すべてのクリエイティブのために――「iPad Pro」がかける「もうひとつの魔法」(1/2 ページ)

» 2015年11月11日 21時00分 公開
[神尾寿ITmedia]

 まるできら星のように、iPadがセンセーショナルな誕生を遂げたのは2010年のこと。モダンでスマートなOSと、タッチパネルによる分かりやすいUIデザインを搭載したiPadは、「2歳の子どもから100歳のお年寄りまで誰でも使えるコンピュータ」として、インターネットとアプリの世界の裾野を広げていった。

 iPadはその後、9.7型ディスプレイのiPadが正統進化して薄く軽く高性能化していく一方で、より携行性の高い7.9インチディスプレイのiPad miniがラインアップに追加された。どちらも高精細なRetinaディスプレイと最新・最先端の高性能プロセッサ、そしてモダンでセキュリティ性能の高いiOSによって、タブレット市場のけん引役であり続けた。

 そして2015年。Appleは9.7型の「iPad Airシリーズ」、7.9型の「iPad miniシリーズ」に加えて、新たなサイズとなる12.9型の「iPad Pro」を投入する。筆者は今回、発売前のiPad Proをいち早く試す機会を得た。Apple初となる“大きなiPad”は、どのような価値とユーザー体験をもたらすのか。使用リポートとともに考えてみたい。

photophoto 12.9型のディスプレイを搭載した「iPad Pro」
photophoto 左右の側面
photophoto 上下の側面
photo シンプルなパッケージ

これまでとまったく異なる「iPad体験」

 大きい!! そして重い!!

 iPad Proを手にして、最初に抱く印象である。

 iPad Proのボディサイズは、220.6(幅)×305.7(高さ)×6.9(奥行き)ミリ。重量はWi-Fiモデルが713グラム、Wi-Fi+Cellular(LTE)モデルが723グラムである。これは歴代のiPadシリーズよりも大きいのはもちろん、2015年4月に投入された新しいMacBookよりも幅と高さが大きい。画面サイズを考えれば当然なのだが、初見で面食らったのは事実だ。

photo 左がiPad Pro、右がiPad mini 4。こうして比べると、iPad Proの大きさがより際立つ

 手にした時に大きさで驚いた後は、電源を入れてみて画面の美しさに感動することになる。今回、搭載された12.9型のRetinaディスプレイは、2732×2048ピクセル(264ppi)の解像度を誇る。これはフルHDの画面がそのまま収まってしまうものだ。また先行して製品投入されたiMac Retina 5Kディスプレイモデルからさまざまな技術がフィードバックされており、「光配向」と呼ばれる新プロセスや可変リフレッシュレート、タイミングコントローラー「TCON」などの採用により、色の再現性や明るさの均一性などが向上している。iPad Air 2でも画面の美しさに感動したが、iPad Proはそれ以上だ。

 そして、iPad Proは本体とディスプレイのサイズ拡大により、これまでのiPadとはまったく異なるユーザー体験を実現している。

 iPadはもともと、ノートPCよりも持ち歩きがしやすく、いつでもどこでも気軽に使える「カジュアルなコンピュータ」というのが真骨頂だった。しかし今回のiPad Proには、よくも悪くも、そのカジュアルさがない。片手で扱うには大きく重く、タクシーや電車の中でパッと取りだして使うには画面が大きすぎる。iOSを使っているという点こそ同じだが、iPad Proのユーザー体験や価値は、これまでのiPadとは別物と考えるべきだろう。

「クリエイティブな道具」としてのiPad Pro

 “コンテンツやアプリ、インターネットを気軽に楽しむ”という用途で考えると、iPad ProはこれまでのiPadよりも使い勝手が悪い。カジュアルさとモバイル性で比較すると、持ち歩きも取り出しもしやすいiPad Air 2やiPad mini 4の方が明らかに適しているのだ。では、iPad Proの真価が発揮され、そのユーザー体験が光る使い方はどのようなものか。それはこれまでMacBookが担っていた“クリエイティブな道具・生産のためのコンピュータ”という用途である。

 この使い方において、iPad Proの優位性となる要素は2つある。

 1つは高性能なプロセッサである。iPad ProはAppleの第3世代64ビットアーキテクチャ「A9X」プロセッサを搭載。これはiPad Air 2の約1.8倍の処理能力と、最大2倍のグラフィックス性能を発揮。Appleによると、2014年に発売されたノートPCよりも約8割処理能力が高く、同時に3本の4Kビデオストリームの動画編集もこなす実力を持つという。筆者が今回試用した範囲でも、アプリの動作は常にサクサクと快適であり、動作がもたつくようなことはなかった。プロセッサやソフトウェアのアーキテクチャが異なるので単純比較できないが、筆者が所有するMacBook(2015年モデル)と比較してもまったく見劣りしない処理能力だった。

 そして、もう1つの要素が、iPad Proと組み合わせて使う入力デバイスである。

 既報の通り、iPad Proには専用のペン型デバイス「Apple Pencil」とキーボード付きカバーの「Smart Keyboard」が用意されている。カジュアルなコンピューターという路線だったiPadは、シンプルで使いやすいマルチタッチインタフェ−スにこだわってきた。これはカジュアルな使い勝手という点ではとても優れたソリューションだったが、iPad Proはクリエイティブ用途での活用がメインであるために、マルチタッチインタフェースを補完する入力デバイスが用意されたのだ。

photo 「Apple Pencil」
photo 「Smart Keyboard」

 この入力デバイスの中でも、とりわけ注目なのが「Apple Pencil」である。これはiPad ProのディスプレイとApple Pencilの両方に専用のセンサーシステムが組み込まれており、両者が協調して動作する。Apple Pencilからの信号は1秒間に240回という分解度でスキャンされ、これにより圧倒的な反応速度と精緻さを実現したという。

 実際に使ってみても、Apple Pencilのすごさには舌を巻いた。まるで本物のペンで紙に書くように、すらすらと文字や図形が書けるのだ。その書き味は、これまでのスタイラスペンやタッチペンとは一線を画す。反応速度がよいだけでなく、筆圧やペンの傾きを検知して線の太さや濃淡が変わる。文字中心のメモ書きから、プロのデザイナーや美大生のグラフィックス制作まで、Apple Pencilではそつなくこなせそうだ。

 一方、キーボード一体型カバーのSmart Keyboardは、手放しで称賛できるものではなかった。単純にタブレット用キーボードとして見れば、キータッチはなかなかのものであるし、iPad Proとの接続を専用端子「Smart Connector」で行い、充電もペアリングもいらないというのは使い勝手がよい。キーボードショートカットにも対応しているので、文字入力の速度はかなり向上する。しかし、カバーとして閉じた状態からキーボードを開くまでの手間がかなり面倒なのと、日本市場向けに「日本語仕様のキーボード」として用意されていないのがいただけない。JISカナ入力に対応しろとまでは言わないが、各種キー配列は日本仕様に改めなければ、日本の一般ユーザーにとっては使いにくいだろう。

photophoto Smart Keyboardを閉じたところ

 Appleによると、iPad Proと外部キーボードを接続するSmart Connectorの仕様はサードパーティー向けにも公開されているという。Apple純正のSmart Keyboardが日本向けにきちんと最適化されていない以上、サードパーティーから使いやすいキーボードが登場することに期待したいところだ。

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