こだわったのはアプリらしい体験性――FRED PERRYのiPad導入とアプリ展開

» 2010年12月24日 18時00分 公開
[山田祐介,ITmedia]
photo ヒットユニオンの唐沢厚史氏

 1952年にスポーツウェアのブランドとして誕生し、月桂樹のトレードマークで知られるファッションブランド「FRED PERRY」。その直営店「FRED PERRY SHOP 原宿」には、iPadの国内発売と同時期にiPadが導入された。その後、App Storeに公開されたiPhone/iPad向けのブランドアプリは、単なる商品カタログではなく、動画や小説も楽しめる凝ったアプリに仕立てるなど、FRED PERRYではiPhone/iPadをブランディングツールの1つとして積極的に活用している。

 今回は、FRED PERRYを展開するヒットユニオンの唐沢厚史氏(デジタルメディア担当/リーダー)に、iPhone/iPadへの取り組みに対する考えを聞いた。


デジタルなブランディングの“最先端ツール”としてiPadを導入

 唐沢氏は、FRED PERRYがiPad/iPhoneを積極的に活用する背景には、同社のデジタルメディアへの取り組みが堅調に成長していることがあると語る。FRED PERRYはこれまで「雑誌や紙のカタログといったアナログのツールを大事にしてきた」(唐沢氏)が、近年はこうしたものに加えて公式サイトやTwitterでの情報発信や、直営のオンラインショップ、さらにファッション通販サイト「ZOZOTOWN」での販売など、オンライン上での展開にも注力しており、それが順調に伸びているという。

 同社は、動画や音声といったマルチメディアを駆使したデジタルならではのブランディングを図る上で、話題性、そして優れた体験性を提供するツールとしてiPadに目を付けた。米国のiPadにいち早く触れ、2カ月程度で店頭向けのカタログアプリを完成させたという。

photo イギリスの歌手、エイミー・ワインハウスさんとFRED PERRYのコラボでは、スペシャルコレクションを着用したワインハウスさんの写真をスライドショーで展示

 取り組みの最初期は、iPadをデジタルサイネージとして利用すべく、「PDFを取り込んだような」(唐沢氏)シンプルなカタログアプリを開発し、店頭のiPadに組み込んだ。ユーザーが誰でも触れられるようにディスプレイしており、現在では全直営店(23店舗)にWi-Fi版のiPadを導入済みだ。

 最先端のデバイスとコラボレートすることで、新しいことに挑戦するブランドの姿勢を表現するのが同社の狙いであり、iPadやiPhoneの取り組みで即時的に売上を上げることは「現段階では考えていない」(唐沢氏)という。しかし店舗では、ユーザーがWebサイトで見つけたアイテムを、スタッフがiPadのブラウザで検索して確認するなど、販促ツールとしてiPadが役立つケースもあるようだ。また、ブランドとコラボレートしたアーティストのスライドショーを表示するなど、導入当初は想定していなかった使い方も広がっているという。

「ただ並んでいるだけじゃ、Webサイトと変わらない」

photo アプリ「FRED PERRY」

 ファッションにこだわりを持つユーザーと、iPhone/iPadのユーザーとは、親和性があるとも唐沢氏は感じている。「ファッション業界でもiPhoneの所有者は増えている」と唐沢氏は語る。実際、男性誌/女性誌問わず、ファッション雑誌によるiPhoneの特集がしばしば見受けられるようになってきた。

 こうした中で、同社は9月にアプリ「FRED PERRY」をApp Storeに公開。原宿店で提供していたカタログアプリを大幅に進化させ、動画や音声はもちろんのこと、星野源さんの小説を季刊誌「真夜中」(リトル・モア刊)とコラボレートして掲載するなど、ユニークなブランドアプリに仕上げた。

 アプリのコンテンツとしては、季節のコレクションを動画とともに紹介する「STYLE BOOK」、ディレクターズカット版のCMを視聴できる「Movie」、オンラインショップへのリンクを設けた商品カタログ「ITEM VIEWER」、活字作品を掲載する「SHORT STORY」、ブランドの最新ニュースを配信する「NEWS」、そしてGPSを使った近隣のショップ検索も可能な「SHOP FINDER」が用意された。

 ソーシャルサービスとの連携も図り、ITEM VIEWERでは各アイテムの情報をTwitterやFacebookに投稿する機能を設けた。「気に入ったアイテムを、メモ代わりにツイートするといった使われ方」(唐沢氏)をされるなど、徐々に利用の手応えが出てきているという。ソーシャルに対する取り組みは、同社としても今後力を入れていく考えだ。

photo ITEM VIEWERの画面
photo 現在地と連動したショップ検索も可能なSHOP FINDER

 また、同アプリはiPhone/iPadの双方に最適化したユニバーサルアプリとして開発しており、画面サイズの異なる2つのデバイスそれぞれでの使い勝手を追求している。

 アプリの開発で唐沢氏がこだわったのは、「Webサイトの表現から離れること」だ。「単に商品が並んでいるだけでは、Webサイトと変わりません。タッチパネルの操作性を生かしながら、カバーフローや動画の表現などを取り入れて、アプリならではの体験性を目指しました」(唐沢氏)。

 カバーフローひとつにしても、iPadでは動画のサムネイルが常時再生されているなど、スムーズな動作性を損なわずにリッチな表現が取り入れられており、作り込まれている印象を受ける。「単に“とりあえずやった”というものではなく、出すからにはしっかりしたものを作りたいという思いがありました」と、唐沢氏は振り返る。こうした作り込みが功を奏してか、アプリのダウンロード数は唐沢氏の予想を上回る結果になったという。

 しかし、そのこだわりゆえに、アプリ開発では新たな課題も浮かび上がってきたと同氏は話す。待ち時間の発生しないスムーズな体験性を重視し、動画をはじめとするコンテンツの多くをストリーミングではなくアプリ内にあらかじめ組み込んだ結果、アプリの容量が200Mバイトを超える大容量になってしまったのだ。

 「飲み会などでアプリを紹介され、その場でダウンロードできる手軽さもiPhoneアプリが持つ魅力の1つ。こうした手軽さを提供できなかったことが、今回のアプリの反省点です」(唐沢氏)。こうした考えから同社は新たにアプリのライト版も用意し、提供を開始した。ライト版では現状、Movie、NEWS、SHOP FINDERの3機能が提供されている。

 フル版を体験してしまうと、ライト版ではアイテムの閲覧ができないことなどに物足りなさを感じるが、GPSを使ったショップ検索や各種のキャンペーン情報などを素早く入手できるのは嬉しい。大容量アプリの提供方法としては、アプリをダウンロードした後に再度コンテンツのダウンロードを促す手法など、各社がコンテンツの提供方法を模索しているが、フル版とライト版という2つのアプリケーションを展開する方法も、提供するサービスによっては有効に働くかもしれない。

 春夏シーズンにおいても「アプリをブランドの自主メディアの1つとしてしっかり確立していきたい」と意気込む唐沢氏。今後は、既存アプリのバージョンアップはもちろん、雑誌やWebメディアをはじめとする異業種とコラボしたアプリを配信していくとのことで、スマートデバイスを使ったFRED PERRYのブランディングはさらに幅広い展開を見せてくれそうだ。

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