連載
» 2016年02月28日 06時00分 UPDATE

石野純也のMobile Eye(2月15日〜26日):2016年のMWCは周辺機器の祭典?――“スマートフォンの次”を模索するメーカーたち

進化の踊り場を迎えたスマートフォンだが、Mobile World Congress 2016では、各メーカーが新たな道を模索していることがうかがえた。各社との取り組みに共通しているのは、周辺機器の拡大だ。

[石野純也,ITmedia]

 進化の踊り場を迎えたスマートフォンだが、スペイン・バルセロナで開催された「Mobile World Congress 2016(以下、MWC)」では、各メーカーが新たな道を模索していることがうかがえた。

 各社との取り組みに共通しているのは、周辺機器の拡大だ。別の言い方をするなら、スマートフォンで実現していた世界観を、外に広げていく方向性を打ち出したということでもある。以前から、スマートフォンのコンパニオンデバイスは発表されていたが、大手メーカーは、そこに対して本腰を入れ始めている。

Mobile World Congress
Mobile World Congress
Mobile World Congress 盛況のうちに幕を閉じた、Mobile World Congress 2016

VR、360度カメラ、ヘッドセット型音声エージェント――スマホの世界観を広げる機器

 MWCで発表された機種は、搭載されるチップは最新のものにアップデートされ、カメラは高画質になり、ディスプレイもよりキレイになるというように、どれも、正統進化を遂げている。買い替えを考えている人には、悪くない機種だ。

 一方で、新しいスマートフォン単体で、何か目新しさがあったかと言えば、答えは「ノー」。LGの「LG G5」がモジュールを交換できるなど、個別に光る端末はあったが、数年前のように、どの端末を見ても飛躍的に進化しているということは、もう期待できないのかもしれない。言い換えると、スマートフォンも成熟してきたということだ。

Galaxy S7 Samsungの「Galaxy S7」「Galaxy S7 edge」
LG G5 LGの「LG G5」
Xperia X ソニーモバイルの「Xperia X」シリーズ。各社がフラッグシップモデルの発表をMWCにぶつけてきた

 これに対し、各メーカーは周辺機器まで含め、スマートフォンの世界観を広げようとしている。それぞれの具体例を見ていこう。

 まず、Samsungは、フラッグシップモデルの「Galaxy S7」「Galaxy S7 edge」と同時に、360度カメラの「Gear 360」を発表。同社のプレス向けイベント「UNPACKED」でも、全席に「Gear VR」が置かれていた。これは、発表の一部を、現地にいながら、VR(バーチャル・リアリティ)の映像として見るという仕掛けを実現するためだ。

Gear 360 Samsungの「Gear 360」。全天球の映像を撮れるカメラで、4Kまでの撮影が可能と解像度も高い

 同じ韓国メーカーのLG Electronicsも、「LG FRIENDS」と呼ばれる周辺機器群を発表した。目玉となるのは、やはりVRのゴーグルと、それで楽しむ映像を簡単に作れる360度カメラで、Samsungに真っ向から対抗している。VRゴーグルは、メガネ型となっており、SamsungのGear VRよりも着け外しがしやすい。同時に発表した最新のフラッグシップモデル「LG G5」には、LG FRIENDSを一括で管理するアプリが搭載されており、これで周辺機器をコントロールする。

LG FRIENDS
LG FRIENDS
LG FRIENDS LGは、メガネ型のVRゴーグルや、360度カメラを「LG FRIENDS」としてリリース
LG FRIENDS 端末には、こうした周辺機器を一元管理するアプリを搭載

 スマートフォンのブランドそのものを周辺機器に広げたのが、ソニーモバイルだ。同社はXperiaのブランドを大きく拡大し、スマートプロダクトにもその名前を与えた。製品としてMWCで発表されたのが、「Xperia Ear」。ヘッドセット型のデバイスで、ボイスインタラクションの技術が採用されている。単なるヘッドセットとの違いはここにあり、耳に装着すると、自動的に不在着信やニュースが読み上げられる仕組みだ。タッチで操作するスマートフォンに、新たな操作を取り入れる周辺機器といえるだろう。

Xperia 「Xperia Ear」
Xperia 「Xperia Eye」
Xperia 「Xperia Projector」
Xperia 「Xperia Agent」。このようの、Xperiaブランドを周辺機器にまで拡大した

 また、ソニーモバイルは、Xperia Ear以外にも、参考出展として、3種類のスマートプロダクトをブースに展示していた。1つ目が、360度カメラの「Xperia Eaye」で、他社製品との違いは、胸ポケットなどに着けて使えるところにある。新たなXperiaに共通のコンセプトとして取り入れられた「インテリジェンス」も備えており、顔検出や音でシャッターを切ることが可能だ。

 ソニーの超短焦点プロジェクターの技術を使い、タッチやジェスチャーで操作可能なユーザーインタフェースを組み込んだ「Xperia Projector」や、ユーザーに合わせて最適なコンテンツを提案する学習型のロボット「Xperia Agent」も、合わせて発表されている。これらは、スマートフォンの周辺機器の枠にとどまらず、単独でも利用できる。

