新型「MacBook Pro」を眺めて思う本当のすごさ驚くべきは中身か外見か(1/3 ページ)

» 2011年03月01日 11時46分 公開
[林信行,ITmedia]

 2010年4月からおよそ10カ月ぶりに「MacBook Pro」のラインアップが一新された。「Sandy Bridge」と呼ばれる、新設計のCPUを搭載し、グラフィックスも刷新。これだけでもすごいが、さらに周辺機器の接続用として、USB 3.0の2倍となる最大10Gbpsの高速転送を可能にした「Thunderbolt」を世界で初搭載している。まさに「次世代」と呼ぶにふさわしい性能を実現した新モデルだが、驚いたことにその新次元のパワーが収まっているのは、2008年登場から寸分違わないアルミユニボディだ。昔のMacBook Proから乗り換えると、まるで数年間乗り慣れた愛車が、突然ロケットエンジンを積んだように感じられるかもしれない。

クリエイティビティをインスパイヤする新性能

 今回の新MacBook Proの発表にあわせて米アップルから担当者が来日したので話を聞いた。アップルの新製品発表会にしては久しぶりに技術的な内容だ。

 これが「iMac」や「Pro」の3文字がつかない「MacBook」の製品発表会だったら、それほど重きを置かずに紹介される技術的スペックでも、同じ時間でどれだけの結果を出せるかが重要な「Pro」用製品では話が違ってくる。

 これまでそういったフラッグシップモデルの役割は、デスクトップ型製品が担うことが多かったが、アップルは2010年1月から「モバイル・カンパニー」を標ぼうしており、これまでデスクトップ機でなければできなかったような作業にもモビリティ(機動性)を持たせようとしているのかもしれない。

 説明会では最新MacBook Proのケタ外れの実力を示すデモがいくつか行われたが、その中でもハイライトとなったのが、非圧縮のハイビジョン動画4つを同じ画面上で合成して再生するというものだった。27型ワイドのApple LED Cinema Display(2560×1440ドット)で1080p(1920×1080ドット)のハイビジョン動画の全ピクセルデータを毎秒30コマ、しかも、それを4つ同時に転送して合成し、画面に表示する。

 もしかしたらFinal Cut Proによる画面表示は、多少ピクセルを間引いて画質が落ちていたかもしれないが、少なくともデータとしてすべてを間引くことなく転送して再生できるというのはすごいことだ(ほかの環境でも試してみないと分からないが)。何せアップルが自前で用意した「Thunderbolt」でどれくらいの量のデータを転送しているかをメーター表示するアプリケーションで、理論値の7〜8割の帯域で転送を行っていたことになる。

 つまり、MacBook Pro以前で最強のI/OインタフェースとされていたUSB 3.0(帯域はThunderboltの半分)では、同じような作業はできないということ――それをMacBook Proが可能にしたことで、これまでは時間をかけなければ難しかった次世代の表現を、簡単に試行錯誤ができるということでもある。

 ウォルト・ディズニー・アニメーションとピクサー・アニメーション・スタジオの両チーフ・クリエイティブオフィサーを務めるジョン・ラセター氏の座右の銘に「アートはテクノロジーをたきつけ、テクノロジーがアートにインスピレーションを与える」という言葉があるが、これから新MacBook Proが提供する次世代の性能がきっかけで、これまで以上にクリエイティブ表現の試行錯誤がしやすくなり、そこから新しい表現、新しいアート、新しいクリエイティブが生み出されてくるのではないかと夢がふくらむ。

 しかし、筆者がそれと同時に感銘を受けたのが、これが2008年に登場した時から変わらないMacBook Proのユニボディで実現しているということだ。

円熟のボディにつまった進化した性能

継ぎ目のないアルミユニボディ

 今回、筆者が製品担当者に1番聞きたかった質問が、まさにそのことについてだった。新しいMacBook Proのボディは、これまでのボディとまったく同じなのか。

 「Thunderbolt」のコネクタは、Mini DisplayPortとまったく同じ形状をしており、従来のMini DisplayPort用のアダプタや周辺機器もそのまま使えるという。シリアルポート、パラレルポート、マウス/キーボードポート、ADB、SCSI、eSATA――ニーズが生まれる度に、新しい転送技術と新しいケーブル、新しいコネクタを作り出すというのがこれまでの進化だった。

