連載
» 2010年05月12日 09時00分 UPDATE

ケータイカメラ進化論:ケータイカメラの付加価値(前編)――きれいに撮るための機能

ケータイカメラの画素数が向上するとともに、よりきれいに撮るための機能も進化。静止画や動画の手ブレ補正機能、オートフォーカス機能、ズーム機能など、デジタルカメラの機能が取り込まれ、ケータイカメラの性能を向上させた。

[平賀督基(モルフォ),ITmedia]

 連載第2回の「画素数競争とケータイカメラの進化」でもお話しした通り、ケータイカメラが一通り普及すると、次は“ケータイカメラでいかにきれいな写真を撮れるか、いかに楽しめるか”が追及されるようになり、画素数競争が始まりました。しかし、画素数の向上だけできれいな写真が撮れるようになるわけではありません。デジタルカメラがそうであったように、ケータイカメラにも画素数以外の機能の向上が求められるようになりました。

手ブレ補正機能で写真や動画をきれいに

 画素数が向上すると手ブレの影響も大きくなり、その対策のために実装されたのが静止画の手ブレ補正機能でした。2005年11月発売の「N902i」を皮切りに手ブレ補正機能が搭載されるようになり、N902iには2軸に対応した補正技術が搭載されたのです。その後、2006年6月には「N902iS」に、モルフォが開発した6軸対応の手ブレ補正技術「PhotoSolid」が搭載されます。6軸とは、横ブレ、縦ブレ、前後のブレ、横の回転ブレ、上下方向の回転ブレ、光軸まわりの回転ブレを指しています。以後はこの6軸手ブレ補正がケータイカメラの静止画手ブレ補正の主流となり、PhotoSolidも多くのケータイカメラに搭載されています。

Photo 6軸の手ブレを補正する「PhotoSolid」
sa_mor02.jpgPhoto 2軸の手ブレ補正に対応する「N902i」(写真=左)と6軸の手ブレ補正に対応する「N902iS」(写真=右)

 デジタルカメラの静止画手ブレ補正機能は光学式が主流であるのに対して、ケータイカメラの静止画手ブレ補正機能は電子式が主流です。その理由には、光学式の手ブレ補正を実現するための機構が携帯電話のサイズや開発コストの面で見合わなかったことが挙げられます。

 光学式の手ブレ補正は、内蔵のジャイロセンサーで手ブレを感知し、補正用レンズ自体か撮像素子を動かすことで光のずれに追従させ、ブレのない撮影をしています。しかし、これをそのまま携帯電話に取り入れる場合、補正用のレンズや手ブレを検知するセンサー、その信号に合わせて動く可動素子を組みこむ必要があるため端末の小型化が難しくなります。その上、部品点数が多くコストもかかることから携帯電話には適していなかったのです。そこで、機械的な機構を必要とせず、組み込み用プラットフォームにソフトウェアとして実装できる電子式の手ブレ補正技術が歓迎されたのです。

より便利に写真を撮れるAFとズーム

 手ブレ補正機能より前に取り入れられた機能にオートフォーカス(AF)機能があります。初めて携帯電話に搭載されたのは2003年11月発売の「P505iS」であり、この端末は130万画素のカメラを搭載していました。当時、マクロ撮影と通常撮影の切り替えは、切り替え用スイッチを使って手動で行うのが主流でした。当時の携帯電話は多くが、近いところから遠いところまで焦点が合う固定焦点レンズを搭載しており、普通に撮影する場合と近くにある被写体を撮影する場合で設定を変更する必要があったのです。しかし次第に、遠くから近くまでのフォーカスを自動で合わせるオートフォーカス対応のケータイカメラを搭載する端末が増え、現在では主流になっています。

Photo 携帯電話で初めてオートフォーカス機能が搭載された「P505iS」

 もう1つ、撮影に便利な機能として挙げられるのはズームです。ズーム方式には光学式と電子式(デジタルズーム)の2種類があります。光学ズームは、画質は良いのですが、光学ズームの機構が複雑で部品のサイズも大きく、携帯電話が分厚くなる傾向があるため、今でもあまり普及していません。デジタルズームはソフトウェアで行うため物理スペースを取らないことから、ほぼすべてのケータイカメラに搭載されています。しかし、拡大するとブロックノイズが目立つほか、光学ズームと比べると画質面で劣るというデメリットもあります。

 一方で、デジタルズームの画質を向上する試みとして超解像度技術があり、ケータイカメラにも採用され始めています。超解像度技術はテレビ向けに先行して開発、製品化された技術で、もともとはDVDなどの古い映像をハイビジョン画質で楽しむために開発されました。