 ミレニアル世代(1980年から2000年までに生まれた世代)にターゲットを合わせてブランドを刷新したalcatel(TCLコミュニケーション)も、VRに力を入れる。同社の取り組みとして面白いのが、VRのHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を、パッケージそのものにしてしまったこと。IDOL 4Sには標準でVRのHMDが付属する。HMDの中に本体が入った状態で販売されるというのが、今までになかった特徴といえるだろう。また、IDOL 4にも、オプションでHMDが提供される。

IDOL 4S TCLの「IDOL 4S」
IDOL 4S
IDOL 4S VR用のHMDがセットになったパッケージ

周辺機器の幅を広げた、端末やインフラの性能向上

 これまでも、ウェアラブルなど、スマートフォン以外の周辺機器を広げる動きはあったが、2016年のMWCでは、それが一層明確になり、商品の幅も広がった。結果として、スマートフォンはさまざまな周辺機器をつなぐ「ハブ」になりつつある。

 では、なぜこのタイミングで各社が周辺機器に力を入れ始めたのか。VRや360度カメラに関しては、デジタル業界のトレンドになっているのはもちろんだが、端末の処理能力が十分高くなったというのも、その理由の1つと考えられる。

 特に最新のチップセットを搭載するフラッグシップモデルであれば、パフォーマンスを必要とするVRのコンテンツを十分再生できる。各社が時を同じくして、この分野に取り組み始めた理由といえるだろう。例えば、LGのプレスカンファレンスには、QualcommのCEO、スティーブ・モレンコフ氏がゲストとして登壇し、「Snapdragon 820」に搭載されるGPUをアピール。メガネ型のVRにLG G5が対応しているのは、パフォーマンスが十分なチップを搭載しているからだと語っている。

Qualcomm LGのプレスカンファレンスにゲスト出演した、Qualcommのスティーブ・モレンコフ氏
Qualcomm Snpadragon 820のパフォーマンスによって、VRが実現したという

 単にパフォーマンスを求めるだけなら、VRには「Oculus Rift」やHTCの「VIVE」のような、据え置き型の製品もある。これに対してスマートフォンをHMDに埋め込んで使うタイプのものは、手軽で、どこにでも持ち運んで使えるのがメリットだ。コスト的な面でも、追加で購入するのはHMDの“ガワ”(操作パッドやセンサーが入ることもある)だけになり、ディスプレイやチップセットがスマートフォン側に入っている分、負担が少ない。

 その対になるコンテンツを作り出すためには、360度のカメラが欠かせない。こちらも、撮った映像をソフトウェアで処理するためには、チップセットにある程度のパフォーマンスが必要になる。ハイエンドモデルを生かすには、うってつけの周辺機器といえるだろう。

 インフラ面でも、2020年に向け、「5G」の規格策定が進んでおり、こうした周辺機器の用途を広げる可能性がある。5Gは、10Gbpsを超える超高速通信で、遅延も少なく、IoTのように大量のデバイスがつながることを想定している。音声エージェントのように、ある程度クラウド側で処理をした方がいいサービスには、こうした低遅延のインフラも欠かせないものになりそうだ。

 MWCでも、EricsonやHuawei、Nokiaなど、ベンダー各社が5Gのデモを行っていたほか、ドコモなどのキャリアも研究成果の発表や、ユースケースのデモを行っていた。超低遅延のネットワークを通じて、VRで遠隔地の映像を見ながら、あたかもそこにいるように、ロボットを操作する――5G実現後には、そんな利用スタイルも考えられそうだ。

ドコモ ドコモの5Gのデモでは、VRで電波を“見える化”していた
Ericson
Ericson Ericsonは、5Gのデモを行ったほか、ユースケースも紹介していた。遠隔地の機械を操作するといったことも、低遅延ならスムーズに行える

ユーザーの生活に定着するのは数年先か?

 ただし、こうした周辺機器の利用が、どこまで一般に広がるのかは、未知数なところもある。少なくとも、スマートフォンのように、すぐに誰もが持つようなデバイスにはならないはずだ。

 VRは一度試してみると、その迫力に驚かされるが、生活に密着した必需品とまではいえない。スマートフォンのように、1人1台やそれ以上というわけにはいかないだろう。ハイエンドモデルを買った人が、プラスαとして楽しむにはいいかもしれないが、これだけを目的として、ハイエンドモデルを買うということにはならないだろう。メーカーは、このギャップを、埋めていく必要がある。

Gear VR Samsungの発表会で、Gear VRを動きとともに楽しむ報道陣と関係者。使ってみれば、その楽しさはすぐに分かる

 くしくも、目指す方向性が一致していた端末メーカー各社だが、その様子からは、各社がスマートフォンの世界をどのように拡大していくのかを、手探りで模索している印象も受けた。現時点ではまだ決定打は見えていないが、スマートフォンの進化の方向性がある程度見えてきたMWCだった。

Copyright© 2016 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.