では、なぜこのようなうわさが出てきたのだろうか。火のないところに煙は立たないものだ。しかし、これに対してもAppleは丁寧に回答をしている。
Macが生産性重視のコンピュータであることを述べた上で、Macに対してiPadやiPhoneのアプリのように、シンプルにWebサービスの価値を活用するアプリも求められていることに言及した。
しかし、Macと比べてはるかに稼働台数が多いiOSデバイス向けアプリの方がMac専用アプリよりも市場が活性化していることは明らかだ。Appleは今回のWWDCで、iOSのAppStoreを通じて開発者に支払われた金額が、合計1000億ドルに達したことを明らかにした。
そこでこのモメンタムの大きさをMacユーザーに還元するためのプロジェクトを、Appleは過去数年にわたってトライアルしてきた、というのが筆者の解釈だ。
それは、iOS向けに開発されたアプリを、簡単にmacOS向けにポーティング(移植)するための仕組み作りである(現時点において、どのような枠組みでそれを実現するのかは明らかにされていない)。
そもそもiOSは、macOSの前身である「Mac OS X」が基礎となっているOSだ。しかし、ユーザーインタフェースの違いから両者のアプリの間には超えられない溝がある。
macOSアプリは「AppKit」、iOSアプリは「UIKit」というクラスライブラリを通じてユーザーインタフェースが構築されている。iOSアプリでは、マウスやトラックパッドを用いた操作、ウィンドウサイズの変化に対する表示レイアウトの最適化、スクロールバーの有無、コピー&ペースト、ドラッグ&ドロップといった部分が互換アプリの開発を難しくしている。
そこでUIKitのフレームワークに手を加えて、Mac上でも破綻なく動くようにしておき、macOS側にあらかじめUIKit対応のクラスライブラリを組み込んでおくことで、iOS用アプリが動作するようにするようだ。
今年は自社開発の一部アプリの対応にとどまるが、来年には開発者向けに提供することを明らかにした。この仕組みを用いると、開発者はiOSアプリを開発すると同時に、簡単なユーザーインタフェースの調整を行うだけでmacOSユーザーにも同じアプリが提供可能になる。
WWDC 2018の段階では、Appleが新しいOSにそれぞれ組み込むNews、株価、ボイスメモ、ホームといったアプリがこの仕組みを利用している。これらはiPhone、iPadそれぞれの動作もユーザーインタフェース、機能含め刷新されている。そして、その刷新されたデザインイメージ、機能がそのままmacOSでも動いていたのだが、最後の最後になって、それが新しい開発フレームワークによるものだと明かされたのだ。
Apple以外の開発者に公開されるのは来年だが、長期的にこの取り組みを進め、macOS向けアプリの増加につなげることができるならば、iOSのモメンタムを活用した開発者の収益機会増に加え、Macそのものの売り上げ、パソコン市場における存在感を高めることにもつながるだろう。
Appleが訴求しているMac AppStoreの改善も、iOS向けAppStoreの改良を基にしており、その結果に注目したい。Mac AppStoreがソフトウェア流通の中心地になれば、セキュリティ問題などに対する1つの「関所」として機能し、将来的には安全性を担保する根拠ともなり得るからだ。
個人的に最も興味を持ったのは、iOSデバイスとMacをタイトに連動させる「Continuity Camera」だ。このフレームワークを用いると、macOS側からiOSデバイスにリクエストしてカメラ機能をリモートで使うことができる。基調講演のデモではiPhoneで撮影した写真を直ちにMacで表示してKeynoteに挿入する以外にも、ドキュメントスキャナー代わりにiPhoneのカメラを用いてMacのKeynoteに書類の画像を挿入する例などが示された。
MacとiPhone・iPadは、それぞれ利用に適したフィールドが異なるデバイスだ。その「異なるフィールドの製品」が一体化して動作するとしたら、将来に向けて進化の「ヘッドルーム」も広がるだろう。今後、進化する方向性のスタート地点として注目したい。
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