「VAIO Pro」を“徹底解剖”して見えた真の姿VAIO完全分解&開発秘話(後編)(2/7 ページ)

» 2013年08月13日 15時45分 公開

最も困難な開発となったPCIe SSDだが、パフォーマンスは抜群

横幅22ミリのM.2ソケットをメイン基板に2基搭載。そのうちの1つにSSDモジュール(長さ80ミリ)、もう1つに無線LAN/Bluetoothコンボモジュール(長さ30ミリ)を装着している

 前編で述べた通り、VAIO Proは新しい横幅22ミリのM.2(旧称NGFF)仕様モジュールを採用。M.2ソケットがメイン基板上に2基あり、1つにSSDモジュール(長さ80ミリ)、もう1つに無線LAN/Bluetoothコンボモジュール(長さ30ミリ)を装着している。

 小坂氏は「PCI Express(PCIe)接続の高速なSSDや最新の無線LANモジュールを使いたかったため、これまでのmSATAやPCI Express Mini Cardより世代が新しく、SSDベンダーやIntelが今後推進していく予定のM.2をいち早く採用した。M.2のSSDは、細長いモジュールが横長のメイン基板に収まりやすいのも採用理由の1つ。mSATAより高さを抑えられるため、薄くするにも都合がよい」と採用の理由を語る。

 VAIO Proは、従来のSerial ATA(SATA) 6Gbps接続SSDに加えて、新しいPCIe 20Gbps接続SSDも選択できる。PCIe SSDは両面実装の256G/512Gバイトモジュールで、これを選択可能なのは、VAIO Pro 13のソニーストア直販VAIOオーナーメード(VOM)モデルだけだ。VAIO Pro 11で選択できるSSDは、本体厚の都合により、片面実装のSATA SSD(128G/256Gバイト)に限られる。この辺りの仕様の違いは、前編を参照していただきたい。

 SATA SSDの場合、プロセッサ(チップセット)内部のHCI(ホストコントローラインタフェース)コントローラとSSD上にあるNANDメモリコントローラの間がSATAインタフェースで接続されるため、理論値6GbpsというSATAのバス速度が限界となり、高速なSSDでは本来の転送速度を発揮できない。

 これに対してPCIe SSDの場合、HCIコントローラ兼NANDメモリコントローラを備えたSSDに、内部バス(PCIe 2.0 x4を使用した20Gbps)でダイレクトに接続するため、SATA部分のボトルネックが解消され、高速なSSDの性能をより引き出せるというわけだ。Windows 8上では標準のAHCIドライバを用いている。

 SATAもPCIeも内部の信号が異なるだけで、SSD自体はすべて80ミリ長のM.2モジュールに統一されており、メイン基板は1枚で両方対応できる仕様だ。

VAIO Pro 13のM.2ソケットに装着されていたSSDの表(写真=左)と裏(写真=右)。長さ80ミリの細長い形状だ。今回分解した機材には、SATA SSDが載っていた。NANDフラッシュメモリは片面実装で、裏面にはない

 ただし、PCIe SSDの採用は、VAIO Proの開発で最も困難な部分になった。

 小坂氏は「開発当初はチップセット内蔵のSATAコントローラが外に出るようなイメージでスタートしたが、実際はSSD側にHCIコントローラを載せることで、Intelのチップセットが標準コードでサポートしている機能が使えなくなってしまった。つまり、独自にコードを書いてブートさせるところから実装し、起動時のイニシャライズ時間を短縮、パフォーマンスの最適化を行うなど、SSDベンダーやUEFIベンダーと密に連携しながら、トライ&エラーで開発を進める必要があった」と当時の苦労を語る。

 さらに、無事に動作するようになってからは、目標とするパフォーマンスが得られるように、量産直前までファームウェアのチューニングをSSDベンダーに依頼し、ギリギリまで性能を突き詰めた。

 こうした奮闘により、「公称値は出していないが、テストではSATA SSDの約2倍、シーケンシャルリードで1000Mバイト/秒を突破した。実際にはNANDの読み出し速度や、コントローラの前にゲートアレイが入っている関係で、理論値の20Gbps には達しないが、VAIO Z(Z2)のSSD RAID 0に勝るようなパフォーマンスを1つの小さなSSDモジュールで実現できたのは大きな収穫」(小坂氏)と、Ultrabookでは突出したSSDのパフォーマンスを得るに至っている。

