコモのシェアを切り崩せないという状況になれば、ソフトバンクモバイルの優勢は逆回転しかねないのです。

石川 新しい販売制度によって一番痛手を被ったのはソフトバンクモバイルかもしれません。同社だけが「新スーパーボーナス」という、いわゆる純粋な分離プランとは少し違う料金体系をやっています。他社からの流入が続くならばそれで問題はなかったのでしょうが、あまりにもドコモとauからユーザーが獲得できなくなってきているため、これからは厳しいと思います。

神尾 ドコモが分離プランを導入することで、端末販売市場の硬直化をあえて狙って招いたのだとしたら相当の策士ですよ。ドコモのシェアが固定化されて、一番苦しむのはソフトバンクですから。まさに兵糧攻めです。

石川 ソフトバンクモバイルに限らず、キャリア全体としての空気を見ると、端末メーカーにはいくつか脱落してもらいたいな、という思惑は感じなくもないですね。

神尾 キャリア側からすると、日本のメーカーが作る端末が高過ぎるというのは現実問題としてあると思います。例えば同じスマートフォンを作るにしても、HTCが作るのとシャープが作るのでは価格にものすごい開きがありますから。まだシャープなどは海外に進出しようとしていますから、今後は品質・性能を維持しつつ「規模のメリット」を追求できるという期待ができますが、国内だけでビジネスするメーカーだと、国際水準の価格との差は開くばかりです。

 やはり、日本メーカー製のハイエンド端末は高すぎるという時代になってきているのですよ。だったらスマートフォンでソフトウェア的にケータイのハイエンドモデルと同等のことをやった方が安くなるんじゃないかと、キャリアやユーザーが考えるようになってもおかしくはありません。望むと望まないとにかかわらず、いずれはどうしても国際的な価格水準で競争していかなければならなくなるでしょう。

 これまでのソフトバンクモバイルのように、新規獲得やMNPによる他社からの流入狙いで規模が作れれば、端末メーカーとの蜜月関係を築けますが、市場の硬直化と端末買い換えサイクルの長期化が同時に起こる状況となると、規模の小さいキャリアはとたんにメーカーと付き合いづらくなってしまいますね。

石川 ソフトバンクは端末を売ってナンボだったりするので、売上的にも端末の販売による売上の割合が大きかったりします。そこが割賦販売によって硬直化すると厳しいのかなと思います。2009年3月期の中間決算で移動体通信セグメントが減収減益だったのを見て、「もうこのタイミングで減収減益になるんですか!?」という驚きがあったので、この先も頑張っていただきたい……というか(苦笑)。

ソフトバンク端末はスマートフォン中心のラインアップに?

神尾 先ほども申し上げたとおり、ソフトバンクモバイルは端末市場が硬直化したことで今兵糧攻めにあっているような状態なんです。ARPUで稼ぐといっても、一部のスマートフォン向け料金プラン以外ではほとんど儲けが出ないような料金体系ですので、端末市場が冷え込むと財務へのダメージが著しくなる。そこがARPUが高くて、”利用料金できちんと稼げる”ドコモやauとの決定的な違いなんです。

 特に現在は純増ナンバー1と言っても、結局のところ売れている端末は“スパボ一括9800円”のような格安モデルや、安い端末しか売れなかったりすることが多いとか、利益で見ると貢献度が低いのです。ハイエンドモデルを新スーパーボーナスで、24回割賦で買ってくれないと、ソフトバンクモバイルのビジネスは破綻します。そういう意味ではすでにビジネスモデルは破綻寸前ですよ。さらに以前より販売数が激減したことで、特別割引制度の潜在的な負担も大きくなっている。

 もはやソフトバンクモバイルとしては選択肢は2つしかないと思います。月々割(新スーパーボーナス特別割引)とスーパーボーナス一括払いのような投げ売り販売をやめて、端末ではなくサービスで儲けるか、健全に端末販売ができる新興市場を切り開くかです。Yahoo!ケータイのトップページを有料化する動きが出るなど、サービスで儲けようという気配は徐々に見えてきてはいますが、サービスで競争して、料金が安いとか音声定額があるとかいった魅力を取り払ったときに、果たしてドコモやauと戦えるのか、というのが出てきてしまうので、そこがまた苦しいところなのですが。

石川 Yahoo!ケータイのトップページ騒ぎにしても、ブレブレじゃないですか。有料化するとか撤回して無料を継続するとか。

神尾 純増シェアナンバー1の影で見落とされがちですが、今のソフトバンクモバイルはかなり苦しいと思いますよ。販売市場の冷え込みで弱点が露呈してしまったので、早急にビジネスモデルを転換する必要があるでしょう。極論を言えば、ドコモが守りを固めて兵糧攻めしつつ、販売面でもソフトバンクモバイルを狙い打ちにする可能性もあります。

