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“キャッシュレス決済の課題”に関する誤解

» 2018年11月12日 14時39分 公開
[田中聡ITmedia]

 「○○ペイ」という名前の決済サービスが、続々と登場している日本。特にここ最近は、QRコードやバーコードを使ったサービスが増えている。日本政府は、2025年までにキャッシュレス決済比率を40%にまで上げることを目指しているが、果たして日本のキャッシュレス化は順調に進むのか。

 スマホアプリからVisaプリペイドカードを発行できる「バンドルカード」を提供するカンムのCEO、八巻渉氏が、10月25日のメディア向け勉強会でキャッシュレスの問題点を語った。

コード決済が増えている理由

キャッシュレス決済 カンムCEOの八巻渉氏

 現在、日本でQRコード決済が増えている理由は「中国でAlipayやWeChat Payがはやったこと」が最も大きいと八巻氏はみる。「中国で大ヒットしたことで日本でもできるんじゃないかという機運が高まった」と同氏。また、QRコード決済は決済端末も安価に導入でき、手数料が安いサービスもあり、中小規模の店舗が導入しやすいというメリットもある。

 LINEや楽天を筆頭に、「ネット系事業者」が提供しているQRコード決済サービスも多い。「コンテンツやゲームは市場規模が頭打ち。これを解消するにはインフラを作る必要がある。ゲームやコンテンツを持っているところは、既にお金の流れが起きているところに決済を導入しやすい」と八巻氏はメリットを話す。決済データを取得してローンの与信などに活用すべく、銀行側がQRコード決済に参入する機運も高まっている。

キャッシュレス決済 QRコード決済サービスが増えている理由

決済手数料よりも大きな問題

 たびたび話題に上がる「キャッシュレス決済の課題」については、間違いがあると八巻氏は指摘する。1つは「クレジットカードの手数料の高さ」。これは完全な間違いではないが、チャージのコストが高いことの方が問題だと八巻氏は言う。海外のチャージ手数料は0.1%など安いが、日本ではチャージ手数料を「2%以下にできないという構造的な問題がある」という。一方「(口座から直接支払う)銀行ウォレットはチャージしなくてもよいので、手数料を安くするチャンスはあるかもしれない」と付け加えた。

キャッシュレス決済 八巻氏が指摘する、キャッシュレス決済の課題の間違い

 コスト面でもう1つ大きいのが、加盟店開拓だ。「自分たちでずっと加盟店営業しますか? という疑問はある」と八巻氏。例えば、楽天Edyは13年間で約50万店舗を開拓した。Visaは国内約300万店舗で使えるといわれているが、ここまで拡大するのに約40年かかっている。「Visaでも使えないお店が多いよねという感覚があり、(300万店舗の)実現に40年かかる時点で詰んでいる」(同氏)

 ソフトバンクとヤフーの合弁会社、PayPayが開始したQRコード決済サービス「PayPay」は、ソフトバンクの営業部隊が急ピッチで店舗開拓を進めているが、「やっていることはテレアポ」(八巻氏)なので、楽天EdyやVisaと同様のペースになるとみている。

 「普通の営業をすると、開拓できるのは年に5万店舗。Alipayも、あれだけインバウンドニーズがある中で、日本では5万店舗しか開拓できていない」と八巻氏は話し、営業にイノベーションが起きない限り、急速な店舗拡大は難しいとみる。

 現状、加盟店開拓は各社が独自に行っており、例えば楽天が「楽天ペイ」用に開拓した店舗を、他のQRコード決済事業者に開放するといった施策は行っていない。これは「事業者側にインセンティブがないから」(八巻氏)で、加盟店開拓の問題は宙に浮いていると八巻氏は話す。

乱立するとユーザーは混乱する?

 「決済サービスが乱立すると、ユーザー混乱する」という意見にも八巻氏は疑問を呈する。

 「(混乱は)あるといえばあるが、決済オタクじゃない人は決済手段を厳選しない。このお店なら2%たまるとか、今カードを作るとお得といった理由で手段を決めている。そうなると、乱立しているからややこしいという問題ではなくて、“電子マネーが使えるっぽいお店”で使えないことが問題。例えばEdyは使えるけどSuicaは使えないとか。これはすごくストレスで、マイナスのイメージを持ってしまう」(八巻氏)

 要は、決済手段が乱立しても、モバイル決済サービスを導入している店舗で使えれば問題ないというわけだ。確かに、FeliCa対応の決済端末がレジ前に置かれているものの、どのサービスが使えるかの案内がなく、実は自分が導入している決済手段が使えない……ということはある。店舗側には、どのサービスが使えるかを分かりやすく案内してほしいとも思う。

日本人は現金が好き?

 「日本人は現金が好き」という論調もあるが、これは「現金以外使う理由がない」が正しいと八巻氏は指摘する。中国は偽札対策、韓国は脱税対策、スウェーデンは現金の輸送コスト削減など、政府が施策としてキャッシュレス化を進めてきたところが多く、そうした国ではキャッシュレス比率が高い。

 八巻氏が特に注目したいというのが英国で、2012年のロンドン五輪をきっかけに、政府が非接触決済の普及を促進し、2007年から2016年までにキャッシュレス比率は30.8%上がった。これは韓国に次ぐ高さだ。2020年に東京五輪を控える日本が、この一大イベントを、どこまでキャッシュレス化の良いきっかけにできるか注目したい。

キャッシュレス決済 諸外国のキャッシュレス決済比率と施策

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