林信行の新型「MacBook Pro」最速レビュー最小のボディーに最大の挑戦(3/3 ページ)

» 2016年10月29日 00時00分 公開
[林信行ITmedia]
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Thunderbolt 3への大胆な移行

 打ちやすくなったキーボードの安心感、Touch Barの新しい操作によるワクワク感で期待が高まる中、少し「勇み足」か? と思えてくるのが、すべての周辺機器接続ポートをThunderbolt 3に変更したことだ。

 かろうじてヘッドフォンジャックだけは残っているが、旧MacBook Proに搭載されていたSDメモリーカードスロットもなくなっていれば、HDMI出力も、いわゆるパソコン側のUSB端子(Type-A端子)もなくなった。これにより、電源ケーブルも、プロジェクターや外部ディスプレイも、外付けストレージも、すべてUSB Type-Cと同形状のThunderbolt 3端子に接続することになる(Touch Bar搭載モデルなら4ポート、非搭載モデルは2ポート)。

新型MacBook Pro(右)とMacBook(左)。MacBook Proは、SDメモリーカードやHDMI出力を取り去り、外部接続ポートをThunderbolt 3に移行した

 USB Type A端子は、挿すときにコネクタの上下を間違えて、その度にイライラする端子の1つで、早くなくなるべきだと思っている筆者ではあるが、それでも、まだまだこの端子への接続を前提にした機器は多い。実際、ちょっとしたファイルの受け渡しもこの端子に挿して使うUSBフラッシュメモリーで行われることが多く、しばらくは同端子がなくなったことで、不自由を感じる(あるいは、周囲の人に面倒がられる)場面があるかもしれない。

 しかし、テクノロジーは常に前進を続けており、何年かに一度は時代遅れになったテクノロジーをバッサリと切り捨てる新陳代謝を行なっていかないと、やがて古い技術の足かせになってしまう。そして残念ながら、この古い技術をバッサリ切り捨てる勇気を持った会社は、Apple以外にいないのだ。

 真っ先に3.5インチフロッピーを採用したのもAppleなら、1998年のiMacでそれを真っ先に切り捨てたのもAppleだった。シリアルポートやSCSIなどのポートもこのときに切り捨てた。CD-ROMドライブを真っ先に採用し、そして真っ先に切り捨てていった。

 Apple以外のPCメーカーは、同じOSのPCをいかに安い値段で、いかに多くの機能を詰め込んで「お得感」をアピールし、そして買ってもらうかを勝負どころにしてしまっている。一方、MacはOSが異なるおかげで、独自の世界を築いており、競合他社がいない分、Appleが独断で大胆に仕様を変更できる。

 だから、業界の流れも、まずはAppleが新スタンダードを作り(あるいは一番手ではないにしても、それを数百万台以上の単位で普及させ)、新技術の生態系ができあがってから他社もそこに追従してくる、ということが繰り返されてきた。

大胆なThunderbolt 3端子への全面移行は、しばらく多くのプロユーザーに不自由を強いることになるかもしれない。しかし、対応機器が増えてきたら、真っ先に恩恵を受けられるのも勇気をもって先行投資してきた人たちだ

 今だったら、もしかしたらMicrosoftも、こうした技術の新陳代謝を行い、新しいスタンダードを作る側の企業になれるのではないかと思う、しかし、とりあえずUSB Type-A/BとSDメモリーカードというレガシー技術の切り捨てに関しては、再びAppleが先導する形になった(個人的にはデジタルカメラからの画像転送用技術として、AppleにはTransferJetを採用してほしい。非常に相性がいいと思う)。

 今回、Appleがいつも以上に大胆だと思ったのが、この仕様変更をiMacのようなコンシューマー機ではなく、日常業務を止めることができないプロ用のMacで行なったことだ(もっとも、MacBookという前奏曲はあったが)。

 おそらく「こんなMacでは仕事ができない」と怒るプロもいるだろう。しかし、そうした人のために、Appleは従来のUSBポートやSDメモリーカードスロット、HDMI出力を備えた、MacBook Proの旧モデルの販売も続けている。

 AppleがThunderbolt 3を選んだのは、これが本来の意味でのUSB、つまりUniversal=普遍的なSerial Busだからだろう。

 それでもまだ現在は、アナログRGBやHDMIで接続するディスプレイやプロジェクターをはじめ、テレビ、外付けストレージ、そのほかの周辺機器ごとに、それぞれ異なる端子が使われている。だからしばらくは、MacBook Proでこれらの機器を使用する際、ドングルと呼ばれる専用のアダプターを併用する必要がある。しかし、将来の理想は、プロジェクターともテレビとも、HDDとも、電源とも、アダプターを挟まずに、全部同じケーブルで接続できるようになることだ。

 MacBookでの採用を皮切りに、USB Type-C搭載PCが少しずつ増えてきたことを受け、最近では徐々にではあるがUSB Type-Cに直接接続できる周辺機器も増え始めている。

 また、Apple純正のアダプターやケーブルも充実してきた。今回、MacBook Proと一緒に、USB Type-C→Lightningケーブルの貸し出しも受けたが、これを使ってiPhone 7を充電してみたところ、通常よりも早く充電できる印象を受けた(ただ、レビュー時間が短いため、正確な計測は行えていない)。

 新しい規格だけに、Thunderbolt 3には転送速度の向上だけではなく、さまざまなメリットがある。ただ、そうした恩恵を本当に感じられるのは、おそらく来年も後半以降になってからとなってしまうかもしれない。しかし、とりあえずそんな未来を信じて先行投資ができる人たちにとっては、この新型MacBook Proはワクワク感と夢を与えてくれるマシンに仕上がっている。


 MacBook Proは、超ハイパフォーマンス製品のブランドだ。しばしば、パソコン雑誌で“最も高速なノートPC”として取り上げられてきたのもMacBook Proシリーズだったし、実際に同じMacBook Proを3〜4年間使い続けるプロユーザーは多い。これは単に高速なCPUやGPUを搭載したモデルがあるからというだけでなく、ハードとソフトの密な連携のすべてをAppleが真剣に手がけてきているからだ。

 そんな、ある意味ではパソコン全体のフラグシップともいえるブランドの製品が、この引き締まったボディーに収まっている、という事実にはただただ驚かされる。シンプルで、薄くて、軽くて、それでいて大胆。過去25年間のApple製ノートPCの多くがそうであったように、新しいMacBook Proも、ノートPCの新しいスタンダードとなり、遠からずすべての周辺機器がThunderbolt 3で提供される未来を期待したい。

取材協力:アップルジャパン

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