 従来は画像を単純な線形処理で拡大していましたが、現在ではその輪郭をよりはっきりさせるために、非線形処理や色味の調整といった複雑な処理を行うことで、より高画質な拡大を可能にしています。この技術はソフトウェアで実現することができるので、デジタルズームへの応用が期待されます。

Photo 光学式ズームを搭載した携帯電話は、意外にもケータイカメラ発展期の初期に登場しています。初めて搭載されたのは2004年7月発売の「V602SH」。光学2倍ズームに対応した200万画素カメラを搭載していました

 最近ではケータイカメラで、写真のみならず動画を撮影する人も見かけるようになりました。動画撮影はビデオカメラと同様に手ブレの補正が必要です。動画の手ブレ補正機能が初めて搭載されたのは、2005年5月発売の「SH901iS」でした。モルフォでは4軸に対応した動画手ブレ補正機能をMovieSolidとして発表し、2006年11月の「N903i」に搭載されて以降、各社の端末に採用されています。今では標準機能になった動画手ブレ補正機能ですが、機種によってその性能差がかなりあるので、動画をキレイに撮りたい人は購入前にチェックすることをお勧めします。特に、これからはHDでの動画撮影が標準となっていくことが予想されるので、性能差はますます顕著になると思われます。

Photo 携帯電話で初めて、動画の手ブレ補正機能が搭載された「SH901iS」

デジタルカメラはケータイカメラに駆逐されるのか

 このようにケータイカメラの技術はきれいに写真を撮るために、先行しているデジタルカメラの機能を小型化して取り入れたものが多くあります。画素数に始まり、オートフォーカス、手ブレ補正、光学ズームなどはすべてデジタルカメラで磨かれた“きれいに撮るため”の機能です。機能だけを見るとデジタルカメラとケータイカメラは変わりがないように見えますが、いまだにその差は歴然と存在します。デジタルカメラのほうがやはりきれいな写真が撮れるのです。これは光学特性の違いであり、デジタルカメラの方がレンズや画像センサーのサイズが大きく、1つの画素に多くの光量を取り込めるため性能がよいのです。今後も、この差を埋めるのはおそらく難しいと思われます。

 ちなみに、私がある大学で講義を行った際、学生からこんな質問がありました。「ケータイカメラが普及すると、デジタルカメラはなくなってしまうのではないか?」といったものです。しかし、現段階ではその心配はないでしょう。ケータイカメラの登場以降も、実は、デジタルカメラの出荷台数は伸びているのです。

 これはケータイカメラで写真を撮る楽しみを知った人が、デジタルカメラを購入する――という現象が起こったからだと言われています。また、多くの人に聞いたところでは、ケータイカメラとデジタルカメラでは用途が分かれているケースが多いようなので、どちらか一方のニーズがなくなるということは今のところないようです。

 J-SH04の大ヒット以来、ケータイカメラで撮った写真を「写メール(写メ)」と呼ぶことが一般化しています。しかし、デジタルカメラで撮った写真は「写メ」とは言いません。これはデジタルカメラの写真と、ケータイカメラの写真が違うものとして認識されているからです。

 一方、デジタルカメラは運動会や入学式、結婚式など、イベントでの記念撮影や旅行先の撮影で使われることが多いです。記念となる写真はキレイに残しておきたいからでしょう。また、ケータイカメラは日常のスナップショットやホワイトボードに書いたメモを撮るなど、いつでも持ち歩いていることの利便性を生かした使い方が多いのです。そうした意味でもケータイカメラがデジタルカメラを駆逐することはないと思われます。


 次回はユーザーが“便利に撮る”ために付加された最新の機能について触れたいと思います。

モルフォ 平賀督基 プロフィール

 株式会社モルフォ、代表取締役社長。1974年東京都生まれ。1997年に東京大学理学部情報科学科を卒業。2002年、東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻(博士課程) 修了。博士(理学)。

 2004年5月、画像処理技術の研究開発や製品開発を行う株式会社モルフォを設立。2006年6月に静止画手ブレ補正ソフトウェアがNEC製携帯電話端末に搭載されたのを皮切りに発表する製品が次々とカメラ付き携帯電話に搭載され、現在では全11製品が携帯電話端末やサービスに採用されている。2008年に「Dream Gate Award」を、2009年に「Entrepreneur Of The Year Japan」の「Challenging Spirit」部門大賞を受賞。


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