商談に新世紀は襲来するか――フィールズが目指すiPad活用(2/2 ページ)

» 2010年10月25日 10時00分 公開
[山田祐介,ITmedia]
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 取材時には開発中のためアプリそのものを見せてもらうことはできなかったが、試験的にKeynoteで製作した「CRヱヴァンゲリヲン」シリーズの商品紹介を見ることができた。タッチ操作で内容が進行し、会話の中で自然に動画が再生され、迫力ある効果音や音楽、声優の声が流れてくる体験は、確かにiPadならではの魅力といえる。

photophoto 一見すると静止画のカタログのようにも見えるが、画像の枠をタップするとムービーが始まり、遊技機の映像表現がリアルに体感できる

 「画面がきれいで、取り回しもいい。紙を持って説明するような感覚で映像などを見せられる。こうしたことはノートPCでは難しいでしょう。Keynoteでも、映像を組み入れるところまではできますが、アプリではさらにiPadらしいプレゼンテーションができるようにしたいと思っています」――アプリの開発担当者はこのように話す。

 また、iPadはホール経営者との商談だけでなく、商品の企画開発の現場でも活用できる。すでに同社では、商品企画・開発部門や知的財産部門にiPadを持たせ、取引先との打ち合わせに利用しているという。「“こういう商品を作りたい”というプレゼン資料をiPadに入れて、取引先に見せるといった使い方です。先方へのインパクトも強いと聞いています」(伊藤氏)

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 また、「あらたまった場でなくとも自然と見せられる」といった、タブレット端末ならではの取り回しのよさが商談シーンを広げることにも伊藤氏は期待している。展示会場などでの立ちながらの商談も意識して、専用のiPadケースは「あらゆる業務シーンで使いやすいもの」(伊藤氏)に仕上げたそうだ。

 もちろん商品データだけでなく、顧客のデータや地域の競合他社のデータなど、商談で必要になる情報はiPadで閲覧できるようにする。「営業社員の頭の中に全て収まればそれがベストですが、収まりきらないものはiPadでサポートするという考え方です」(伊藤氏)

“一瞬の輝き”にiPadを生かす

 商品別にアプリを作り込むなど本格的にiPadを活用しようとしている同社だが、一方で伊藤氏はiPadで商品の全てを伝えようとは思っていない。商品のキモとなる魅力を伝えて相手の心をつかみ、その後にショールームなどで実物に触れてもらうことで、商品をじっくりと吟味してもらうのが同社の考えだ。

 「弊社の経営陣の中では『iPadに全部を詰め込んではいけない』という意見があります。キラーコンテンツだけを入れて、一瞬の輝きでお客様が商品に興味を持つきっかけを作り出す。そういったことのためにiPadを使うという視点が、iPadの効果を引き出すと考えています。なんでもiPadで取り出せる、見せられると思ってはいけない」(伊藤氏)

 こうした“詰め込まない”という考え方は、同社のiPad活用全体のテーマにもなっている。操作方法が分かりやすく、必要な機能に素早くアクセスできるユーザーインタフェースはiOSの大きな魅力の1つだが、こうした特徴を生かすためにも、「ノートPCの機能の移管」という発想でiPadのソリューションを構築してはいけないというわけだ。あらゆる機能を搭載することでiPadの利用方法が乱雑になることに、伊藤氏は慎重な姿勢を見せる。社内の基幹系へのアクセスも、出先で必要な機能にしぼって専用のアプリを用意することを考えているという。

 伊藤氏はすでに利用できる業務アプリとして、経営データを閲覧できる2つのアプリを見せてくれた。1つは、SAPが提供するBIソリューション「Business Objects Explorer」をiPhone/iPad向けに最適化したSAP公式アプリ「SAP Business Objects Explorer for iPhone」だ。

photophoto 「SAP Business Objects Explorer for iPhone」と「FieldsAIR」

 SAP公式アプリはビジネスデータを検索し、項目別に深くアクセスできるものだが、フィールズでは会社の経営状況をより簡潔に把握するための独自アプリ「FieldsAIR」も用意している。AIRという名前から察しがつくように、もともとはAdobe Airで開発したPC向けソフトウェアの機能をベースにしたものだ。「これだけ見てもらえば、経営状況の大事な部分がさっと分かる。例えば役員が出張している時などに使ってもらえれば」と伊藤氏は話す。FieldsAIRは、内蔵Webブラウザを使って経営データを閲覧するが、iPadではFlashを利用できないためにPC版が持つアニメーション効果などは再現できておらず、こうした点をどう改善するかが今後の課題という。

