Windows 8総責任者の辞任が「Windows Blue」にもたらすもの本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/2 ページ)

» 2012年12月26日 11時00分 公開
[本田雅一,ITmedia]

Windows開発トップからハーバード大学の教壇へ

10月25日(現地時間)にニューヨーク市で開催されたWindows 8の立ち上げイベントにて、「Surface」を上機嫌で紹介するスティーブン・シノフスキー氏。米Microsoftは11月12日(現地時間)、同氏の退任を発表した

 先日、米MicrosoftのWindowsおよびWindows Live担当社長を務め、Windows 8のリリース直後に辞任したスティーブン・シノフスキー氏が、Twitterアカウントで「ハーバード大学大学院経営学研究科(HBS)で働く」と発表して話題になった。

 物事を整理して話したり、1つのテーマについて論理的に議論しあったり、あるいは自分の考えをブログに書き留めることが好きだったシノフスキー氏が、大学で学生に教えたり、書籍を出版する……と聞いて、身近だった人たちは、その進路に納得したのではないだろうか。明確なビジョンを基に、大胆に製品を改革し、新たなものを作り出す仕事に、シノフスキー氏は熱中していた。

 と、書き始めたが、本稿はシノフスキー氏の個人的な進路について注目する記事ではない。シノフスキー氏の辞任に伴う話に関しては、「Windows 8総責任者が辞任。マイクロソフトに今、何が起きているのか(Yahoo!ニュース/外部リンク)」を参照いただけると幸いだ。

 さて、この辞任により、今後を心配されているのはシノフスキー氏本人ではなく、“Windows全体”である。

 HBSで働き始めると記したシノフスキー氏のツイートでは「製品開発と“コラボレーション”について教える」と書かれていた。わざわざコラボレーションを強調するのには理由がある。今回の人事直後からMicrosoft本社は、シノフスキー氏が他者と協業できない堅物で、自分の担当する領域を広げながら、自分色にすべてを染め変えるような協調性のない人間である……、やや大げさに言うと、そういった印象を与える情報を流してきた。

シノフスキー氏とともに、Windows 8の立ち上げイベントで登壇したジュリー・ラーソン─グリーン氏

 対する後任のジュリー・ラーソン─グリーン氏は、ユーザーインタフェース開発を主に担当し、異なる製品プロジェクト間でユーザーインタフェースをすり合わせるなど、異事業部間のコラボレーションで力を発揮してきたと言われる。

 あるMicrosoft本社幹部の話によると、互いに主張して譲らない複数の製品担当者を集めたとき、高級ワインをテーブルに置いて「みんな主張するばかりじゃ会議しても意味がないわよ。まずはワインでも飲んで互いの話を聴きあいましょう」と、対話を促したという逸話がある。

 製品の細部に入り込み、ときに重要な部分のコーディングを自分で書きながら、すべての機能を把握し、コントロールすることに努めたシノフスキー氏とは真逆のアプローチで「だからこそ、今回の人事で抜てきされた」との声が大きい。

 それゆえ、自分はハーバード大学で“コラボレーション”について教えるぐらい、他部署を尊重し、互いの意見をくみ取りながら協業を前に進める力があるのだ……と、シノフスキー氏は言いたかったわけだ。

プロジェクト全体の掌握に努めたシノフスキー氏だったが……

 前述したように、シノフスキー氏はWindows部門の経営を任されつつも、毎日必ずプログラミングをするというエンジニア肌。あらゆる開発分野に関して、自ら把握してプロジェクト全体を掌握することに心血を注いできた。

タッチパネル前提の新しいUIとアプリを大胆に採り入れたWindows 8。Microsoft純正のWindows 8タブレット「Surface」まで登場した

 Windows 8は、これまでのWindowsとは違う。これまでのWindowsは、過去に作り出したデスクトップ型ユーザーインタフェースを基にしたアプリケーション、開発環境、エンジニアたちが普及を下支えしてくれた。しかし、Windows 8はデスクトップを“レガシー”として、タッチパネル前提の新しいユーザーインタフェースとアプリケーションの世界を再構築せねばならない。

 Windows 8でデスクトップが隅に追いやられたように感じている、従来からのPCユーザーは少なくないはずだ。コマンドコンソールからGUIへの変化でも見られた拒絶反応が、その何倍もの強さで現れているように感じることもある。

 しかし、タッチパネルの性能向上、ユーザーインタフェース技術の革新は、ここ数十年の中でも最も大きな技術イノベーションの1つだ。これに対応できなければ、デスクトップGUIを基礎にするWindowsは確実に衰退していく。スマートフォンやタブレットで確たる基盤を持たないマイクロソフトにとって、これは致命的なことだ。

 だからこそ、シノフスキー氏は自らが描く“未来のWindows World”への大胆な変化を実施し、その完成度を少しでも上げることに集中してきた。大胆に製品を刷新しなければ意味がないため、さまざまな点において独善的に仕様を決めていかなければならない。それだけに周囲との軋轢(あつれき)も大きかったと想像される。

 技術的な面からマーケティング的な側面まで、幅広くすべてを把握し、あらゆる部分を自分の思い通りにしたいシノフスキー氏と反目する者も多かった。

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