 しかし、Thunderboltは、すでに世の中に存在し、定評があったコネクタと互換性を持たせることにより、PCに不要なポートが増えることを防いでくれたのだ。

 ちなみにMacのノート型やデスクトップ型が採用しているMini DisplayPortをアップル独自のポートだと思っている人がいるかもしれないがそうではない。DisplayPortは、元々はVideo Electronics Standards Association(VESA)が生み出したディスプレイ機器接続用の規格で、それを小型化したMini DisplayPort(mDP)もVESAの規格として、東芝やHP、デルなど、国際的に活躍しているPCメーカーが採用している。れっきとした業界標準規格なのだ。

 それではThunderboltとMini DisplayPortが同じ形状だと、どのようなメリットがあるのか?

 MacBook Proの側面に、また1つ余計な穴を増やさずに、1つのポートからディスプレイも外付けの高速HDDも、両方とも接続できてしまうのだ。「ということは、もしかして?」と思い、上記の「これまでのボディとまったく同じなのか」という質問を担当者にぶつけてみたが、答えは「Yes」だった。

ケーブルにもイナズマ型のアイコンがプリントされている

 15インチモデルでいえば、2008年に登場して以来まったく変わらないアルミ削り出しのユニボディを採用し、ただ端子の横の印刷だけ「Mini DisplayPort」用のアイコンからアップルのデザイナーがデザインした「Thunderbolt」用のイナズマ型のアイコンに差し替えただけだという。

 アップルのMacBook Pro公式ホームページを見ると、アップル工業デザイナーのトップ、ジョナサン・アイブ氏がユニボディのコンセプトを紹介する動画があがっているが、これも冒頭の本体側面が写る部分とBGMだけ差し替えてあって、アイブが話している映像そのものは、まったく同じだった(YouTubeなどで確認できる)。

 しかし、「変わらない」ことの一体何がそれほどいいのか?

 MacBook Proのボディデザインがヒドイものだったら、確かに変わってほしいと思う人も出てくるかもしれないが、今のMacBook Proのデザインは、考えに考え抜かれたカタチであり、これをむやみに変えることは製品の改悪にもつながりかねない。もちろん、不要なコストを生み出す要因にもなり、無駄に環境を汚染する要因にすらなる。ユーザーもどこかで、製品価格の一部がその不要な装飾に使われていることに気がついているはずだ。

 必要もないのに製品をモデルチェンジする会社は、CSR(企業の社会的責任)として植樹活動をしていようが、製品のリサイクル回収を行っていようが、その一方でそれを台無しにする行為をしていることになる、といったら言い過ぎだろうか。

 最近、ある有名な日本の工業デザイナーの方と話す機会を得たが、外観のモデルチェンジというのはそもそも、機能上どうしても必要な時にしかしないものだったという。それがどこかで間違って、売り場で新製品であることをアピールするための形状(といっても主に外装の)変更が頻繁に行われるようになってきた。

 そういえば、ThinkPadシリーズをデザインしたリチャード・サッパー氏も、1つのジャンルの製品は、1度しかデザインしないと聞いたことがある。1つの製品に対しての答えといえるカタチは、究極的には1つしかないという考え方だ。

 そういった工業デザイナーの考えに強く共感する筆者としては、「2倍の性能」や「最新の機器接続テクノロジー」を採用しながらも(アップルが)、まったく同じボディでまったく同じバッテリー動作時間を実現していることのほうに、むしろ大きな驚きと感動を覚えてしまう。

 ここで(製品担当者から聞いた話ではないが)ユニボディがどこがなぜすごいのかを改めて振り返ってみたい。

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