 またiPad導入を契機に、社内のドキュメントを電子化して一元的に管理するプロジェクトも進めているという。「iPadの活用方法はいろいろとイメージしていますが、やはりiPadのコアは電子書籍と考えています。現在、社内ではマニュアルやマーケティングデータなどをあちこちの部署が保有していますが、それを一元的に見られるライブラリがない。電子化して書類を置く場所をなくし、iPadであらゆるドキュメントを見られるようにしたいと思っています」(伊藤氏)。ドキュメントをiPadで閲覧できれば、営業の外回りで商談用のドキュメントを持ち歩く必要もなくなる。社内のWi-Fi環境であらかじめ必要な書類をiPadにダウンロードし、営業に出かけるスタイルを伊藤氏は想定している。

 春までにiPadのGPSを活用した日報機能を実装する計画もある。「営業社員の行動範囲のログをGPSで取得し、それをすべて本社側で把握できるようにしようと考えています。支店長はそれらのデータを見て行動分析ができますし、営業社員はログを使って簡単な日報を書くことができる。こうした機能はすでにケータイで導入していますが、iPadに統合していく方針です」

研修用端末からジムのトレーニングカルテまで――iPad活用の可能性

 インターネットが普及する前からISDN回線によるパソコン通信を使ってパチンコホールに情報を提供したり、パチンコ情報の衛星放送に取り組んだりと、フィールズでは過去にもITツールに対するさまざまな投資を行ってきたという。「ザウルス(シャープのPDA)が出たての時も、『これで業務を変えるんだ』と経営陣が導入を決めました。ほかにも最新のノートPCを全社に配ったりと、IT投資は積極的にやってきました」と伊藤氏は語る。

 しかしその一方で、「社員がそれらを使い切れていない面があった」とも同氏は振り返る。iPadでは、携帯電話やノートPCで提供してきた業務ソリューションを統合しながら、シンプルな操作性を生かして「社員の業務レベルを高め、目指す営業モデルを作り上げていきたい」という。

 iPad導入に関しては、現場からも期待の声が寄せられているようだ。「社員からは『早く使わせてくれ』という声が届いています。『現場を知っているのは僕たちなのだから、僕らからiPadの業務スタイルを生み出せるはず』と張り切っています」(伊藤氏)

 全社員への配布はまだだが、Wi-Fi版のiPadについてはすでに運用を開始し、人事の業務に利用しているという。「採用の際には、会社のことを十分に理解していない状態で来られる方もいるので、そういうときにiPadで会社を紹介します。業務別の教育プログラムや研修の際にも使っています」(伊藤氏)。そのほかにもグループ企業に導入し、同社が運営するフィットネスジムでトレーニングカルテの表示デバイスとして利用したり、店舗のメニュー表示に活用したりといった構想も伊藤氏は抱いているという。

 iPad活用に関する今後の課題は、まずセキュリティの問題がある。同社は業務用のiPadに6ケタのパスワードと、ExchangeサーバのActiveSync機能を使ったリモートワイプ機能を導入しているが、さらに強固なセキュリティを確保したいと伊藤氏は話す。

 「できればカメラも欲しい」という希望もある。iPadにインカメラがつけば、Wi-Fiネットワークを活用してテレビ電話機能「FaceTime」を利用できると踏んでいるためだ。「支店長以上のクラスにはビデオ会議システムを導入しているのですが、FaceTimeを使ってこうしたシステムを全社員に導入できればいいですね。より近いところでコミュニケーションし、組織や距離の壁をなくしたいと思っています」(伊藤氏)。こうした思いから、FaceTimeが利用できるiPhone 4の業務活用の検討も視野に入れているという。


 映像や音など高度なクリエイティブを駆使する近年のパチンコを見れば、専用アプリを作り込む同社の姿勢もうなずける。また、Keynoteのデータひとつにしても、iPadというメディアに取り込むことで従来と異なる見せ方ができる点は、幅広い業種に共通するiPadの魅力といえるのではないだろうか。マルチメディアコンテンツを駆使したプレゼンテーションはノートPCを介して行うことも可能だが、iPadなら、プロジェクターを用意したりノートPCの起動を待ったりといったさまざまな“おっくうさ”から開放される。そうすれば、より気軽に、より幅広いシーンで、デジタルコンテンツを活用した商談が行えるようになるかもしれない。

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