石川 HSDPAだけでなく、次世代のLTEでもそうですが、ドコモと同じ通信方式を使っている限り、ソフトバンクモバイルがドコモに勝つことは有り得ないと思います。何か新しい軸がないといけない。しかし恐らく今はそんな新しいことができる状況でもないだろうし、いかにイメージを保っていくのか、というところが大切なのかなぁという気がします。

神尾 しかもソフトバンクモバイルに残されている時間はあまりありません。彼らは基地局投資を縮小していますよね。という事は、あと1〜2年もすると必ず綻びが出ます。他社が高速化をしていって通信インフラの容量が上がっていったときに、まったく対抗できない恐れがあります。社長は「インターネットサービスを軸にする」と言っておきながら、このままだと、そこで勝負できなくなってしまうでしょう。通信キャリアは、インフラ投資の手綱だけはゆるめてはならないと思います。インフラ投資を2009年も抑制し続けたならば、ソフトバンクモバイルの次の10年かなり苦しい滑り出しになるでしょう。

 では、ソフトバンクモバイルがどこで「コスト削減」と「ビジネスモデルの健全化」を図るかというと、私は端末調達の抜本的な見直しではないかと考えています。端末の調達コストを一気に抑え、その流れの中で現在の販売モデルの建て直しをしていく。それこそ海外メーカーから100ドルとか200ドルの端末を持ってくるとか。逆にコストのかかる国内メーカーのハイエンドモデルは、これからは新規開発から手を引いていくのではないかと見ています。

 ソフトバンクモバイルは来年度、スマートフォンを本格的に軸に持ってくるでしょうね。iPhone 3GのユーザーはARPUが高いですから、スマートフォンに軸足を置くことで、実は料金で儲けるモデルが作れるかもしれません。国内のハイエンドモデルが苦しくなってきているのなら、安く調達できて、ARPUも高く仕切り直せるスマートフォンを軸に持ってきてしまった方が、むしろソフトバンクモバイルにとってはメリットがあるでしょう。スマートフォンとベーシックな音声端末に二極化したキャリアになる可能性があるんじゃないかと思います。

石川 そう考えるとノキアが日本市場から撤退したのは痛いですね。

神尾 ドコモ以上に痛かったかもしれません。ノキアユーザーはARPUが高いんですよ。iPhone 3G用のパケット定額プラン(パケット定額フル)が出る前から、利用料金の高いスマートフォン用の料金プラン(パケットし放題/PCサイトダイレクト)で使っていた訳ですから。

 ただスマートフォンに軸足を移すというシナリオは、最近の孫正義社長の言動や、彼らの経営状況を鑑みても、かなり合理的なシナリオだと思います。スマートフォンユーザーというのは都市圏に集中する傾向がありますので、そうするとインフラ投資の選択と集中をしやすいという面もあります。さらにスマートフォンはソフトバンクショップよりも家電量販店の方が売れますから、ソフトバンクショップが減ってもダメージを受けにくい。そういう意味では、今の状況下においてはソフトバンクモバイルには合っているんですよ。

石川 あとはスマートフォン需要がどれだけ広がっていくか、ですよね。

神尾 彼らは強引に広げてくるんじゃないかと思うんですよね。孫さんはイメージをうまく作るじゃないですか。「これからの時代はスマートフォンじゃなきゃダメだ」みたいな、先進的な事をやっているように見せておいて、実際は自らのビジネスモデルの立て直しをするという可能性は十分に考えられるかと(笑)

石川 でもそれができているならiPhoneはもっと売れていますよ(笑)。

神尾 マーケットは急転換できないですからね。ただ、ソフトバンクモバイルの現状を鑑みると、日本メーカー製のハイエンドモデルからスマートフォンへの転換は十分に考えられます。コスト削減とリスク削減としてね。

石川 今のソフトバンクのケータイを満足して使っているユーザーは、恐らく価格に敏感な人々だと思うので、それを考えるとその人達がスマートフォンに買い換えて、高いARPUを毎月払って満足できる、という状況ではないのかな、とも思います。

神尾 そこはユーザーの入れ代わりがあってもいいのかもしれません。今の中庸なユーザーが逃げたとしても、ハイエンドのユーザーが2台目でいいのでスマートフォン用キャリアとして使ってくれるなら、別にデメリットはないわけです。来年のソフトバンクモバイルは、フルラインアップ戦略では苦しいでしょうから。

       1|2|3 次のページへ

Copyright© 2016 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.