学校のICT活用のハードルを下げる、ロイロノート・スクール(1)小寺信良「ケータイの力学」

» 2014年05月12日 18時30分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 2010年度より総務省の主導で、教育分野でのICT活用を推進する「フューチャースクール推進事業」が行なわれている。これはターゲットとなる実証校をいくつか決めて、そこにICTを導入し、成果を見る実証実験である。

 これまでノートPCやタブレットなど、いろいろな手段を使って検証を続けてきたが、2013年4月にこれまでの経緯を踏まえ、小中校および特別支援学校にICTを導入する際の、情報通信技術面におけるガイドラインを公開した。

 ガイドラインには具体的な実践例が掲載されているが、求められる機能としては、インターネットを通じた資料作成が可能かどうかといったところは、まあ普通に考えればネットへのアクセスができればいいので、クリアできるだろう。

photo 資料の中で示されている実践例

 だがその一方で、電子黒板に児童の画面をリアルタイム転送して分割表示で見られるようにするとか、児童が作成したものをお互いに転送して情報共有するとかといったところは、どういうシステムを導入すればいいのか、ちょっと悩ましいところだ。いや業者に発注してオリジナルのプログラムをゴリゴリ書かせればできるかもしれないが、それが先生にも子供達にも使いやすいものかというのはまた別問題である。

 そういったことを簡単に実現できるのが、「ロイロノート・スクール」というアプリだ。これの前身となった「ロイロノート」というアプリは、カード型の付箋のようなものを画面上で繋いでいって、時間的な流れを作る事でプレゼンテーション資料を簡単に作れるというものである。これをすでに授業に導入している事例もあるが、これに総務省が求める連携機能を追加し、クラウド管理を可能にしたバージョンが、ロイロノート・スクールという理解でいいだろう。

授業で積極活用

 今回は実際にロイロノート・スクールを導入している、多摩市立愛和小学校を取材した。愛和小学校は、今年西愛宕小学校と東愛宕小学校が合併してできた、新しい小学校だ。合併したとは言っても、2年生から6年生まで各1クラス、1年生のみ2クラスの小さな学校である。統合完了は2年後なので、今後少しずつ人数は増えていくのだろう。

photo 多摩市にある愛和小学校

 各生徒用として導入されているのはiPad miniで、校内の廊下に無線LANのアクセスポイントが設置してある。教室内には電子黒板としてタッチ操作に対応したテレビ端末もあり、先生のiPad miniはこれにつながっている。

photophoto 廊下に設置されたアクセスポイント(写真=左)。各教室のスタイルは、昔ながらのものと変わらない(写真=右)

 まずは5年生の国語の授業を見学した。授業開始時は漢字の書き取りだ。くさかんむりの漢字を思いつく限り書いて、ロイロノート上で繋いでいく。より長く繋げていくことで、自分の成果が分かる。

photophoto まずは漢字の書き取りからスタート。いつもやっていると見えて、生徒も手慣れている(写真=左)。書けた漢字をつないでいくと、その長さで成果が分かる(写真=右)

 続いて敬語の学習では、先生がロイロノートのプレゼン機能を使って、見る、聞くといった言葉の活用を示していく。指でどんどんめくっていくので、授業のテンポが速い。子供達もテンションが高いまま、それに付いてくる。補足説明は指で書いていけるので、片手にタブレットを持ったまま、チョークなどに持ち替える必要もない。

photophoto スピード感のある授業が展開される(写真=左)。補足説明も板書の必要はない(写真=右)

 学習していることの系統も、カードの制作画面を示すことでわかりやすくなる。基本的には板書したり、紙をマグネットで貼り付けたりといった旧来の授業スタイルを踏襲しながらも、実際にそういった行為や作業がないため、テンポが中断しないのがポイントであろう。

photo 学習していることも系統で見ればわかりやすい

 一方6年生の特別活動の授業では、子供達はローマ字変換で日本語入力を行なっており、Google Mapや写真資料などを活用しながら、自分のプレゼンテーションを作っていく。

photo Google Mapも活用

 4年生の授業は、道徳だ。先生が提示したエピソードに対する感想を生徒がロイロノートのカードに記入、それを先生宛に送ると、即時に電子黒板に表示される。先生はその中から任意の答えを選んで比較したりしながら、考えを誘導していく。

photophoto 生徒からの回答がどんどん送られてくる(写真=左)。任意の答えを選んで比較

 日本語の入力はソフトウェアキーボードによるあいうえお表を使う子が多かったが、漢字の変換などもきちんと行なっており、4年生ぐらいなら、操作の不安はない。

 3年生の理科では、2人1組で1台のiPad miniを相談しながら使っている。指での操作ではなく、タブレット用のスタイラスを使い、文字入力も手書き派と入力派と半々だ。自分たちでタブレットで撮影した花の写真を使って、観察結果のプレゼンテーションを作る授業だ。補助の先生が時々操作の面倒を見ることはあるが、2人1組なので、できるチームはどんどん進む。

photophoto 自分たちで撮影した写真を元に発表をまとめる(写真=左)。補助の先生も指導にあたる

 あいにく低学年の授業は時間切れでほとんど見学できなかったが、1、2年生はタブレットがなくても、そもそも集中して授業を成立させるだけで結構大変なので、授業中ずっとタブレットを使うという感じでもないようだ。

 次回はロイロノート・スクールがどういう仕組みになっているのか、実際に手元で動かしてみよう。

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は、ITmedia Mobileでの連載「ケータイの力学」と、「もっとグッドタイムス」掲載のインタビュー記事を再構成して加筆・修正を行ない、注釈・資料を追加した「子供がケータイを持ってはいけないか?」(ポット出版)(amazon.co.jpで購入)。


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