内蔵ストレージの性能を評価するCrystalDiskMark 3.0.2(ひよひよ氏)のテストスコア。512GバイトPCIe SSDを搭載した構成のVAIO Pro 13 VOMモデルは、シーケンシャルリードでは1024Mバイト/秒と、1Gバイト/秒の大台を突破した(画像=左)。256GバイトSATA SSDを搭載した構成のVAIO Pro 11 VOMモデルも、UltrabookのSSDとしては十分速いといえるが、PCIe SSDとの差は大きい(画像=右)

性能テストの詳しい結果はこちら→「VAIO Pro 11」「VAIO Pro 13」徹底検証(後編)――“世界最軽量”タッチ対応Ultrabookは1Gバイト/秒の“爆速”PCIe SSDも魅力

11.6型でもインタフェースは妥協せず

 一方、無線LAN/Bluetooth共用のM.2モジュールは長さが30ミリと短い。無線LANはIEEE802.11a/b/g/n、Bluetoothは4.0+HSを利用できる。ここで802.11acの非採用、あるいはLTEやWiMAXの非対応が気になるかもしれない。

 これに対し、宮入氏の回答は「技術的に802.11acの実装は問題ないが、認証に時間がかかることもあり、今回は採用を見送っている。LTEやWiMAXの内蔵については、スマートフォンのテザリング環境やモバイルルータが充実しているので、あえてPCに内蔵して薄さや軽さを犠牲にすることはないと早期に判断した」とのことだった。確かに、これらのサポートで携帯性が後退するよりは、現状のほうがベターと考えるユーザーは大半だろう。

M.2ソケットから取り外した無線LAN/Bluetoothコンボモジュールの表(写真=左)と裏(写真=右)。長さ30ミリの小型モジュールを採用する。無線LANの最大送受信速度は300Mbpsだ

左右のボタンをタッチパッドに一体化した、いわゆるクリックパッドを採用。その裏には、NFCが内蔵されている。パームレストはアルミニウム製で電波を通さないため、タッチパッドの裏側にNFCを配置した

 タッチパッドの下には、I2Cインタフェースで接続されたNFCが埋め込まれており、タッチパッドに対応製品をかざして使うユニークな仕様だ。液晶ディスプレイの輝度調整とキーボードバックライトの制御を自動で行う照度センサーも内蔵している。

 本体左右には、SDXC対応SDメモリーカードスロット、HDMI出力、2ポートのUSB 3.0(1基はUSB給電に対応)、ヘッドフォン出力(ヘッドセット対応)を搭載。SDメモリーカードスロットはサブ基板に実装し、くさび型ボディで段階的に高さが変わる設計に対応している。USB 3.0とHDMI出力はメインボードをくりぬいて実装し、ヘッドフォン出力とACアダプタのDC入力は、端子を個別にケーブルで伸ばして隙間に押し込むような配置だ。

 また液晶ディスプレイ上部には、高感度撮影に強い"Exmor R for PC" CMOSセンサーを採用したHD Webカメラ(有効92万画素)を装備している。

 VAIO Pro 13とVAIO Pro 11で共通のインタフェースを搭載し、11.6型でSDメモリーカードスロットを省くなどの差がないのは好印象だ。「SDメモリーカードスロットの配置を変えるなど、11.6型のコンパクトボディでも13.3型と同じインタフェースをそろえて、画面サイズの違いで使い勝手が変わらないように工夫した」(城重氏)と、端子類にもこだわりが見られる。

VAIO Pro 13の前面は薄く、端子やスロットを備えていない(写真=左)。背面には、アルミニウム製のオーナメントが装着されている(写真=右)
VAIO Pro 13の左側面にはACアダプタ接続用のDC入力と排気口を配置(写真=左)。右側面にはSDXC対応のSDメモリーカードスロット、2基のUSB 3.0(1基は電源オフ時の充電に対応)、HDMI出力、ヘッドフォン出力を装備する(写真=右)。HDMIに接続してアナログRGB出力を行うVGAアダプタ「VGP-DA15」(1980円)もオプションで用意する(写真=右)
VAIO Pro 11は、前面にSDXC対応のSDメモリーカードスロットを配置している点がVAIO Pro 13と異なる(写真=左)。背面はVAIO Pro 13と同様、アルミニウムのオーナメントが装着されている(写真=右)
VAIO Pro 11の左側面にはACアダプタ接続用のDC入力と排気口が並ぶ(写真=左)。右側面には2基のUSB 3.0(1基は電源オフ時の充電に対応)、HDMI出力、ヘッドフォン出力を備えている(写真=右)

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